第1話『新しい日常』

“人が見る夢は生活の中での記憶、感情を正しく処理する整頓の役割をもっているとされている。


しかし夢というものは三日前の晩御飯が思い出せないように、すぐに忘れてしまうものが大半だ。

では、覚えている夢の特徴はなんだろうか?


それはインパクトが強かったり、ネガティブなものが多い。夢の中に限らず、起きている間もこのような記憶は残りやすい。”





「な〜に読んでるのよ」

聞き馴染みのある声と視線を横から感じる。

「最近、よく夢を見るようになったんだけど」

「私もよく見るよ?授業中にねっ」

「いや授業中はしっかり集中しろよ……」

最近、毎日のように放課後になると教室に来る。特に何かした記憶はない。

「だって〜眠いんだもん」

「それはわかるけどさ」

「この前なんて超巨大プリンをずっと食べる夢みたし!」

「え!?」

今読んでいる本に書いてある通りだ。好きな食べ物が、それも超巨大な状態で夢に出てくるなんて。インパクト強すぎだろ。

「それとね〜陽向が……」

「菜乃花〜!」

彼女を呼ぶ声が放課後の教室に響く。本名は黄咲きさき 菜乃花なのか。気さくで明るく、昔っから表裏のない、〝単純〟の一言で括れる幼なじみ。

その性格故、他クラスとの交流も無難にこなす。


「ごめん、そろそろ帰るね?」

「ちょっ、続きが気になるんだけど!」

「ごめん!また今度話すね〜」

こちらに笑顔で返した後、呼び止める隙もなく教室の扉が閉まった。

ガラス越しに映る笑顔を見るからに、順風満帆な学園生活を送っているようだ。


「……帰るか」

身支度を済ませ、扉を閉める。空っぽの教室にかかる夕陽に懐かしさを感じながら。

下駄箱へ向かい、帰宅への歩みを進めていた。そして、部活動の熱心なコールを背に、校門を――


「陽向!陽向〜!」

熱い陽向コールが耳に付く。さすがにここで振り向かない程、無情ではない。

「ん、あぁ。なんだ蒼か」

「なんで少し残念そうなんだ?」

「いや、なんで声掛けてくれる人がカワイイ女の子や彼女じゃなくてお前なんだよ!って思っただけだよ」


高校へ上がれば自然と彼女が出来る。誰だ?そんなこと言った輩は。嘘であるということをこの3年間で反例となって真実を教えてやる。


「そんなことかよ!俺だっていないさ」

「そんな熱心に部活動してればすぐにできるだろ!羨ましい」

「いや出来ないんだけどね……ハハ」

真霞まがすみ そう。昔から運動神経がよく、中学時代も部のエースだった。活発で、少しアホっぽいというかドジというか。決して悪いやつでは無い。人情家で正義感あるクラスに1人は必要な存在だ。

「向こう、ミーティングじゃないのか?」

「やべ。また明日な!」

仲間のいるグランドへ走っていく。そんな背中を見て勝手に青春を感じていた。


軽く振った手を下ろし、止めた歩みを再び進める。特に何もイベントなど起きない、平凡な日々だ。


変わった事と言えば入学時、隣の席にいた子とLIMEが繋がっている。立花たちばな……絢芽あやめだったかな、薄紫の髪に透き通った肌。絶対的にカワイイんだけど、あまり主張はしない。いや、出るとこ出てるけど。


「いや、なんでLIME持ってんだよ……」

今考えると有り得ないことだ。会話の接点だって無かった。何故、彼女はこんなにも仲良くしてくれるのか、考えるだけ無駄だ。きっと誰にでもそうしてる。

とか思いつつ通知来たらすぐ返信しちゃうんだけどね。知るか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る