第4話『連絡』

帰りの学活を終えて皆が帰り始めた時、朝の絢芽の言葉が気になり絢芽に話しかけた。


「あの、さ」

「ん?どうしたの?」

「聞きたかったんだけど」

「うん」

「えっと……」


哀しげな表情を思い出し、なかなか言い出せない。すると、絢芽の方から口を開いた。


「あ!1時間目のノート写したいよね!待ってね、見せてあげる」

「えっ……あ、ありがとう」

「はい、貸してあげる。次の授業までに返してね!」

「うん、明日返すよ!」

「今日は金曜日ですよ〜?」

「あ、そっか!じゃあ月曜日返すね」


絢芽は笑いながら頷いた。

俺は渡されたノートをそっとカバンにしまった。


「じゃあ私、帰るね」

「うん、ありがとう」


軽く手を振り合い、絢芽は教室を出ていく。

結局、あの言葉について聞き出せず、心にモヤモヤを抱えたままその日は帰宅の足を進めた。


「どういう意味なんだ……」


帰り道を歩きながら、スマホを開く。

画面には〝不在着信〟の通知が残っていた。


「不在着信?誰だっけな」


 LIMEを開き、送り主を確認する。


「あっ、そうか」


そういえば、今日の朝は立花の着信音に起こされた。今朝はうるさいなと思っていたが、今考えれば隣の席とはいえ、こんなに気を使ってくれるなんて……立花、まさか俺のこと――


「ういぃ〜!」

「うおぁ!?」


突然両肩に重い感覚が走る。


「久しぶりだな!最近どうよ?」

「んだよ、蒼か」


さっきまで高揚していた気持ちが一気に冷める。


「俺で悪かったな。で、クラスどんな感じ?」

「普通だよ」

「そうか、そんなもんだよな」


何が起こることも無く、時間だけが過ぎていく。中学校での生活が充実していたからか、高校生活に退屈していた。


「蒼は楽しいんじゃないのか?」

「まぁ部活はな!クラスは普通よ。陽向は何部だっけ?」

「俺はまだ決まってないよ」

「じゃあ、サッカー部来いよ!」

「どうしようかなー」


帰り道、モノクロの日々に少し色がついた。

久しぶりの同級生との話で盛り上がり、気がつけば日が暮れていた。


「じゃあな〜!」


自宅近くの交差点で蒼と別れたあと、真っ直ぐ自宅へと向かう。馴染みのある帰り路は葉桜に包まれ、春の終わりを感じていた。


「あ、そういえば」


昨晩のことを思い出し、再びLIMEを開く。


「寝落ちしちゃったから、絢芽からきてたLIME見てなかったな。えーっと……?」


〝ねぇ、部活動何部に入るか決めた?〟

〝(部活動一覧表の写真)〟


「部活、中学の頃はどうやって決めたっけな……思い出せないな」


中学時代、サッカー部に所属していた事は覚えている。幼なじみの蒼や菜乃花とかけがえのない時間を過ごし、人生で最も青春をしていた、黄金期だった。しかし、入部時の記憶がどうしても思い出せなかった。


〝まだ決まってないな〟

〝絢芽は何部に入るか決まってるのか?〟


スマホをしまい、玄関ドアに手をかける。


「あれ?鍵が空いてる。ただいまー」

「あら、おかえり」


そこには、帰省から帰ってきた母と、たくさんのダンボールが置いてあった。


「あれ!今日帰ってくるんだったっけ?」

「今朝、連絡入れたでしょ?」

「そうなの?……ほんとだ!」


今朝は通知ラッシュと絢芽の着信に起こされたからか、母からの通知に気づけなかった。


「そうそう、その荷物整理しておいてくれない?お土産も入ってるからさ」

「お土産!今年は何かな」


毎年、この時期に帰省する母のお土産は小さい頃から楽しみにしていた。


「あれ?この押し花は?」

「あぁ、それ?福寿草だよ。高校入学おめでとうって作ってくれたのよ」

「そうなんだ」


その後も黙々と荷物整理を進める。すると、ダンボールの隙間から、また1枚の花が出てきた。


「これは……?」

「あら、何?その花は。それは私も聞いてないわね」

「綺麗な紫色してるよ」


北海道にいる母方のお婆ちゃんは押し花がすごく上手で、小さい頃はよく一緒に作らせてもらっていた。その頃は、花の名前はひとつも覚えられなかったけど。


「荷物整理終わったよ」

「ありがとう、ところで学校は順調なの?」

「まあまあかな」

「部活はどうするの?」

「まだ決まってないよ」


中学時代はサッカー部の遠征や合宿で母には色々と苦労をかけた。高校はのびのびと趣味に当てられる時間を増やして、家事の手伝いもしたいと考えている。


「部活どうしよっかなー」


絢芽から送られた部活動一覧表を見ながら考える。

すると、写真部が薄く丸で囲ってあるのに気づいた。

その時――


〝ブブーッ〟〝ブブーッ〟


 LIMEから、着信画面に変わる。


「絢芽……?」


 慌てて部屋のドアを閉め、着信に出る。


「もしもし、急にどうした?」

「――明日の朝、9時に学校に来て!」

「明日!?明日は」


〝プツッ〟


「え?」



あまりにも唐突な出来事に驚き、しばらくボーッとしていた。



「陽向、夜ご飯できたわよ」

「は、はーい」


この日は夜ご飯を済ませた後、お風呂に入り、すぐに布団に入った。


「何の用事だろう?」


目を瞑りながら考えていると、ひとつの結論が浮かぶ。


「……ノート!借りたまま書いてないぞ!」


〝LIME〜♪〟

〝1件の未読メッセージがあります。〟


〝ごめん、やっぱり9時半に来て!〟

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