第67話 アレキ・サンドリア伯爵
朝、俺達はアレキ・サンドリア伯爵の屋敷の前にいる。門衛の人にバンガード殿が何やら話していた様だが、今その門衛は屋敷の中へ入っていった。アレキ伯爵に取り次いでもらっているところかもしれない。
「まあ、大丈夫だろう、この俺に任しとけって」
「本当に大丈夫なんでしょうね髭のおっさん」
「まあ、なる様にしかならないですよ、エミリーさん」
「・・・やっぱり私に任せとけばいいのに・・・」
「お嬢ちゃん、ここはバーミンカムじゃないよ、ミレーヌ伯爵の威光は通じないかもしれないじゃないかい」
「そうだけど・・・ご挨拶ぐらい出来るわ」
「そうですねえ、アレキ伯爵の前に来たらエミリーさんにお願いしましょう」
「わかったわ」
「お嬢様、今までのレディとしての教養?の見せ所でございますね、頑張って下さいませ」
「任せなさい、ギャリソン」
しばらくして、門衛の人が戻って来た、何やら慌てている様だ。
「騎士バンガードと御付の者、伯爵様がお会いになるそうだ、急いで向かわれよ」
「な、だから言ったろ、この俺に任しとけって」
「はい、そうですね」
「それじゃあ、行こうかねえ」
俺達はアレキ伯爵の屋敷に入る、屋敷の中は結構広い。とくに成金趣味という訳ではなく、掃除の行き届いた廊下を歩いて部屋へ案内される。
「こちらでしばらくお待ち下さい」
「わかりました」
メイドさんに案内され、椅子に座りアレキ伯爵が来るのを待つ。この部屋は応接室だろう。調度品などは殆どなく、シンプルな感じの応接室だ。
そこへ、扉が開き、一人の男性が入室する。見たところ70代の前半くらいか?
「こりゃあああ! バンガード! まぁたお前はタダ酒をせびりにきおってからに、いいかげん酒場へ呑みに行って金を落としていかんか! この酔っ払いが!」
「ま、まあ待てって伯爵様、今回はちげえよ、ちゃーんと客人を連れてきたんだって」
・・・びっくりした。突然大声で怒鳴られるからなにかやらかしたのかと思った。
「何? 客じゃと・・・お前さんの連れか、見たところ冒険者のようじゃが」
ここでエミリーさんが前に出る。そして優雅に一礼して、姿勢を正す。
「お初にお目にかかります。アレキ・サンドリア伯爵様、私はバーミンカム王国のミレーヌ・ルクード伯爵の娘、エミリエル・ルクードと申します、以後、お見知りおきを」
「なんじゃと、バーミンカムの女帝の娘じゃと?」
女帝? ミレーヌ伯爵ってこの国だと女帝なんて呼ばれているのか。
「ふうむ、それで、エミリエル嬢はこのわしに一体なんの用じゃ、わざわざバーミンカムから来たのじゃ、何かあろうな」
「はい、まずはご挨拶をしに来たまでです、本題はこれから・・・・・・ランディウス、顔を晒して名乗りなさいな」
「はい、お嬢様」
ランディウスは顔の口元の布を取って顔を晒した。
「こ、これは!?」
「久しいなアレキ、2年ぶりか・・・」
顔を晒したランディウスを目にしたアレキ伯とバンガードは、これまで以上にないくらいに驚いている様子だ。
「あ、あなたは、あなた様は・・・王子・・・・・・フレデリック王子殿下ではありませんか!?」
「な、なんだって!? フレデリック殿下だって!・・・こいつはたまげた、・・・まさか知らずのうちにフレデリック殿下を護衛してたとは・・・」
ランディウスは落ち着いた様子で語り掛けた。
「騙すつもりはなかったんだが、色々あってね」
「いえ、滅相もありません、殿下」
「でんかああああ! よくぞ! よくぞご無事で・・・わしは・・・わしは嬉しゅうて・・・」
「すまなかったなアレキ、今まで姿を晒す訳にはいかなかったのだ、まだ安心できる状態ではなかったからな」
「するってえと、まだ命を狙われているってえ訳ですかい? 殿下」
「ああ、そうだ、まだ安心できない」
「殿下のお命を狙う不届き者は我が領地にはおりません、殿下、よくぞご無事で」
「こいつはめでてえ、酒の準備だぜ伯爵様」
「たわけ! それどころではないわ、フレデリック殿下が生きておいでになられたのだぞ、次期国王が!」
「そ、そうだな、浮かれてられねえわな」
アレキ伯は一つ咳払いをし、王子に向き直った。
「殿下、早速で申し訳ございませんが、いい知らせと悪い知らせがございます」
「よい知らせから聞こう」
「はい、ローゼンシル姫がご結婚なさいます、3日後になります」
「そうか、妹はもう15歳か、・・・それで、悪い方のは?」
「はい、その相手がラッセル・ドコスなのです」
「・・・・・・そうか」
「殿下、実に不可解な事なのですが、ローゼンシル様とご結婚された相手の夫が王位に付くという国王陛下の手紙が見つかりまして、このままではラッセルが次期国王になってしまいます」
「その事なのだが、おそらくドコス家の企みであろうな、父上は私を次期国王にといつも言っていた」
「やはりそうでしたか、ドコス家の発言力は王都中に及んでおります、事を起こすのならば急がれた方がよろしいかと」
「ふ~む、そうは言ってもな・・・まさか
「しかし、急いでフレデリック殿下を王都にお連れしなければ手遅れになりますぞ」
「それはわかっているのだが・・・」
「・・・そうじゃ! そこの冒険者! 今まで王子殿下を護衛しとったんじゃろ、モノはついでじゃ、フレデリック殿下を王都まで護衛せんか?」
「え? 我々が殿下をですか、・・・しかし・・・」
エミリーとギャリソンさんを見る。
エミリーは行く気まんまんだ。ギャリソンさんは複雑な表情をしている。そりゃあそうか。この旅はムサイの街までって言っているしな。
「ギャリソンさん・・・その・・・」
「ギャリソン! ここまで来たら
「お嬢様・・・・・・畏まりました、このギャリソン、お嬢様をお守り致します」
「ありがとう、ギャリソン」
「と、言うわけなんだけれども、いいかな、みんな」
「あいよ」
「いいわよ」
「いいですよ」
やれやれ、まだ旅は続くみたいだ。
今度の目的地はザンジバル王国の王都か。
何事もなければいいなあ。
おじさんのんびりしたいよ
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