白河さんの質問攻め

「如月さんは優しいですよね」


 バイト中、不意に言われた。


「僕が?」

「はい。優しいです」

「え、僕が?」


 少し信じられなかったので何度も聞き返してしまう。


「そうです。とても優しいです」

「もしかして優しいって言って貰いたくて聞き返した感じですか? いい性格してますね」


 誤解しないでくれ。


 ただ優しいと言われたのは、人と関わるのは少なく口にされることが少ないにしても初めてなのだ。


「優しいって言われたの初めてで……」


 ムッと少し険しい顔を白河さんはする。


「流石に嘘ですよね」

「いや嘘じゃないんだが……」

「いいですよ、そういう嘘は。わたしには通用しません」


 ふんっと嘘は嫌いですといった顔をしてきた。


 ほんとに最近関わるようになった姫乃さんや井早坂さんにも言われたことがない。


 あの2人は僕の顔を見てバカにするだけ。

 優しいね、なんて言わないし、そもそも僕は優しくない。

 が、白河さんからしたら僕の印象が他の人と違うようだった。


「わたし分かっちゃいました」


 すると、良く分からないが、白河さんがなにか分かったと言う。


「なにが?」

「如月さんが髪を切った理由です!」

「切った理由?」

「はい。うーんとですね、如月さんは好きな人がいますね!」


 いないんだが……。

 僕にはまだハッキリと恋をしていると実感したことがない。

 異性の人と関わることが多くなった今でも、だ。


「いないよ」


 ハッキリと言った。


「え、それは嘘ですか?」


 さっきのも嘘ではないのに、これも嘘だと思われる。

 誤解を解かないままにしたのがいけなかった。


「僕嘘は吐かないよ」

「そうですか……」


 信じられませんといった表情をしているが、まあ納得してもらえたっぽい。


「じゃあ、如月さんはどういう女の子が理想なのですか?」


 理想の女子、か。これは大分考えさせられる。


 優しい人? 趣味が合う人? 一緒にいて楽しい人? 一緒にいて安心する人?


 どれもあまりピンとこない。

 理想の女の子なんて考えたことがなかった。

 僕は結局、思案した結果、ちゃんとした答えを返せなかった。


「あんまりないかな」


 そう言うと、「そうですか」と言って、顎に手を当てて考え込んだ。

 そして口を開く。


「でしたら、天堂さんたちのグループの女の子でどの人がタイプとかありますか?」


 今日は大分質問が多く、追及して踏み込んでくるな。

 まあ話が弾むだけ嬉しいので真剣に考えよう。


 姫乃さん、井早坂さん、巫さん、結衣凛さん。この中で選ぶとしたら──姫乃さんを選ぶ。 


 が、即答できない。

 井早坂さんの存在だ。

 姫乃さんと関わってから、新たに関わるようになった女子。


 僕にいつも話しかけてくれたり、井早坂さんの大事な時間を削ってまで僕の服選びを手伝ってくれたり、おそらく、姫乃さんよりも今のところ話している時間は多い。


 でも、それも全ては姫乃さんのおかげで、姫乃さんが僕に変えてくれるきっかけをくれたと考えたら、やはり姫乃さんは僕の恩人で、理想……、理想の人なのかもしれない。


 そんなことを考えているからか、タイプかどうかもまだ分からないのに、思わず口にしてしまった。


「姫乃さんかな」


 その思わず出てしまった言葉に自分自身びっくりしたが、言い直すことはしなかった。


「なるほどです……」


 そこで話に区切りができたので、僕から白河さんに質問をすることにした。


「白河さんは恋愛経験とかあるの?」

「わたしは無いですよ」


 その答えに少し意外だなと思った。

 可愛い子に恋愛経験がありそうという偏見は辞めた方がいいかもしれない。


 井早坂さんもあの容姿と性格でも恋愛が下手というものがあるしな。


「告白はよくあるんですけどね。ほとんど初対面の人からなので断っているんですよ」


 可愛い女子には告白は付き物なのだろう。


 それに、白河さんみたいな口調も丁寧で清楚溢れる感じの人は、男子からの受けが良い。


「彼氏は欲しいと思わないの?」


 僕も質問をいっぱいする。


「思いますよ。羨ましいです。わたしもJ Kですから」


 そりゃそうか。

 高校生の誰もが青春したいと思っている時期だから。


 それに良く彼女がいるかなどで、こいつは勝ち組とか分けられることもあるし、それほど恋愛は高校生にとっても憧れの一部なのだろう。


 こんなに可愛い白河さんでも、恋愛というものをしてみたいらしいしな。


「いい男子が見つかったらすぐ告白してみるといいよ。絶対付き合える」


 冗談で言ったつもりだが、白河さはすぐに答えることはせず、少しの間沈黙が訪れた。


 気まづい雰囲気が流れたが、白河さんが口を開けた。


「……そうします……」


 もしかして本気で捉えている感じか、と思ったので、冗談だよと伝えようとしたところでお客様が来たため、伝えることができなかった。


 その後も言える雰囲気でもなく、結局言えずに終わってしまった。

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