第64話 コムサイの町
俺達は騎士バンガードを伴って街道を南に進んでいた。コムサイの町までもうあと少しだそうだ。辺りは夕方になり暗くなってきている。
「するってえとお嬢さん方は、バーミンカムから来なさったってえ訳かい」
「ええ、そうよ」
「よく検問を抜けてこられたな、あそこは検問と言っても封鎖に近い感じだったろ」
「ええ、まあ・・・」
「ふ~ん、まあ、いろいろあらぁな、俺が護衛するからにはキッチリやるからよ、安心してくれや」
「髭のおっさん、頼むわよ」
「おう! まかしとけ」
暫く雑談しながら進んでいくと、村の様な町が見えてきた。だけど・・・
「なんだろ、ジロー、何か変だよ」
「どうしました、サーシャ」
「コムサイの町が見えてきたんだけど、何か畑の辺りで煙が上がってるみたい」
「え! 煙!」
馬車の窓から身を乗り出して前方を見る。確かに黒煙が上がっている。
「サーシャ! 見えるか!」
「あ、あれは!・・・ハーピーよ!ハーピーがコムサイの町を襲っているわ!」
ハーピーか、上半身が女性で下半身が鳥の姿をした空を飛ぶモンスターだ。
「どんな様子だ!」
「村の人達が応戦してる! けど、苦戦してるみたい!」
「ギャリソンさん、町の手前で馬車を止めて下さい」
「畏まりました」
「みんな、戦闘になる、相手はハーピーだ! まず馬車を降りて俺とファンナで前衛、中衛はサーシャ、後衛はルビーさんエミリー、ランディウス、ギャリソンさん。サーシャの弓が要だ、頼むよサーシャ」
「わかったわ!」
「ルビーさんは畑の消火を頼みます」
「あいよ!」
「ランディウス、悪いけどエミリーの護衛、剣が使える人を遊ばせておく気はないからね」
「わかりました!」
「皆様! 馬車を止めます!」
「はい!」
コムサイの町の入り口付近に馬車を止めて、俺達は馬車を降りる。
「バンガード殿は馬車の護衛を」
「わ、わかったぜ」
すぐに畑の戦場になっている所まで走る、俺は走るのが遅い。が、そうも言ってられない。みんなはすぐに現場に到着した、ルビーさんが水魔法で火を消していっている。村人達に声を掛ける。
「冒険者です! 支援します!」
「冒険者か、助かる!」
村人達は村の若い衆の様だ。ハーピーに向かって果敢に立ち回っている。みな鋤(すき)や鍬(くわ)などの農具で応戦していた、勇ましいな。
「サーシャ! 狙えるか!」
「やってみる!」
サーシャが弓に矢をつがえて狙いすましている。
「・・・そこ! 狙ったわよ!」
サーシャの弓がハーピーの胴体に当たる。
だが、まだ倒れない。
確実にダメージを与えているけど、ハーピーはまだ空を飛んでいる。
すると突然、方向を変え、エミリー達のいる方へ飛んでいった。
まずい!
「エミリー! そっちにいった! 気を付けろ!」
ハーピーがエミリーに狙いをつけて急襲する。
「させない!」
間に割って入ったのはランディウスだった。
ランディウスはカウンターぎみにロングソードを振ってハーピーの攻撃を避ける。
ハーピーが避けたところへギャリソンさんのレイピアがハーピーの胸を貫いた。
ハーピーはしばらくもがいていたが、やがて動かなくなった。
凄いな、ギャリソンさんがハーピーを倒したぞ。
「お嬢様、お怪我はございませんか」
「ええ、ギャリソン、ありがとう」
「ランディウス様もお怪我は」
「いえ、大丈夫です、凄いですねギャリソンさん、ハーピーをやっつけましたよ」
「いえいえ、昔に比べれば動けていません、寄る年には勝てませんな」
「ジローさん、畑の消火、終わったよ」
「みなさん、お疲れ様です、戦闘終了です」
一応被害は最小限にしたつもりなのだが、どうなっているんだ? なんでハーピーがこんな人里へ来るんだ。まあ、モンスターなんだからだろうが。
村人がこちらへ声を掛けてきた。
「あんたら、助かったよ、俺らだけじゃヤバかった」
「無事でなによりでしたね、それにしても、この町の警護隊はどうしたんですか? 姿が見えないようですけど」
「ああ、この国の軍部を抑えてんのがドコス家の連中さ、俺らはサンドリア家の方の味方してっからな、ここの領主様もサンドリア家の側だからよ、それでドコス家のヤツに警護隊を引き上げさせられたって訳だ」
「そうでしたか」
ドコス家が軍部を掌握、サンドリア家側には警護部隊を置かない事にしている様だ。
思った以上にこのザンジバル王国は荒れている様だ。
ルビーさんが村人と何か話をして、こちらに伝えに来た。
「ジローさん、この町の町長さんが話があるそうだよ」
「わかりました、みなさん、町長さんにご挨拶に行きましょう」
「はい」
「バンガード殿もお疲れ様です」
「お、俺ぁ何もしてねーけどな、わっはっは」
サーシャが伸びを一回、弓を仕舞いながら言った。
「う~ん、疲れた、一休みしたいところね」
「それじゃあ町長さんに会いにいきましょうか」
俺達はまず畑の火消しを徹底してから町の中へと入って行った。
この町の一番大きな家の前で、声を掛ける。
「すみません、冒険者ですけど~」
「は~い、お疲れ様です、どうぞお上がり下さい」
「失礼します」
俺達は大きな部屋へと案内されて町長と面会した。この部屋には椅子がなく、木の床に座布団を敷いてそこに座るようになっている。
「町長さん、お話があるそうですが」
「おや、妖精連れとは珍しい、おっとこりゃ失礼、ワシがこの町の町長ですじゃ、まずはモンスター被害を食い止めて下さり、ありがとうございますじゃ」
「いえ、通りかかっただけですから、お気になさらず」
「今宵はこちらでお食事をご用意いたしますじゃ、寝床も用意させますゆえ」
「すみません、何から何まで」
「な~に、構いませんとも、それで話と言うのは他でもありませぬ、しばしこの町に留まっていただきたいのですじゃ」
やはりそうなるか。警護隊がいないんじゃ戦える人は必要だろうな。
「どうする、ジローさん」
「そうですね、俺達には目的がありますので、そのお話はお受けできません、すいません町長さん」
「そうですか、いや、ご無理を言ったのはこちらですじゃ、せめて一晩泊まっていって下さい」
「はい、お言葉に甘えさせていただきます」
「酒は出るのか?」
「ちょっと、バンガード殿」
バンガード殿は空気を読まない人らしい。
「もちろん酒のご用意もしますじゃ、ほっほっほ」
「やったぜ」
「もう、髭のおっさん、いい加減にしてよね、恥ずかしい」
「いいじゃねえか別に」
こうして俺達はコムサイの町の町長さんに歓待されてうまい飯にありつけたのだった。布団もふかふかだ。寝やすいだろうな、この布団。酒も入ってほろ酔い気分だ、いい夢が見れそうだ。
おじさんはもう寝てしまおう
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