ピアとバル
日の名残り
第1話
むかしむかし、人が狩りをしてくらしていたころのお話です。あるところに、ピアという男の一家がすんでいました。
おとうさんのピアは狩りの名人です。今日もえものをつかまえに、弓矢をかついで出かけます。おかあさんのミアが、ピアに声をかけました。
「いってらっしゃい、ピア。オオカミに気をつけてね」
オオカミは、ピアがつかまえたえものを、横どりしようとします。ピアにおそいかかることもある、こわいどうぶつです。
「うむ。気をつけるよ」
ピアはひげもじゃの顔をゆさゆさゆらして、ミアににっこりほほえむと、出かけていきました。
ピアはぶなの木の森にやってきました。今日はイノシシをつかまえるのです。イノシシのとおり道の近くにいき、木のかげにかくれました。そして、少しも動かずにじっとして、息をひそめながら、イノシシがやってくるのをまっています。
長い時間がたちました。ピアはがまん強く、そのまままちつづけています。すると、じめんが小さくゆれて、音がきこえてきました。
「きた!」
イノシシがドッドッドッドッと、遠くのほうからすごいはやさで走ってきます。口からあわをはき、目がつりあがった、こわい顔をして走ってきます。
ピアはふかく息をすいこみました。そして、しずかに弓をかまえると、イノシシにめがけて矢をはなちました。
ヒューゥゥゥゥゥ
矢は音をたててとんでいき、イノシシにめいちゅうしました! イノシシは少しずつ走るのがおそくなり、足がもつれています。そして、ドシン! と大きな音をたてて、たおれました。
「やったぞ」
ピアはイノシシにかけよりました。
たおれたイノシシは、ピクピクと小さく動いています。とても大きなからだです。つりあがった目は、もうとじています。
「りっぱなイノシシだ。ゆるしておくれ」
ピアはなみだをながしながら、むねの上で指と指をくみあわせました。
そして、イノシシのたましいが山のかみさまのところへ帰っていけるように、長いおいのりをしました。
おいのりが終わると、イノシシはすっかり動かなくなってしまいました。たましいが山のかみさまのところへ帰っていったのです。
「では、家に帰るとしよう」
ピアはイノシシの前足をもって、おんぶするようにせなかにかつぎました。ずっしりと重いのですが、力もちのピアはへいきです。そして、道を歩きはじめました。
ぶなの森をぬけると、きれいな水がながれる川に出ました。ピアは川の水を少しのみました。遠くでシカの親子も水をのんでいます。
「うむ。冷たくてうまい」
ピアはよっこらせと立ち上がり、こんどはリスがたくさんすんでいる、ならの木の森へと入っていきました。リスたちは、イノシシをかついだピアを、ものめずらしそうにながめます。ピアは、リスたちにほほえみかえします。
そのときです。いきなり、目のまえに一ぴきのオオカミがすうっとあらわれました。オオカミはピアのまえにたって、ウウウッとおそろしいうなり声をたてています。こわい目つきでピアをにらみつけています。
ピアは立ちどまり、そのまま少しも動かないで、オオカミの目をじっと見つめました。オオカミもウウウッとうなりながら、ピアの目をにらんで動きません。
「ふむ。おなかがすいているのだな」
ピアはゆっくりと、せなかからイノシシをおろしました。そして、こしに下げている石おので、イノシシの足を一ぽん切りおとしました。
「ほら、こいつをもっていきな」
ピアはオオカミのまえに、イノシシの足をほうりなげました。オオカミはさいしょビクッとしましたが、少しずつイノシシの足のほうに近づいてきました。しばらくにおいをかいでから、足をくわえました。そして、ピアのほうをときどきふりかえりながら、どこかへ行ってしまいました。
「やれやれ。さて、帰るとしよう」
ピアがイノシシをかついで家に帰ってくると、おかあさんのミアと、二人の男の子、モンとタンは大よろこび。その日はみんなで、おいしいイノシシりょうりをおなかいっぱい食べました。
ミアはイノシシの毛皮で、モンとタンにあたらしい服を作ってくれました。
モンとタンはうれしくて、その夜は二人とも、あたらしい服をきて、おとうさんのピアといっしょに、ウサギ狩りにつれていってもらう夢を見ました。
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