第2話

 次の日の朝、ピアはおきてから、家のまえをながれる小川で顔をあらいました。と、そのとき、近くになにかがいるような気がします。あたりを見ると、森の入り口のところにオオカミがいました。オオカミは、遠くからじっとピアを見つめています。ピアもしばらくのあいだ、オオカミをじっと見つめました。


 おかあさんのミアと、モンとタンも、顔をあらいに小川へやってきました。そして、オオカミがいることに気がつきました。

「おかあさん、こわいよ」

と言って、モンはなみだをうかべます。

「おかあさん、おかあさん」

と言って、タンはミアにしがみつきます。

 二人とも、ピアといっしょに狩りに出かけて、オオカミにおそわれたことがあるのです。

「だいじょうぶよ。遠くにいるのだから」

と、ミアはやさしい声で言いました。


「ふむ。きのうのオオカミだな。またおなかがすいているのかもしれん」

と、ピアはひとりごとを言ってから、

「イノシシの肉がのこっていたな。少しもってきてくれないか」

とミアに言いました。


 ミアは家の中からイノシシの肉をもってきて、ピアにわたしました。ピアはイノシシの肉をもって、オオカミに近づいていきます。

「ピア、気をつけてね」

 ピアはふりむいて、ひげもじゃの顔をゆさゆさゆらしながら、にっこりわらいました。それから、オオカミのまえに、イノシシの肉をほうりなげました。

「ほら、こいつをもっていきな」

 オオカミはしばらくにおいをかいでから、肉をくわえました。そして、ピアのほうをときどきふりかえりながら、森へ帰っていきました。


 ミアとモンとタンは、オオカミがいなくなったのでホッとしました。

「もうこないだろう」

とピアは言いました。ミアとモンとタンは、あんしんして小川で顔をあらいました。


 その次の日の朝、ピアはおきてから、また家の前をながれる小川で顔をあらいました。そして頭をあげてふと見ると、森の入り口のところにまたオオカミがいました。今日は一ぴきだけではありません。おとなのオオカミがもう一ぴきと、こどものオオカミが二ひきいました。


「おやおや、家族をつれてきたのだな」

とピアは言いました。

「おーい、みんな見てごらん。今日はオオカミが、家族できているぞ」

 ミアとモンとタンも外に出てきました。そしてこどものオオカミを見るなり、

「わあっ、かわいい!」

と声をあげました。

「ねえ、おとうさん、ぼくも肉をあげたい」

とモンが言います。

「ぼくも、ぼくも」

とタンが言います。

「よし、おとうさんといっしょに、肉をあげてこよう」

 ピアとモンとタンは、いっしょにオオカミのいるところへ近づきました。そして、少しはなれたところから、オオカミの家族の前に、肉をほうりなげました。

 オオカミたちはしばらくにおいをかいでから、肉をくわえました。そして、ピアとモンとタンのほうをときどきふりかえりながら、森へ帰っていきました。


 その次の日になると、オオカミたちはもっとピアの家に近いところまで、やってくるようになりました。そして、日に日に近くまでやってくるようになって、とうとう肉をあげても、森へ帰ろうとしなくなりました。


 モンとタンは、オオカミのこどもに手から肉をあげるようになりました。オオカミのこどもは食べおわると、モンとタンの手をぺろぺろとなめます。モンとタンは、オオカミのこどもをだっこしました。そしてすっかりなかよくなり、モンとタンは、オオカミのこどもと、かけっこをしてあそぶようになりました。


 おとうさんオオカミは、ピアが狩りに出かけるとき、いっしょについていくようになりました。ピアが矢でしとめたえものにかけよって、ピアがくるのをまったり、口にくわえてピアに持ってきたりします。ピアよりも早くえものを見つけて、あいずでおしえてくれるときもあります。ピアはいつもオオカミの頭をなでて、ほめてあげます。

「おまえの名前は『バル』にしよう。いつも『バル! バル!』とほえるからな」

 こうしてピアは、オオカミにバルという名前をつけました。おかあさんは『バラ! バラ!』とほえるのでバラ。こどものオオカミはブンとボンになりました。


 バルとくらすようになってから、夜にけものがピアの家をおそってきても、バルがほえておいかえしてくれるようになりました。バルのおかげで、ピアの家族ははじめて、夜にあんしんして、ぐっすりとねむれるようになったのです。

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