第五章 2軍

呼び出し

「なんだよ先生」


「あなたたちなにやっていたんですか!」


「いやトイレ行ってて遅れたんだわ」


「先生には敬語を使いなさい。それにそんな大人数でトイレに行くわけないでし

ょ?」


「いや行ってたんだって」

 

 結局、授業に遅れたときの担当の先生ではなく、僕たちの担任教師の女性に説教を喰らうことになった。

 

 だからか、天堂も怖い先生じゃないので強気に言っている。

 

 今ここに集められているのは『天堂』『姫乃さん』『井早坂さん』『白河さん』『神崎』他2軍のメンバーたちと僕だ。


 かなりの大人数といえる。連れションしてたなんて言い訳が通用しないレベルだ。


 でも、天堂は女性の先生を舐めているのか、いやいつもお世話になっているような口振りで言い訳している。


「ま、まあ分かりました。学年主任の先生にはそう言っておくけどこれからは遅刻はしてはダメですよ」


「はいよー」

 

 そうして先生は教室を出ていき、説教を終えた。


 初めての呼び出しに緊張しながらも、天堂が全部片付けてくれたようだ。


 遅刻したときの先生だったらこんなに強気に出れなかっただろう。正直担任と天堂に助けられたと言っても過言ではない。


「ナイス慎弥!」

 

 見ての通り、井早坂さんが「ナイス言い訳!」と口にしている。


「まあ担任だしな。あの担任は押せばなんとかなる」

 

 天堂はすでに担任の先生を攻略済みらしい。攻略されていることを先生に伝えてあげたい。これだと良い大人に育てられないぞ。

 

 それよりも──


「みなさんは何をしていたんですか?」


 と、僕が気になっていたことを白河さんが口にした。

 

 天堂の言い訳を聞いてて感じていたことだ。


 この大人数で連れションはありえないし、何をしていたのだろう。どこかに行ってサボっていたのか。まさかこの人たちは隠れてタバコでも吸っていたのか。そんなありえないことを考えさせられる。


 何をしていたのだろう……。


 白河さんは少し疑っているような顔をしていた。

  

 そして天堂が答える。

 

「ただ話してただけだ」

 

 嘘ではなさそうだ。

 

 嘘をついているような顔はしていない。信じることにしよう。


 すると、白河さんは疑わしい顔から安堵するような顔をした。仕草でも胸を撫で下ろしている。


「そうでしたか、安心です」

 

 ふぅと目をつむり、息を吐く。


 すると姫乃さんが「そうだ」と言って口を開いた。


「この後みんなでご飯行かない?」


 そう提案する姫乃さん。 

 

 みんなの反応は、


「そうだな、オレも腹空いてきたし。みんな金あるか?」


 天堂は賛成のようだ。みんなにお金があるか確認をとる。

 

「あたしあるわ。無いなら貸すけど」

 

 井早坂さんは家を見ても金持ちだ。貸すほどのお金を持っていると言う。


 そしてみんなに確認をとると、ご飯に行くくらいのお金は持っているらしかった。

 

 が、ここで言いづらいが、僕はそんなお金を持ってきていなかった。

 

「んじゃ行くか」

 

 そうしてみんなは昇降口に向かい、靴を履き替えた。


 ここは隠れて帰るとしよう。大人数だしこの中で僕は影のようなものだ。いなくなってもバレないだろう……そう思っていたが、


「瑠翔くん話しませんか?」

 

 と、いつの間にか名前呼びに変わって白河さんが声をかけてきた。

 

 逃げられない……。


「……いいよ」

 

 僕は密着してくる白河さんに顔が熱くなるのを感じながら歩き出す。

 

「ちょっと待ってて」

 

 が、僕はそこで白河さんから離れ、井早坂さんの元へ向かった。


「井早坂さん」


「ん?」


 そこで僕は申し訳なさそうに口を開いた。


「お金貸してくれない……?」

 

 陽キャラたちに着いていく選択肢しか僕にはなかった。


 白河さんがいなかったら逃げられたかもしれない。



 

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