第19話 ゲイルの決意





 俺とサーシャはサラミスの街の冒険者ギルドに帰って来た。


ギルドの受付カウンターは仕事終わりの冒険者で溢れていた。


サーシャが俺と担いだ木の棒に括られているビックボアを担ぎ直しながら言った。


「混んでるわね、さっさとこいつを買い取って貰いたいんだけど」


綺麗なおねーさんがいる受付は人がいっぱい並んでいる。


「空いてる方にしよう」


比較的すいているおっさんの方の受付カウンターに並ぶ。少しして俺達の番に回って来た。


「すいません、薬草採取の依頼を達成しました、それとビックボアの買い取りをお願いします」


受付のおっさんは手馴れた感じで対応してくれた。


「はい、薬草を見せてください・・・5束ですね、1束20Gで100Gになります」


俺は薬草採取の報酬の銅貨10枚を受け取った。100Gか、1日の稼ぎにしてはいいんじゃないかな。多分・・・


「それとビックボアは買い取りカウンターに持って行って下さい」


「解りました、ありがとうございます」


買い取りカウンターの方に持って行き、解体済みのビックボアを置く。買取カウンター担当のおやじさんに声を掛ける。


「すいません、モンスターの買い取りをお願いします」


「おお、ビックボアか、しかも解体済みとはな。そうだな・・・この大きさだと1000Gだな」


銀貨1枚、薬草採取の報酬の10倍か、確かにビックボアは高く買い取ってくれる。


「お願いします」


「ギルドカードを見せてくれ」


「はい、どうぞ」


俺はギルドカードを買い取りカウンター係のおやじさんに見せる。


「・・・確かに、お前さん達のパーティーがビックボアを倒したようだな」


「へ~、ギルドカードってそんな事も分かるんですね」


「不正が出来ない様にな、・・・ほらよ大銅貨10枚だ」


「ありがとうございます」


そうか、パーティーで分けるように両替してくれたのか。報酬を受け取り、その半分をサーシャに渡す。


「サーシャ、はいこれ、550Gね」


「ありがと」


サーシャに半分報酬を渡して依頼完了だ。



{シナリオをクリアしました}

{経験点100点獲得}

{1BP獲得}



お、久々のファンファーレだ、女性の声が頭の中で聞こえた。


「ジローさん、依頼は終わったのかい」


ルビーさんの声がした、ルビーさんの元へ行く。


「はい、依頼完了です」


「そうかい、初仕事は無事に終わったかい。一緒に飲もうじゃないか」


「はい、ご一緒します、サーシャも飲もう」


「そうね、一緒に飲むわ」


テーブルを囲み椅子に座る、サーシャが蜂蜜酒ミードを注文した。俺はエールを注文する、酒が来る間メニューコマンドを操作する。


まずは(成長)っと、経験点100点使ってLVを4に上げる。1BP(ボーナスポイント)はどうしよう、何に使うか悩み所だ。


ビックボア戦では大丈夫だったが俺は体力が低い、戦士だからもう少し欲しい所だ。・・・よし、体力に1BP使おう。・・・うん、これで体力 4 だ。今一度ステータスを見てみよう。(ステータス)



 LV 4  戦士(ファイター)

 HP12  MP0


 力 3+5

 体力 4

 すばやさ 1

 器用さ 5

 魔力 0

 幸運 2


 ユニークスキル メニューコマンド

 スキル 異世界言語 ストレングス 


 BP0  SP0  経験点30点



少しは良くなった・・・のか?、相変わらず低い。


不意に、ルビーさんがこちらに話し掛けてきた。


「どうしたんだいジローさん、ぼ~っとしちゃって」


「え、ああすいません、少し考え事を・・・そう言えばゲイルさんはまだ見ませんが」


「そうだねえ、何やってんだか」


ちょうどその時、ゲイルさんがやって来た。・・・何だか浮かない顔をしている、どうしたんだ。


「遅かったじゃないかゲイル、どうしたんだい」


「すいやせん、ルビーの姐御。・・・実は話がありやして・・・」


「ん? 何だい、急に改まって」


神妙な面持ちで、ゲイルさんは一度言葉に詰まった様に見えたが、ルビーさんに打ち明けた。


「へい、実は・・・冒険者を引退しようかと思いやしてね」


「ええ? どういう事だい」


「あっしの足の怪我なんでやすがね・・・」


「まさか、そんなに悪いのかい」


「いえ、日常生活には何の問題もありやせん。歩けやす」


「じゃあ、どうして・・・」


ゲイルさんは意を決した様に、俺達に伝えた。


「走れねえんです、戦闘はもう無理みたいでさあ」


「そうなのかい」


「へい、盗賊(シーフ)にとって器用さと足さばきは命でさ。そこを怪我したんじゃもう・・・」


そうだったのか、ゲイルさんの足の怪我はそこまで響いていたのか。


「・・・そうかい、そう言う事なら冒険者は引退するしかないねえ」


「へい、あっしには盗賊の才能はあまり無かったみたいでさ」


「そんな事ないよ、5年間パーティーを組んでたじゃないか」


「ルビーの姐御には世話になりっぱなしでやしたねぇ」


「あんたには十分助けられたよ、これからどうするんだい」


「へい、故郷に帰ろうかと」


「え、あんたまだ若いんだ。ギルドの講師とか色々やりようはあるだろ」


「ダメですよルビーの姐御、足を怪我した盗賊なんて舐められるだけでさ」


「だけど、」


「いいんですよ、田舎に帰って畑仕事でもやりやすから」


ふーむ、ゲイルさんも自分なりに考えて結論を出したんだろう。走れなくなった盗賊(シーフ)は、流石にこれ以上冒険者を続けられないだろう。ゲイルさんの決意か。


「・・・ゲイル、これを持っておいき」


ルビーさんは鞄から何かを取り出し、テーブルの上に置いた。


「何でやすか、・・・こ、これは、いけやせんルビーの姐御、これは・・・」


「浄化の宝珠だよ、持っておいき」


浄化の宝珠か、ゲーム「ラングサーガ」にも出て来たな、確か持っているだけでモンスターなどが寄って来ない効果があるんじゃなかったかな。


「いけやせんって、これは奴隷商に売られていったルビーの姐御の妹さんを買い戻すための資金だったじゃないですかい」


「いいんだよ、何処に売られたか分からないのにこんなの持っててもしょうがないだろ」


「だけどルビーの姐御・・・」


「いいんだって言ってるだろ、あたいの妹は気長に探すさ」


「ルビーの姐御・・・」


ふむ、ルビーさんには妹さんがいたのか。話を聞くと奴隷商に売られていったそうだが。


「この浄化の宝珠をあんたの村の井戸にでも放り込めば、モンスター除け位にはなるだろ」


「・・・ルビーの姉御・・・この御恩は一生忘れやせん・・・」


ゲイルさんはルビーさんに頭を下げ、浄化の宝珠を懐に仕舞った。


「それにしても、そうかい、5年経つのかい。長いような短いような・・・」


「ルビーの姐御、湿っぽいのは無しにしやしょう。すいやせ~ん、エールくだせい」


ゲイルさんは注文し、ウエイトレスのおねえさんは受け答える。


「は~い、ただいま~」


突然のゲイルさんの引退話だったけど、そうか・・・冒険者・・・か・・・。


「さあ、ルビーの姐御、サーシャさんにジローさんも、飲みやしょう」


「そうね、ゲイルの引退とこれからを祝って、」


「「「 乾ぱ~い 」」」


「た、大変だあー!」


何だ何だ。


冒険者ギルドの入り口に街人が駆け込んできた。


「し、子爵様、メンデル子爵様の屋敷にスグ男爵が襲撃してるってよ!」


「ええ? スグ男爵が?」


「ジローさん、あたい嫌な予感がするよ」


「奇遇ですね、俺もです」


俺とルビーさんの台詞に、サーシャが聞いて来た。


「何、どういう事?」


ルビーさんが答える。


「アトラス金貨を売りに行った時にね、妙な感じだったんだよ」


次いで、俺も答える。


「あれはマリオネットシャドーですね、人を操る魔法の」


「マリオネットシャドー?!! 禁呪じゃない! 何やってんの、そんなヤツに売るなんて」


「しょ、しょうがないだろ、その時は気が付かなかったんだから」


「アトラス金貨には魔力が宿ってるからってあれほど言ったのに!」


「まずいねえ、もしかしたらあたい等の所為かもしれないよ」


ふーむ、スグ男爵が暴れているのか、恐らく操られているだけだろうけど。


「どうします、ルビーさん」


「はあ~、・・・行こうか、ジローさん」


「そうですね、行きましょう」


「あっしも行きやすぜ」


「しょうがないわね、手伝ってあげるわよ」


こうして俺達はメンデル子爵の屋敷へと向かう事にした。


子爵の屋敷にはサリー王女もいるはずだ、妙な事になってなければいいのだが。




おじさん、ちょっと嫌な予感がするよ













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