秘密のやりとり
ああ、また学校生活が変わった。
あれから一週間が経った。
姫乃さんから少し距離を置き、こちらに歩いて来るときには逃げるように廊下に出ていく。
少しやりすぎなのかもしれないが、これが最善だろう。
陽キャラの人たちにも事情があるのだと思うし、僕が知る理由もない。
ただ天堂に従っていれば、僕の身には危険がないしな。
もしかしたら僕が姫乃さんと話していることで、姫乃さんの評価が下がって、天堂がそれを気にしている可能性だってある。
なので、僕は理由は知らないまま、天堂に従った。
そのうちに姫乃さんも険しい顔こそしていたが、僕になにかがあったことを察して話してこなくなった。
しかしそれが直接のみ。
僕たちは──メールでやりとりをしていた。
『如月くんってバイトやってないのー?』
そんな他愛のない会話をする。
前に連絡先を交換して良かった。
初めての連絡では『なにかあった?』と心配してくれた。ほんとに優しい人だ。
『やってるよ』
『えー意外! コンビニ?』
『飲食店』
クレープ屋でバイトをしている。
高1からなので結構長い。
『そうなんだ! 実は私してないんだー』
姫乃さんはしていないと言う。
遊び回っているんだからバイトがしているものだと思っていたが、していないようだ。
逆にバイトをしていたらあんなに遊べることはないか。
『クレープ屋おすすめだよ』
僕はそこで自分がしているバイトを進めた。
別に遠回しに僕のところでバイトすれば、なんて思っていない。
『え! クレープ屋でバイトしてるの⁈ 可愛い笑笑』
驚くことなのか、びっくりマークがたくさん。そして最後笑われた。
『甘い食べ物好きだから』
『私も好きだよ! でもバイトかー。今は友達と遊ぶ時間が無くなるの嫌かなって感じなんだよね』
やはりそこが大きい。
バイトをすれば、遊ぶ予定など組むのがとても難しい。
僕は遊ぶ友達こそいないが、陽キャラの人たちにとってはそこが一番重要なこ
となのだろう。
それに姫乃さん意外にもバイトを始めたら、今度はみんなで集まることが困難になる。
『ならしなくていいと思うよ』
僕はすぐ既読をつけ、そう送った。
姫乃さんもすぐに既読がつき、『そうしとく!』と返ってくる。
そんな他愛のない会話が朝から夜まで続いた。
顔を見て話さない分、気持ち的にも楽だ。
正直こういうやり取りだけでも僕はいいかもと思ったが、なんか物足りない感じがする。
姫乃さんとは直接話してこその相手なのだろうか。
そんなことを考えながら、僕は明日の朝おはよう、よ送ることを決め、安らかな眠りについた。
***
『おはよー!』
『おはよう』
今日は休日だ。
学校がないため、少し遅めに起きると、姫乃さんの方から連絡がきていた。
アイコンが天堂たちとの集合写真なためか、最近よくタップして見てしまう。
イケメン、美女の塊ですごい。
そうして僕はバイトもないのでゲームを昼前までしていた。
が、ふとあることを思った。なぜ僕がそんな考えしたのかは分からない。
そして僕は学校で話せないなら外でゆっくり話せないかなと思い、遊びに誘ってみようと決めた。
天堂のこともあったのか、少し心が満たされていない。
ただの欲求不満なのか、これは。
恋愛初心者の人はそのときの感情に任せてしまうらしい。
だからか? 一目惚れしましたって言って断られる人が多いのは。
『とても暇』
とりあえずそう送った。
適当すぎたかもしれないと今思った。
今日遊べる? って訊けば良かったのか? 僕にはイマイチ分からない。
待つこと数分。ようやく携帯が震えた。
『私も暇』
姫乃さんも適当な返事をした。
『一緒だ』
『だね』
よしこのタイミングだ!
『じゃあ、今日遊べたりしない?』
じゃあ、の意味が全く分からない。
これだとお互い暇なら遊ぼうという意味に捉えられる。
もしかしたらキモイなんて思われてるかもしれない。
しかも天堂たちと遊んでいる可能性だってあったかもしれないのに、なんて高リ
スクなことをしているのだろうか。
すると、またまた携帯が震えた。
『いいよー! なにかしたいことあるの?』
なんと、姫乃さんは僕の誘いに乗ってくれた。
僕は心の中でやった、と叫びながらも、姫乃さんにする返信を考えた。
何かしたいことあるの、か。
全くやりたいことはない。というより考えていなかった。
まあ今回はゆっくり話せればそれでいいと思っている。
どっか出かけるとなると、同じ学校の人に見られたくないし。
はて、どうするもんか。
あ、いいこと思いついた。
『僕の家は?』
少し間があく。
『いいよー! でも私如月くんの家分からないよ?』
おお、まさかの承諾だ。やった。遊べる。
が、姫乃さんは僕の家を分からない。そりゃ当たり前か。
でも確か姫乃さんの家はこっち方面だった気がする。
姫乃さんはチャリ登校だし、僕もチャリ登校だ。
帰るときには僕の家の方に天堂と向かっているのでよく見かけることがある。
なので、僕は家の近くの駅集合にすることにした。
『アイアイ駅集合はどう?』
僕は待ち合わせ時間も追加で送り、そう伝えた。
『おっけー』
姫乃さんはそう軽く返事をした。
それよりも今日遊ぶのか。
マジで実感が湧かん。
そう考えると急な遊びの誘いに良く承諾してくれたな、と思った。
これをフッ軽というのだろうか。
現在は時刻12時。待ち合わせの1時30分まであと少しある。
僕は急に誘ったにも関わらず、散らかっている家を掃除した。
「やばいやばい……姫乃さんが来る……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます