第3話『シグナル』

〝ジリリリリッ〟

「んー……」

〝LIME〜♪〟

〝LIME〜♪〟

〝LIME〜♪〟

〝LIME〜♪〟

〝LIME〜♪〟

〝LIME〜♪〟

〝LIME〜♪〟


「んっ……うるさいな!」

激しい通知ラッシュが耳につく。すぐにスマホをマナーモードにしようとするが、辺りを探してもスマホが見当たらない。


「あれ……あっ」

探すことを諦めた瞬間、背中に違和感がした。


〝ブブーッ〟

〝ブブーッ〟


スマホの振動と着信音が骨に響く。


「あった!」

背中の後ろに手を回し、スマホを拾い上げた。


〝不在着信 1件〟


「えっ……?」

その通知と同時に 数字が目に入る。

「9時31分!?」

一気に血の気が引いた。そして気づけば猛ダッシュで部屋に戻り、学校への支度をしていた。

「ヤバイヤバイヤバイヤバイ……」

完璧な遅刻である。ヤバイなどと言いながら自分自身を急かしていた。


「行ってきます……って、寝てるよな」

そう言って玄関ドアの開けようとした時、取手に掛られた一つの手提げ袋が見えた。


『お弁当持っていってね。by姉』


泣いた。今でこそあんなに爆睡しているが、関係ない。並の男ならこの行動一つで落ちている。


「行ってきます!」

感謝の意味も込め、もう一度、挨拶をしてからドアの鍵を静かに閉めた。


「おはようございます……」

「おお、来たか。職員室で遅刻カードをもらってきなさい」


荷物を席に置いた後、速やかに職員室へ向かった。


「福寿……陽向君。初めて?」

「はい、初めてです」


そう言うと、新品の遅刻カードとボールペンが手元に置かれた。


「今日の日付と、簡単に遅刻理由を書いてね」


黙々とペンを進めた。5月23日、寝坊。


「すみませんでした」

「はい、じゃあクラスにいる先生に渡してきてね」


とても恥ずかしかった。と言うのも委員会決めで、俺はクラス委員になっていたからである。しかもクラス1人目の遅刻が俺……。


やってしまった。とボーッとしながらクラスへ戻る。まだ授業中だったため、開けた扉の音に数名が振り返り、無機質な視線を感じた。


「お願いします」

「寝坊ね。これからはしないように」


俯きながら足早に席へ戻った。すると、隣の席から声がかかる。


「電話、気づいた?」

「え?」

「かけたんだよ?電話」


絢芽がコソコソ話しかけてくる。電話?全力疾走してきた後で頭が回っていなかったため、なんの事だかさっぱり分からなかった。


「1時間目から居なかったから 寝てるんじゃないかなって思って」

「あぁ、そう言えば着信来てた!」

今朝のことを思い出し、絢芽に伝えるとクスッと笑った。


「変わらないね、陽向は」

「え、どういうこと?」

「ううん、なんでもないよ」

「『変わらないね』ってどういう……」


〝キーンコーンカーンコーン〜♪〟


言いかけた途中、絢芽はチャイムと同時に立ち上がり教室を出ていく。


「立花……?」


その表情は、何故か哀しげだった。

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