追及


 僕と白河さんの仲が良いのを知ったら、2軍の人たちは僕を拒絶というか、距離を置こうとできなくなる。そんな考えをした。


 まあそれは保険としての考えだが、まずは2軍の人とも仲良くなるような努力をしよう。


 それでも上手くいかないときに白河さんの存在が役立つのである。


「白河さんー」

「どうしました?」


 学校では、もう流れのように話しかけることができている。 

 バイトのおかげか、それとも決意が固まっているからか。


「いや、連絡先交換しようかなって思って」

「別に構いませんよ」


 連絡先は上手く交換できた。が、その後のことを考えていなかった。

 会話を続けるか、それともこの場からもう去るか。


「ありがとう」


 考えた結果、僕はお礼だけ言ってその場から去ることにした。


 このまま会話を続けてもどうせ良い雰囲気にならないのがオチなので良い判断

だろう。


 しかし、僕が去ろうと足を後ろに向けた途端、白河さんが「あっ」と声を漏らした。


 どうやら僕に聞きたいことがあるらしい。

 僕は振り返る。


「あの……如月さん、次のシフトいつ入ってますか?」


 どうしても気になったといった顔だ。


 連絡先を交換したからそっちで聞けばいいのにと思ったが、思わず先走ってしまったようだ。


「今週は入ってないよ」


 今は木曜。

 最近シフトを入れるのが少なくなった僕は週2くらいしか入っていない。


「そうでしたか……。じゃあ来週は入っていますか?」


 少し残念そうな顔をしてから再び聞いてくる。


「来週は月曜日に入ってる」

「そうですか……。わたしもその日入っていますのでお願いします!」

「う、うん」


 またシフトが被ったらしい。


 もしかしたら研修期間はほとんど僕が担当するようになっているのかもしれない。


 そうして会話が途切れると、気まづい雰囲気になることなく、お互い別れた。

 僕は自分の席に戻ると、今度は天堂から声をかけられた。


「え、お前梨央奈(りおな)のこと好きなのか? 連絡先聞くとかお前にしちゃ結構踏み込んだな」


 確かにと思ってつい動揺してしまう。


「す、好きなわけないだろ。バ、バイトが一緒だから連絡先聞いただけだから」


 僕がバイトが白河さんと一緒のことを言うと、近くにいた井早坂さんが会話に割って入ってきた。


「え、マジ?」

「うん、マジ」

「へー……」


 へーと言ってる割には、「はー?」の方が強い気がする。


「どこでバイトしてんの?」

「駅近のクレープ屋だよ」


 その言葉に近くにいた結衣凛さんが、ピクリと反応した。


「ク、クレープ……」


 活気のなさそうな目に少し輝きが生まれる。


「瑠翔がクレープかぁ。なんかギャップ萌えって感じ」

「分かる。可愛いよね」


 姫乃さんまで会話に入ってきて、井早坂さんの言葉に同情する。


「でも梨央奈の反応がおかしかったんだよな。お前襲ったりしてねぇよな?」

「するわけないだろ⁉︎」

「声でけーよ」

「あ、ごめん」


 冗談というのをすぐに理解できなかった。


「まあ別にどうでもいいけどな」


 と、天堂は興味を失ったかのようにどこかに携帯を弄り始めると、姫乃さんは確認をとるような口ぶりで言った。


「如月くんは梨央奈ちゃんのことは好きじゃないんだよね?」

「好きじゃないよ」


 好きではない。ハッキリ言える。

 ただ──可愛いなとは思う。


「そうなんだ。ふーん……」

「どうせ瑠翔が梨央奈のこと好きになっても叶わないわよ」


 まあ井早坂さんの言う通り、例え僕が白河さんのことを好きになっても叶うわけがない。 


 正論すぎて逆に返す言葉がなかった。

 そうして僕たちはその後、遠足の思い出などを話した。


 そして、落ち着いた頃にふと周りを見ると、巫さんと新城が仲良く話しているのが見えた。


 巫さんはいつものツッコミをするようなキャラは抜けていて、恋する乙女の女子高生に僕からは見えた。


 そんなこんなで、僕の日常や、周りの日常が変わりつつある中、僕のなにかが変わりそうなバイトの時間がやってきた。


 来週の月曜までの時間、とても長く感じた。

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