第5話『思い出の欠片』

〈陽向、お見舞いに来たよ。最近学校に来ないから、どうしたのかなって〉


「えっと、ごめんなさい」

〈ん?なんで謝るの?〉


「誰ですか?」


〈え?冗談はやめてよ〉

「本当に、わからないです……」


いつから病院のベッドにいるのか。

何故彼女が泣いているのか。


〈陽向……〉


〝ジリリリリッ〟


「んー」

〈……〉


〝ジリリリリッ〟

〝ジリリリリッ〟


〝ピッ〟


寝ぼけながら体を起こし、スマホを覗く。


「7時22分か」


顔を洗った後、朝ごはんを食べにリビングへ向かう。


「おはよう、今日は随分と早起きなのね」

「うん、お母さんこそ早起きだね」

「そうね、今日は用事があるのよ。朝ごはん置いておいたから、食べてね」


そう言って、母はさっさと行ってしまった。


「いただきます」


朝ごはんを食べ、学校への支度を進める。眠りが浅かったからか、あくびが止まらない。


〝ガチャ〟


家の鍵を閉め、歩き出す。なぜ急に呼び出されたか、部活動はどうしようか、あれこれ考えているうちに学校に着いた。


「とりあえず教室に行くか」


いつもは騒がしい学校も、週末には足音すら響き渡る。外で練習している部活動のかけ声も耳に届いた。


「蒼も菜乃花も頑張ってるんだな。俺もサッカー部に入れば良かったのかな」


運動部の声が響く校舎内を歩いていると、少し2人が羨ましく思えた。そんなことを呟きながら、教室のドアを開ける。


「――え?」


誰かの声がした。その方向をみると、絢芽が1人ポツンと席に座っていた。


「陽向、来るの早いよ」

「え、ちょうど9時くらいだけど」

「LIME見てくれた?」

「LIME?」


ポケットに手を入れる。しかし、スマホがない。鞄の中も探したが、見当たらなかった。


「ごめん、スマホ家に忘れた……」


絢芽は少し笑っていた。


「そっか、じゃあついてきて」

「どこにいくの?」

「写真部だよ」


そういうと絢芽は立ち上がり、晴れやかに笑ってみせた。その表情はどこか希望に満ちていた。


「ここが写真部の部室だよ」

「なんか、すごい年季が入ってる感じがする」

「これでも綺麗に掃除したんだよ?なんか落ち着くんだよね。この部室にいると」


椅子に腰掛け、あくびをする絢芽。それにつられてか、気づけば自分もあくびをしていた。


「眠いの?」

「うん。最近、長い夢ばっかり見るから、ちゃんと寝れてる気がしなくて」

「どんな夢?」

「1人の少女が、いつも泣いている夢だよ」

「どんな子なの?」

「えっと、ロングヘアの――」


〝バタンッ〟


背後のドアが急に開く。咄嗟に振り向くと、1人の女子が立っていた。


「絢芽ー!遅れてごめんねー!」

「先輩!」

「あれ?この子が絢芽の言ってた子?」


目をぱちぱちさせ、こちらをまじまじと見てくる。


「ふ、福寿陽向です!」

「男子だったの!?陽向って女の子じゃないの!?」


動揺しながら、絢芽に詰め寄る先輩。静かで落ちついた部室だと思ったのは、最初だけだった。


「そうだったんだー!てっきり女の子かと思ったよ」

「だから男子だって言ってるじゃないですか!」

「あれ?言ってたっけ?」

「もう……はやく陽向に伝えてください」

「そ、そうだったね。それじゃあ」


さっきまで騒がしかった先輩が一転、真剣な表情かおをして見つめてくる。そのギャップに思わず息を呑んでしまった。


「陽向君、ここにサインをして欲しいんだ」

「は、はい」


渡されたボールペンを握り、何の躊躇もなく名前を書き入れる。


「よし、これで今日から君は写真部だ!」

「え!?」

「あ、もう変えられないからな!これは絢芽の意志だ」

「そんな!どういう……」

「―—ごめんね」


絢芽の口が開く。


「陽向……よろしくね!」

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