2020年7月22日(開会式前日)

 ネクロリンピックの運営に関わるもの、会場に出入りするものは、

 屍者に限定する。


 昨日書いたとおり、大会運営には多くの有償無償のスタッフが関わる。これはオリンピック、パラリンピック、ネクロリンピックに共通の事象である。ネクロリンピックに違いがあるのは、それが皆、屍者であることだ。特に無償スタッフ、つまりボランティアが常に求められてきた。東京では、彼らをどのようにして集めたのだろうか。業者の関わりについて、今日は紹介したい。

 ボランティアをどうやって募ったのか。実際には人材派遣会社が関与していた。その関与のあり方については、疑惑が持たれている。不当に、不正に、過剰な利益を得ているのではないかという声が絶えないのだ。国会でも、マスメディアでも、SNSでも追及の声は上がり、その都度「問題には当たらない」との回答でやり過ごしている。私はP社のの副社長兼COOにインタビューを試みた。

「私たちは確かに、ネクロリンピックを支援するスタッフを集めました。しかしこれは、本業である人材派遣とは異なるものです。なぜなら、彼らは人材ではない、噛み砕いて言えば人間ではないのですから。もちろん維持費がかかりますし、調達コストもかかっています。私たちが直接全ての屍者を集めたわけではありません。日本全国から、屍者を集めるために複数の業者に発注していますし、パンデミックで操業を停止している工場から遊休状態にある屍者を貸与いただいた企業もあります」

 彼は、自社の関与を認め、仲介業者の存在を認めた。どちらも違法なことではないし、ネクロリンピック開催のために必要なビジネスだと言う。ただし、彼が「維持費」や「調達コスト」と呼ぶものと受注金額の差、つまりP社の利益が適正なものと言えるのかについては、何一つ情報が開示されていないため判断不能だ。また、金の流れ以外にも不透明な点はある。新型コロナウィルス蔓延以前の昨年の統計によると、日本国内で労働に従事する屍者の数は、実はネクロリンピックのボランティアの数よりも少ない。全ての工場や建設現場が停止し、日本国内のすべての屍者をこの一大イベントに振り向けても、実は数が足りないのだ。その差異についての疑問を投げかけると、彼はこう答えた。

「屍者を私たちへ仲介した業者、そうですね、下請業社と言ってもいいでしょう、彼らがどのように屍者を集めてきたのかについては、一切知りません。普段から公共事業に関わるような会社ばかりですので、反社会的な行動をとることなく、法を遵守しているものと信じています」

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