姫乃さんとお家

「待たせてごめん……!」


 初の遊びで2分遅刻してしまった。髪のセットを少ししてみたのだ。

 が、怒る顔見せず、姫乃さんは僕の髪の毛を見てこう言った。


「わー! 如月くんセットしたんだ。かっこいいね!」


 すると、姫乃さんは僕が遅刻したことに何も言わずに、僕の髪型の感想を口にした。


 よく気づいたな。

 セットといっても、まだできないので適当につけて束間を出したくらいだ。

 そんな褒めてくれた姫乃さんを見て、僕は顔を下に向けてしまった。


 久しぶりに姫乃さんの顔を真正面で見た気がする。 

 一週間はまともに話していなかった。やはり可愛い。 


 髪を切ってよく人の顔が見えるようになったが、僕の中では学校で一番の可愛さだと思う。 


 それに今も輝いている。

 シンプルな白のワンピースに首筋からは綺麗なネックレスが付けられている。


 今は駅なので人通りが多い。通りすがる人全員がこちらに目を向けているくらいだ。


 後ろ姿が可愛かくて、追い抜くときのチラ見みたいでなんだか面白い。


 そしてそんな周りから輝いて見える姫乃さんだが、姫乃さんからは鼻腔をくすぐられる匂いが漂っている。


 石鹸の匂いだろうか。僕の結構好きな匂いだ。

 そうして僕は姫乃さんを見て素直に感想を口にした。


「……姫乃さんも可愛いと思うけど……」


 目こそ合わせられなかったが、しっかりとそう口にした。


 そして下に向けていた僕の顔を少し上げ、姫乃さんの顔をチラッと窺うと、ほん

の少しだけ顔が赤くなっている姫乃さんがいた。


 もしかしたらこんな暑い中かなり長い時間待たせてしまったかも、と思ってし

まった。


「……ありがとう……」


 と、姫乃さんは口にしながら、逃げるように歩き出す。

 僕の家も分からないのにどこ行くんだろう。


 そして今更気づいたのか、「あれ、家どっちだっけ」と言って、僕のところに戻ってきた。


 もしかして照れ隠しかな、なんて思ったがそんな考えはあっさりと消えた。

 そうして僕たちは家に向かった。


 途中コンビニに寄ってお菓子屋飲み物を買ったりと、ごく自然に行動した。

 やっぱり姫乃さんといると楽しい。そう感じる。


 そして最寄り駅で姫乃さんに視線が集中しているのは分かっていたが、何人かがこちらをずっと見ていることには気づかなかった。


***


 ボロいアパート、軋(きし)む階段を登っていく。

 ゆっくりと2階へ上り、鍵を開けた。


「お邪魔します!」


 遠慮気味ではなく、大きな声で響くように言った。

 いつもはそんな大きな声出さないのに。


 しかし僕の家には誰にもいない。

 そういえば言っていなかった。


「僕1人暮らしなんだ」

「あ、そうなんだ。いいなー。先に言ってよ」 

「ごめん……」

「謝らなくていいよ」


 えへへと作り笑いをしながら言った。謝られるのが嫌だったらしい。


「ゆっくりしていいよ」

「うん、そうするね」


 姫乃さんは僕より先に奥へ進んでいき、ソファーにどっかりと座った。


「ん〜気持ちい〜」


 座るなり、大きな伸びをした。


 もしかしたら疲れていたのかもしれない、金曜は体育もあったし、足とかに負担があるのだろうか。


 そうだ、こういうときはなにかしてあげないと。


「なにか食べたいものある?」

「えっ。如月くん料理できるの⁈」

「ま……まあ……」


 1人暮らしなのでイチヨウ自炊はしている。お金ないし。


 が、最近お金を使うことがなく、溜まってきたのでサボってしまうことが多くなっているのは事実だ。


 そのうち慣れてしまってコンビニ生活になりそうだ。 


「んー私は大丈夫だよ。お昼ご飯食べてきちゃったから」


 確かに昼過ぎに僕たちは集合した。

 少し焦りすぎたのかもしれない。

 僕は深呼吸をして新しい提案をした。なんでこんな焦っているんだろう。


「じゃ、じゃあ映画でも見よう」

「いいね」


 これなら会話が無くても不自然ではない。

 思ったより良い提案をしたかもな。

 そして最近契約したネットフェニックスに繋ぎ、姫乃さんにリモコンを渡した。


「これ面白そうじゃない?」


 気になったものがあったのか、僕にそう訊いてきた。 


「僕もそれ気になってた」

「でしょでしょ」


 姫乃さんが選んだのは意外にもアクション系の映画だった。

 女子だったら恋愛ものかなと思っていたが、違ったようだ。 

 ちなみに僕は、恋愛系の映画は絶対に見ない。


 そうして途中コンビニで買ったお菓子や飲み物を食べたり飲んだりしながら映画を楽しんだ。


 隣に座っている姫乃さんは僕の枕を抱きながら体育座りで映画を見ている。


 そのため、すらりと綺麗な生足が僕の目に止まった。が、すぐに映画に意識を向けた。


 そんなことが何回もあり、ほとんど映画に集中できなかった。生足に目が吸い込まれる。言い訳だな。


「これ続きないんだね」

「そうっぽい」 


 完結作品でもよくこの後どうなるか気になる作品が良くある。


 今回はそのタイプだったようだ。姫乃さんは少し顔が剥れていた。子供みたいだ。


 それより、


「携帯鳴ってたけど大丈夫?」  


 映画を見ているときに何回か姫乃さんの携帯が鳴っていた。


 別に言わなくてもいいことだったかもしれないが、かなり鳴っていたので気になってしょうがなかった。


「うん、どうせグループの通知だし」


 そう言って携帯を見ようよしなかった。

 グループとは天堂たち1軍のグループのことだろう。


 そうして僕たちは他の遊びをしたりしながらいると──問題が起きた。

 それは姫乃さんが携帯を開いたときだ。

 携帯を開いた瞬間姫乃さんの顔色が少し険しくなったのである。


 そして少し携帯と見つめている姫乃さんを見ていると、姫乃さんが焦るように口を開いた。


「ごめん……。もう帰らなきゃ……」


 なにかあったのか、姫乃さんはそう言いながら帰りの支度をし始めた。


「ほんとにごめんね……」


 急用かなにかだろう。謝ることはない。


「ううん、大丈夫。それより片付けは僕でやるから行っていいよ」


 お菓子のゴミなどがかなり散らかっている。

 だが1人で片付けられる。なので、姫乃さんにそう伝えた。


「……ありがとう。また明日ね!」


 支度を終えた姫乃さんはそう言ってドアから出ていった。


「バイバイ」


 イマイチ分からない姫乃さんの事情にその後考えされられたが、一向に分からなかったので諦めた。


 そしてふと、駅の視線のことが頭に浮かんだ。

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