第3章

第43話 伯爵からの手紙




 俺とルビーさんサーシャとファンナは冒険者ギルドの酒場でいつものようにくつろいでいた。


ただし、ルビーさんだけは別だった、何か手紙を書いている様だ。そこへギルドの受付のお姉さんから声がかけられた。


「ルビーさん、お手紙が来ていますよ」


「え~、またかい、これで5通目だよ、もううんざりだよ」


ルビーさんには今日も貴族の子弟から求婚の手紙が届いている様だ。ルビーさんは今もお断りの返事を書いている。何故こうなったかと言うとバルト要塞奪還作戦の時に華麗な踊りを披露したのがきっかけだった。


実はバルト要塞奪還作戦に参加した王国軍兵士達の中に貴族の子息が何人かいたらしく、ルビーさんがオークロードを倒した時のブレイズダンスに見惚れた貴族の子弟がこうして求婚の手紙を送ってくる。


ルビーさんも大変だな、それにしても全部断るつもりなのか。


「ルビーさん、それ全部断るんですか」


「そうだよ、あたいまだ結婚は考えてないからねえ」


「ルビーさんっておもてになるんですね、流石です」


「やめとくれよファンナ、よく知りもしない相手からの手紙に返事を書くのだって大変なんだよ」


「だけどこの手紙は違うみたいよ」


「ちょっとサーシャ、なに人の手紙勝手に読んでんだい、貸しな」


ルビーさんはサーシャが勝手に読んでいた手紙を取り上げた。


「何々、・・・ほう・・・うんうん・・・なるほどねぇ・・・」


サーシャは前のめりになり、ルビーさんに聞いた。


「なんて書いてあったのルビー」


「どうやら仕事の依頼の様だよ、差出人はミレーヌ・ルクード伯爵だねえ」


「え!? ミレーヌ伯爵と言えばマゼランの都の領主じゃない」


領主様からの手紙? ルビーさんは顔が広いのかな。


「ルビーさん、ミレーヌ伯爵と面識があったのですか」


「いや、面識どころか会った事もないよ」


「じゃあなんでルビーに手紙なんか、マゼランの都にだって冒険者ギルドはある筈なのに、どうしてサラミスの街の冒険者なんかに?」


「さあ? 手紙によると代々家宝にしている物が盗まれたらしいんだよ、それを探す手伝いをして欲しいって書いてあるけど・・・」


「受けるんですか」


「詳しい事は何も書かれていないんだよねえ、どうしようかねぇ」


「あら、暇だからいいじゃない、受けましょうよ、その依頼」


「サーシャは簡単に言うねぇ、相手は貴族だよ、しかも伯爵、かなり身分が高いんだよ」


「手紙受け取ったじゃない、断るにしても面倒そうよ、どうするの」


「う~ん、直接会わないとダメなんだろうねえ、・・・まずは話を聞いてからだね」


「行くんですか、マゼランの都へ」


「そうだねぇ、ジローさん、ファンナ、付いてきてくれるかい、あたい等だけじゃ不安で・・・」


「別に構いませんよ、ファンナはどうですか」


「私もいいですよ、Fランクですけど大丈夫ですか」


「特に何も書かれてないから大丈夫だと思うよ」


「よし! 決まりね、マゼランの都まで馬車で二日よね、早い方がいいわ、さっそく行きましょう」


「ちょ、ちょっとサーシャ、あたい手紙を書かなきゃいけないんだから」


「そんなの後々、ほら、いくよ」


街の門の近くにある乗り合い馬車が発着所まで来た。そこでお金を払い馬車が出るまでしばし待つ、マゼランの都まで40G《ゴルド》だ。銅貨4枚を受付に渡して馬車の荷台部分にある座席に座って待つ。外の客も何人かいる様だが、その中に見知った人がいた。


「シスターマリーではありませんか」


「え、あ、あなたは転職の儀の時の、え~と確か・・・」


「ジローと申します」


「そうそう、ジローさん、お久しぶり・・・と言うほどでもないですね、元気でしたか」


「取り敢えずは元気ですね、シスターマリーはどうですか」


「私は元気ですよ、馬車に乗ってるという事はあなた方もマゼランの都へ」


「ええ、仲間の一人が手紙を貰いましてね、その付き添いですよ」


「そうですか、私はマゼランの都の女神教会に用があって、司祭様の代わりに」


「そうですか、ご一緒出来て何よりです」


俺とシスターマリーが話していると、ルビーさんから声を掛けられた。


「ジローさん、そのシスターさんは誰だい」


「ああ、ルビーさん、こちらはシスターマリーさんといいまして、私の転職の儀の時にお世話になった女神教会の方です」


「転職の儀? ジローさん、あんた戦士ファイターだよねえ」


「え~とですね、今はウォーリアにクラスアップしたんですよ」


「「 ええ!? クラスアップ! 」」


「ちょっとジロー、どういう事、私何も聞いてないんだけど、ウォーリアってどーゆー事」


「え~と、ルビーさん達がバルト要塞に行っている間にクラスアップしたんですよ」


「凄いじゃないかジローさん、あたい等と同じ中級職になったんだね、おめでとうジローさん」


「やるじゃないジロー、おめでとう、だけど冒険者ランクFってどういう事、いい加減昇格試験受けなさいよ」


「いや~、今のままが性分に合っているもので、しばらくはFランクでやっていきますよ」


「勿体無いわね、上のランクに上がれば報酬のいい依頼が受けられるのに」


「まだまだ駆け出し冒険者なんで」


少しずつランクを上げていけばいいのだ、無理せずやって行こう。


「馬車が出ますよ~、マゼランの都行きで~す、御乗りの方はお早めに~」


どうやら馬車が出る様だ、忘れ物はないよな。


「それでは出発しますよ~」


マゼランの都行きの馬車がサラミスの街を出て行く、このまま街道を行く様だ。


こうして俺達は馬車に揺られて街道を東へと行くのであった。目指すはマゼランの都、そこの領主様であるミレーヌ伯爵の所へ。




 サラミスの街を出て東へ向かって馬車は進んで行く。


街道を進んでいるのでモンスターは出てこない。街道警備隊がちゃんと仕事をしている様だ。左右を草原地帯に囲まれてのどかな馬車の旅が続く、いい天気だし、ひと眠りしようかな。


「それでは皆さんはミレーヌ伯爵様の所へ行くのですね」


「そうなんだよ、シスターマリー、手紙を貰ってね、仕事の依頼さ」


「手紙の宛先はルビーだけど私達はその付き添いね、冒険者ギルドの依頼って訳じゃないから指名依頼ね」


「伯爵様に指名されるなんて凄いじゃないですか」


「う~ん、あたい面識がまったくないんだよ、それでも依頼の手紙を送ってくるってのがねえ」


「面倒事なのですか?」


「どうなんだろう、詳しくは言えないけど、ほぼ面倒事だろうねえ」


「ジローさん、私達Fランク冒険者ですけど、付き添いで来てよかったのでしょうか」


「一応ルビーさんに頼まれた訳ですから大丈夫ですよ、ファンナ」


「あたいとサーシャだけじゃねえ、どうにも不安だったんだよ」


「何よルビー、私じゃ役不足なわけ」


「あんた、貴族相手にちゃんと話せるのかい、あたいもだけど・・・」


「私エルフ、貴族の事なんか知らないわよ」


「やっぱり、ジローさんに付いてきてもらって正解だよ」


「俺も別に貴族と話せるって訳じゃないですけどね、言葉使いがたまたま丁寧ってだけで」


「あたいもサーシャもガサツだからね、ジローさんやファンナに任せていいかい」


「わ、私もできれば貴族の方とはあまり話せないのですけど」


「と、言う訳でジローさん、伯爵との話は任せてもいいかい」


「俺もあまり得意というわけではないんですけど、何とかやってみます」


暫くして馬車が止まった、辺りはもう暗くなっていた。


「お客さん、ここで野営しますよ」


「あ、はい」


俺達は馬車を降りて街道の脇の草原で休む、バックパックから干し肉とパンを人数分取り出す。


「ちょっと待って下さいジローさん、なんですかそれは」


「どうしました? シスターマリー」


「いいですかジローさん、生きる事すなわち食、そんなありきたりの食べ物じゃいけません」


「ええ? どうしたんですかシスターマリー、急に」


「私が食材を持ってきました、これで料理をします、皆さんも手伝って下さいね」


なんだろう、シスターマリーは食に関して厳しいのだろうか。


「まずかまどを用意してください、ジローさん、手頃な石をいくつか探してきて下さい」


「は、はい」


「ファンナさん、お野菜を切って下さい」


「え、野菜ですか、わ、わかりました」


「ルビーさんとサーシャさんはお水の用意と食器を人数分用意して下さい」


「それはいいけど、シスターマリーは何するの」


「私は火の番をします、魔道具で携帯用のコンロがありますから」


「あら、用意いいわね」


「水はあたいの魔法で出すよ、お鍋の用意しとくれサーシャ」


「はいはいただいま」


「じゃあ俺は石を拾ってきます」


「私、お野菜を切るのは苦手なんですけど」


こうして数十分後、料理を始める事になった。他のお客さんの分も一緒に作ることになった。


「味付けは塩と胡椒だけなのに随分美味しそうな匂いですね」


「キノコのスープを作ります、ファンナさん野菜は?」


「今切ってます」


「お湯が煮立ってきたよ」


「じゃあキノコとお野菜を鍋に入れてっと」


「干し肉も入れるんですよね」


「はい、どうせなら肉入りで」


「う~ん、いい匂い、シスターマリーは料理が得意なんだねえ」


「そんな事ないですよ~、あ、もうそろそろ出来るかな」


美味しそうな匂いのキノコスープが出来上がった。それを木のお椀に盛りつける。馬車に乗っていた他のお客さんの分も用意して、さっそくいただくことにした。


「「「 頂きま~す 」」」


こ、これは、うまい。パンとキノコスープだけのシンプルな夕食だけど食が進む。


ルビーさんはキノコスープを美味しそうに啜りながら、頷いていた。


「おいしい、温かい飯を野宿で食べられるとは思ってなかったよ」


サーシャも美味しそうに食べている。


「ほんとね、あ~おいしい」


「うん、うまくできた、よしよし」


「私も嬉しいです、お野菜を切っただけですけど」


「これはうまいですね」


キノコスープはみんなに好評だ。俺もついおかわりをしてしまった。


「いや~、シスターマリーは料理が出来るんですね。美味しかったですよ」


「お粗末様でした」


「いやいや、これは美味しいよ、あたい等じゃこうはいかないだろうねえ」


「いつもパンと干し肉だからね」


「旅の間の携帯食ならそれでいいんでしょうけど、こういう時はやっぱり暖かい食事ですよ」


「これもシスターマリーのおかげだねえ、ありがとうよ」


「いえいえ」


ふう~お腹いっぱいだ、ちょっと食べすぎたかな。


「「「 ご馳走様でした 」」」


楽しい食事だった、こういうの久しぶりな気がする。キャンプみたいだ。食事を済ませて後片付けをして、俺達は早めの就寝をすることにした。明日も朝が早いそうだ、早めに寝よう。おやすみなさい。




 翌朝、朝食のパンにベーコンとチーズ、葉野菜を挟んだシンプルなサンドイッチを食べた。シスターマリーが作ったというだけでこうも味が違うのか、胡椒が利いていてうまい。


「皆さん乗りましたね、それじゃあ出発します」


乗合馬車の先導さんが出発を告げる、昨日の夜は見張りをしてくれていた様だ。昨日と同じように馬車に揺られて街道を東へと進む、のんびりした風景だ。今日の昼頃にはマゼランの都に到着する予定だそうだ。


「シスターマリーのおかげでマゼランの都までの道のりが楽しくなったよ」


「いえ、私など何も」


「あったかい食事だけでも有難いものよ、エルフの口にも合ったわ」


「そうですよ、シスターマリー、サンドイッチも美味しかったです」


他のお客さんの分もサンドイッチを振舞っていたので、その人達からも評判がよかったみたいだ。


「我々もご馳走になってありがとうございます」


「いえいえ、私が食べたかっただけですから」


「料理は誰に教わったのですか」


「シスターマチルダですよ」


「へえ~、そうなのですか」


「基本的な事はシスターマチルダに教わったのですが、その後は自分で工夫して料理を覚えていったんですよ」


ルビーさんとサーシャが話し合っていた。


「こりゃあ今日のお昼ご飯も楽しみだねえ」


「だけど昼にはマゼランの都に到着するんだよね」


「その時になってからですね」


「残念、まあでもマゼランの都にも食事処はあるからいいか」


「何かおすすめの店でもあるのですか」


「そっか、ジローはマゼランの都初めてなのか、ウッドベルって店がうまい食事を出すのよ」


「ウッドベルですか、楽しみですね」


「ああ、あそこの子羊のソテーが最高なんだよ、ジローさんも食べてみな」


「わかりました、楽しみにしています」


そうだよな旅の楽しみと言ったらやっぱり食事だよな。


俺達は馬車に揺られながらあれこれとマゼランの都までの道のりを行くのであった。馬車の旅は自分で歩かなくていいのが楽だ。座っているだけで目的地まで運んでくれる。




おじさん眠くなってきた









 


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