第20話 暴走する男爵
俺とルビーさん、ゲイルさんとサーシャはメンデル子爵の屋敷へと向かっていた。
辺りは夕方になろうとしている。屋敷へと向かう途中、街の衛兵が何人か倒れている、命に別条はなさそうだ。野次馬が何人かいたが特にメンデル子爵の屋敷に行こうとしている人はいなかった。
メンデル子爵の屋敷の門衛はいなかったので庭にそのまま向かった。庭に到着すると既に戦いは始まっていた。
屋敷の入り口辺りにサリー王女がいて、メンデル子爵がサリー王女をスケルトンソルジャー2体の攻撃から守っている。スグ男爵は騎士グレンが相対している。スグ男爵は刺突剣のレイピアをブンブンと振り回している。
「スグ男爵! 目を覚ませ!」
「ぐおおお!」
どうやらマリオネットシャドーで操られている様だ。暴れ回っている。黒の指輪の力で身体強化されているようだ、騎士グレンと互角に渡り合っている。
庭の中央に黒いローブを着たヤツが、コインの様な物を両手で掲げて何かブツブツ言っている。あれはきっとアトラス金貨だ。黒ローブを守る様にスケルトンナイト2体とスケルトンソルジャー4体が庭の中央にいる。
「な、なんでモンスターが街中にいるんでやすか!」
「ゲイル、そんな事言ってる場合じゃないよ、サリー王女! 無事かい!!」
ルビーさんがサリー王女に向けて声を掛けた。
「ルビーお姉様! 来てくれたんですね!」
サリー王女は無事みたいだ、よかった。
「騎士グレン! 状況は」
「見ての通りじゃ! 押されておる!」
「助太刀します!」
「助かる!」
・・・黒の指輪にアトラス金貨・・・か・・・待てよ、何か引っかかる、何だったかな・・・・・・そうだ!! 思い出した! あの組み合わせはマズイんだった。ゲーム「ラングサーガ」でもそうだったじゃないか。
白の指輪と黒の指輪、そして表と裏があるコイン、この場合アトラス金貨か。この組み合わせは光と闇の二面性を持つ、女神エキナの召喚用アイテムだったじゃないか。おそらく白の指輪はあの黒ローブの男が持っているに違いない。
今まで忘れていたなんて、なんて迂闊(うかつ)なんだ。
「助太刀するっても、どうするんでやすかルビーの姐御!」
「ジローさん、作戦は!」
「そうですね、あの黒ローブの動きは絶対に阻止しなくてはなりません、時間との勝負です!」
「どうするの、ジロー!」
「ルビーさんの魔法でスケルトンソルジャー4体を攻撃、俺とサーシャはスケルトンナイトの相手!」
「あいよ!」
「わかったわ!」
「ゲイルさんは合図するまで待機、ルビーさん、氷結魔法は使えますか」
「一応出来るけど、単体攻撃魔法は出来ないよ」
「じゃあ騎士グレンに合図したら氷結魔法で男爵の動きを止めて下さい」
「あいよ」
「ゲイルさんは男爵の動きが止まったら軽業師の技で男爵の右手にある黒い指輪を奪って下さい」
「わかりやした、あっしの最後の腕の見せ所でやすね」
「黒ローブは今はまだ何も出来ません、サーシャが隙を見て矢を射かけて牽制ぐらいですね」
「わかったわ」
LV4でスケルトンナイト2体の相手か、キツイな。
「それじゃあ、いくよ! 炎よ、焼き尽くせ! 《ファイアーストーム》!」
スケルトン共をナイトごと魔法で巻き込む、流石ルビーさん。
スケルトンソルジャー3体を倒す。
砂粒に変わる所を見るとやはり召喚魔法で呼び出されたか。
ゲイルさんが残った1体のソルジャーをナイフで投擲、頭に当たりソルジャーを倒す。
俺も前に出てスケルトンナイト2体の相手をする。
サーシャは遠距離からスケルトンナイトと黒ローブに矢を放っている。
俺はスケルトンナイトの攻撃を盾で防ぐ。
「いて!?」
後ろからもう一体のスケルトンナイトが攻撃してきた。
ダメージいくつだ、2、残りHP10。
騎士グレンの様にシールドバッシュをしてみる。
当たらない! 経験の差か。
ショートアックスを握り込み、力の限り振り下ろす。
スケルトンナイトの盾で防がれる。
また後ろから攻撃される、ダメージ2、マズイ! HP8。
「そこ、狙ったわよ!」
その時、突然スケルトンナイト1体が砂粒になって崩れ落ちた。
その場を見るとスケルトンナイトの頭に矢が刺さっていた。
「サーシャ、助かる!」
「いいって!」
これで1対1だ、鉄の盾を構え直す。
スケルトンナイトの攻撃を盾で防ぐ、返す刀でショートアックスを振り下ろす。
当たった、よし、少しダメージを与えた。
スケルトンナイトの攻撃、しまった! 盾を弾かれた。
バランスを崩した所に剣が振り下ろされる。
「ぐッ」
ダメージ2、残りHP6、キツイ。
このままじゃダメだ、怖がってちゃ。
盾を構える、もう一歩踏み込んでシールドバッシュを叩き込む。
当たった、スケルトンナイトが大きく体勢を崩す。
「いくぞ!」
スケルトンナイトの頭部に、ショートアックスを渾身の力を込めて振り下ろす。
頭に命中、スケルトンナイトの頭を砕いた。
スケルトンナイトが砂粒となってその場に落ちた。
よし! 今だ!
「騎士グレン! 一旦離れて!」
「わかった!」
「ルビーさん!」
「あいよ! 氷よ、吹き荒れろ! 《アイスストーム》!」
スグ男爵の近くで氷の嵐が吹き荒れる、スグ男爵の足元に氷が張り付いた。
「ぐおおお!?」
スグ男爵の動きが鈍った!
「ゲイルさん!」
「へい!」
ゲイルさんがスグ男爵のすぐ側を素早く通り過ぎる。
ゲイルさんの手に指輪が握り込まれていた。
「こんな物、あんたにゃ必要ないでしょ」
その瞬間、スグ男爵は気を失った様にゆっくりと倒れ込んだ。
「よし、後は」
「チッ、使えん奴め」
黒ローブの男はフードを目深に被っているが、声からして間違いない。
「確か・・・バインダー・・・だったっけ、お前、女神エキナを呼び出してどうするつもりだ」
「・・・フッ、そこまで気付いたか。だがもうすぐだ。大人しくしていろ」
「大人しくするのはお前だ、闇の崇拝者」
ゲーム「ラングサーガ」でも出てきた闇の崇拝者という組織がある、戦場の裏で色々と暗躍している連中として描かれていた。まさか、こう言った連中もこの世界にいるとはな、奥が深そうだ。
「くっくっく、もう間もなくだ」
こいつはヤバい、アトラス金貨が怪しく光っている、召喚の儀式は最終段階に入っているみたいだ。急がないと手遅れになる、ここからじゃ走っても間に合わない、どうする、何かないか。
自分の体中をくまなく手探りして、腰ベルトに差した武器があることに気が付いた。・・・あった、これだ!ハンドアックス、手斧のもう一つの使い方。
「いっけえ!」
俺はハンドアックスを投擲した、狙いはアトラス金貨。
頼む、当たってくれ!
カキンッ
よし、命中した、TRPGなら6ゾロだったな。
そのままアトラス金貨は地面に落ちた。白いモヤの様な煙が大気中に霧散した、たぶん溜まっていた魔力だろう。
「よし、やったぞ!」
「なんだと! バカな!!」
これでアトラス金貨はただのアトラス金貨になった。
「皆! あの男を取り押さえろ!」
そのあとすぐにバインダーを4人がかりで取り押さえた。
「クソッ、」
ゲイルさんが道具袋からロープを出してバインダーにお縄を頂戴させた。
ふ~やれやれ、これで何とかなったな。
「すまないね、おじさんだって決めるときは決めるよ」
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