第63話 酔いどれ騎士バンガード
道の真ん中で、酔っ払いが寝ていた。
俺達を乗せた馬車が通行できないので、酔っ払いを起こしてどかす事にした。
「おーい、起きろー」
「う~・・・お前誰だ?」
「冒険者のジローだ、こんなところで寝ていると風邪ひくぞ」
「んあ?・・・俺の愛馬は?・・・どこいった」
「知らないですよ、その辺の草でも食(は)んでいるんじゃないんですか」
酔っ払いをよく見ると、騎士グレンとは違ったデザインのプレートメイルを着ていた。腰にはロングソードを帯剣している、この人、もしかしてこの国の騎士か。さっき任務中とか言っていたな、もしかしたら街道警備任務中かもしれない。
しかし、警備中に酒を呑むとはテキトーな感じでやってるな。近くには酒瓶がころがっていた、酒瓶は空っぽだった。
顔をみると30代後半といったところか、鼻の下に口髭を生やしていて40代に見えなくもない。ダンディーな見た目なのだが、酔っ払っているせいか、ただの酔っ払いのおっさんにしか見えない。
「ほら、起きてください、こんな所で寝てると邪魔ですよ」
「わかった、わかった、・・・どきゃあいいんだろ、まったく、・・・」
酔っ払いは起き上がって口笛を吹いた、すると馬が近くに寄ってきた。この馬がこの酔っ払いの愛馬ってやつなんだろう。
「よ~しよし、いい子だ~」
「あなたはこの国の騎士なのですか」
「ああ・・・そうだよ・・・う~、い、ひっく」
「何でこんな所で寝てたんですか、モンスターに襲われますよ」
「・・・任務ちゅうだって言ったろうが、任務ちゅうだって」
「何の任務ですか、酒呑んで酔っ払っている様にしか見えないのですが」
「お前さんにはわかんね~よ、俺の任務のやるせなさは・・・」
「何かはわかりませんが、とにかく道をどいてくださいね、こっちは馬車で行かなきゃならない所があるんですから」
「んあ?・・・おめーさんらは冒険者か、この辺りはモンスターがいっぱい出るぞ、・・・それに良く見ると貴族用の馬車じゃねーか、誰かお偉いさんでも護衛してんのか」
「ええ、まあ・・・」
まさかフレデリック王子を護衛してるとは言えない。
「・・・う~ん、しょうがねーな、俺が馬車の護衛をしてやるよ、どうせもう酒は空っぽだしな」
「え?、よろしいのですか」
「ああ、かまわねえ、何処までだ?」
「えっと、一応アレキ・サンドリア家がいる街まで行こうかと」
「何?・・・アレキ伯爵の所、・・・てー事はムサイの街までか、それじゃあまずはコムサイの町まで行かないとな」
「はい、そうなのです」
「・・・よーし! わかった、この俺がおまえらを護衛してやるよ、ひっく」
「それは、・・・有難いのですが」
「俺の名はバンガード、騎士だ、よろしくなジロー」
「はあ、よろしくお願いします、バンガード殿」
バンガード殿は馬に乗り俺達の馬車の護衛をしてくれる様だ。俺も馬車に乗り込んで椅子に座る。
「サーシャも乗って」
「わかった」
外に出て警戒していたサーシャを馬車へ乗せる。俺と騎士バンガードのやり取りをルビーさんが聞いて来た。
「どうなったんだい、ジローさん」
「あの酔っ払いの人はこの国の騎士で、名前はバンガードと言うそうです、道中俺達の馬車の護衛をしてくれるそうです」
サーシャが怪訝(けげん)な顔で尋ねてきた。
「私達の護衛? 酔っ払ってんでしょその人、大丈夫なの」
「さあ、一応騎士みたいですから大丈夫なんじゃないんですか」
「この辺りもあまり安全とはいかないだろうし、いいんじゃないかい、護衛してくれるんだろ」
「そうですね、まあムサイの街までですし、いいんじゃないでしょうか」
「この国の騎士って事は一応王族に忠誠を立てているんじゃないの、おっさん、これはいけるかもしれないわよ」
「どう言う事ですか、エミリーさん」
「いざとなったらフレデリック王子の身分を明かして王子の護衛にすればいいのよ」
「う~ん、大丈夫でしょうか? 任務中に酒を呑む様な騎士ですよ、あまり当てにはならないと重いますが」
「皆様、準備の方はよろしいですか」
「あ、はい、ギャリソンさん、お願いします」
「それでは、出発致します」
俺達を乗せた馬車はゆっくりと進みだした。その横を馬に乗ったバンガードが付いて来る。
「いや~、お綺麗なお嬢さん達の護衛をするのはいいもんですな~、おっと、こりゃあ失礼、俺の名はバンガード、ザンジバル王国の騎士だ、よろしく、お嬢さん方」
さっきまで酔っ払っていたのに、もう酔いが醒めている様だ。騎士としてやはり女性を守る事は有意義なんだろうな。
「なんだい、ただの女好きじゃないかい」
「お髭のおじさんはどーでもいーわ」
「髭のおっさん、しっかり護衛してよね」
「み、みなさん。もう少し言葉を優しく掛けてあげましょうよ」
「ファンナは優しいねえ」
「道中の護衛、宜しくお願い致します、バンガード殿」
「おう!まかしとけって」
「それでは、まずはコムサイの町までですな、参りましょう」
なにはともあれ、護衛が付くのは良い事ではある。
この先、何があるかわからないからな。
おじさんもお酒はほどほどにしよう
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