第3話

 ある日、ピアとバルは、いつものように狩りに出かけました。ぶなの森へ行き、イノシシのとおり道の近くで、木のかげにかくれました。そして、少しも動かずにじっとして、息をひそめながら、イノシシがやってくるのをまっています。


 はなれたところで、小さなウサギがぴょこんと顔をだしました。前のバルだったら、ウサギに気を取られて、そっちの方へかけ出していたかもしれません。でも、今のバルは、ピアの教えを守って、りっぱなかりゅうどになっています。ウサギには気を取られずに、イノシシがくるのをじっとまちました。


 じめんが小さくゆれて、ド、ド、ド、と音がきこえてきました。

「きた!」

 イノシシがドッドッドッドッと、遠くのほうからすごいはやさで走ってきます。

 ピアはふかく息をすいこみます。しずかに弓をかまえると、イノシシにめがけて矢をはなちました。

 ヒューゥゥゥゥゥ

 矢は音をたててとんでいき、イノシシにめいちゅうしました! そして、ドシン! と大きな音をたてて、イノシシはたおれました。

「やったぞ」


 バルは、イノシシがたおれたとたん、すごい速さでかけよりました。そしてイノシシのそばでとまると、「バル! バル!」と大きくほえました。イノシシは、もう目をとじています。バルはイノシシの横に、見はりのように立ちました。


 ピアは、ゆっくりと歩いてやってくると、バルの頭をなでました。それから、たおれたイノシシを、じっと見つめました。

「りっぱなイノシシだ。ゆるしておくれ」

 ピアは、イノシシのたましいが、山のかみさまのところへ帰っていけるように、おいのりをしました。バルはうなだれて、いっしょにおいのりをしているみたいでした。


「では、家に帰るとしよう」

 ピアは、イノシシをせなかにかつぎました。バルはピアの前に出て、いっしょに帰り道を歩きはじめました。


 ぶなの森をぬけて、川のところにやってきました。ピアとバルは、川の水をのんで、ひと休みしました。遠くで、キツネの親子も水をのんでいます。

 ピアとバルは、また歩きはじめて、リスがたくさんすんでいる、ならの森をとおりました。リスたちが、イノシシをかついだピアとバルをながめています。


 そのときです。

 ふいに、バルがウウウッとうなり声をあげました。すると、やぶのうしろから、五ひきのオオカミがすうっとあらわれて、ピアとバルの前に立ちふさがったのです。ピアとバルは立ちどまりました。オオカミたちは、ピアとバルに向かってウウウッとうなっています。バルがせなかにかついでいる、イノシシをねらっているようです。バルもウウウッとうなり、しばらくのあいだ、オオカミたちとにらみあいました。


 そのうち、バルはウウウッとうなるのをやめました。そして、オオカミたちの前にすっと進みでました。それから、せなかをピンとのばすと、ひと声「バル!」と大きくほえました。

 その声をきいたオオカミたちは、ウウウッとうなるのをやめました。そして、かなわないと思ったのか、ピアとバルのほうにせなかを向けて、にげていってしまいました。


 オオカミたちがいなくなってしまったのに、バルはいつまでも、オオカミたちがにげていったほうを見つめています。バルは、かなしそうな顔をしています。

 ピアは、そんなバルのようすをじっと見つめてから、こう言いました。

「バル、もしかしてあのオオカミたちは、おまえのなかまだったんじゃないのか」

 バルはだまったままで、かなしそうな顔をしていました。

「そうか。わたしを助けてくれたんだな。ありがとう」

 ピアはバルをしっかりとだきしめました。それから、みんながまっている家に帰っていきました。

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