「……ごめん、待たせて……」


 ようやく落ち着いた僕は天堂が先に行っていると言っていた教室に戻ってきた。


 つまり、天堂は僕のことを約1時間待っていた。

 怒っていないだろうか……。


「おう来たか」


 が、天堂が優しく僕のことを迎えてくれた。

 さっきの雰囲気とは全く違う。


「うん……」

「さっきは……ごめんな。少しからかってみたかったんだ」


 天堂はほんとに申し訳なさそうにして謝った。陽キャラの人たちがやる分にはただの嫌がらせや、からかい程度のことなのだろう。


 しかしそういうことに慣れていない僕にとってはやりすぎじゃないか、そう思った。


 が、最近お世話になっている天堂たちを敵に回すわけにはいかなかった。

 天堂の喧嘩すれば、クラス、いや学校中の人から嫌がらせをされる気がする。

 ここは許すのが無難だ。まあそれにもう気にしていないが。


「いいよ、気にしてないから……」

「ほんっとやりすぎたわぁ」


 天堂は頭を抑えてそう言った。


「ほんとやりすぎだよ」


 僕はそう反省している天堂に追い討ちをかける。


「そんなこと言わないでくれよ。面白半分だったんだ」

「あれが面白半分?」


 基準が分からんな。


「どんな反応するか気になったんだよ。お前最近人気だからよ。それで女の匂いがしたらどう反応するかってな」


 確かにラブレターは引っかかった。女の匂いもした。

 が、実際は男だった。

 この目の前にいるイケメン野郎。僕はホモじゃないのに。


「そういうのは僕にしないでほしい……」


 心臓に悪い。


 イマイチあのときどんなことを口にしたのか、どんな行動をしたのかはハッキリと覚えていないが。


 でも、泣きそうなほどだったことは覚えている。

 実際泣いたことだしな。


「最近結愛とも喋ってるんだし、からかう相手にはなるだろ」

 ほんとに反省しているのか。

 もしかしたら天堂はまだ僕のことをからかうつもりらしい。


 確かに姫乃さんと最近話すようになったが、からかい相手にはなりたいくない。


 僕はまだそういうのに慣れていないんだ。


「それはそうだけど……するならもっとハードル下げて」

「そうするわ」


 ハハッ、と作り笑いをして言った。

 いきなりあれはほんとにハードルが高すぎる。


 例えば、身内の友達がその場に出てきてならば、から買うつもりだ、とすぐ分かる。


 が、陰キャラの僕を呼び出して、カースト上位のあまり話したことのないガチ陽キャが出てくれば、イジメだと思われてもおかしくない。


 もっと仲良くなって友達みたいな関係になれば、そういう判断はすぐできると思った。


 そこで、タイミングがいいと思ったのか、天堂が一呼吸置いてから口を開いた。


 そして言った。


「でも1つ。結愛との会話は少し控えろ」


 と。


 そして僕はそんな言葉に疑問をぶつけることはなかった。

 なんでか分からない。

 聞かなくても分かるだろと言いたげな言い方だったからか。 


 そんなことでも僕には全く理解できなかったが。

 そうして僕たちはお互い別れた。


 今日もいつも以上に疲れたが、男は寝て忘れることが多い。

 僕の中でもハッキリと覚えていないあの件は、ほとんど無くなっていた。

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