ラブレター
「如月くんってメールとかやってない?」
「やってるよ」
僕は1人変わらず座っていると、姫乃さんからそう訊かれた。
「教えてほしいな?」
姫乃さんから交換しようと言われ、驚いたが、なんとか平然を装う。
「いいよ。でもなんで?」
余計なことを訊いてしまったかもしれない。
素直に交換だけすればいいものを。
「友達が如月くんの連絡先知りたいらしくて」
聞かなきゃよかった。
「……そうなんだ。分かった」
姫乃さんはただ中継役として連絡先を訊いてきただけで、僕と連絡を取る気はサラサラないらしい。
訊かれてドキッとする驚きだったが、今ではシュンとしている。
そうして連絡先を交換して、姫乃さんはどっかに行った。
それより初めてだ。連絡先を訊かれたのは。
僕は高校生になってから、誰とも連絡先を交換していない。
携帯を開くと、友達4とマークがある。
親2人と妹が1人。そこに姫乃さんだ。
その1人が増えただけでも、僕にとってはとても嬉しい気持ちになった。
だからか、僕は少しニヤついてしまった。
陰キャラなもんで、僕は連絡先の交換だけでも胸がドキドキしてしまう。相手が姫乃さんというのもデカいが。
すると、姫乃さんはその友達に僕の連絡先を送ったのか、僕の携帯が震えた。
『よろしくねー!』といった短い文が送られてきている。
名前と顔が一致しないが、他クラスなのだろう。
僕はなんて返せばいいのか分からず、『よろしく』と短く返した。
ん?
今気づいたが、これはハッキリいっていいことしかないのでは?
ちゃっかり僕は姫乃さんと連絡先を交換している。
いつでも連絡することができるということだ。
暇なとき、かまってほしいときなど、いろんなことに連絡が取れる。
どうせ僕からはなにも送れないけど。
まあ思わぬ形ではあるが、姫乃さんとちゃっかり連絡先を交換できたのは良かったと思う。
そして僕はまたニヤついてしまったのか、隣の天堂から視線を感じたが、振り向かずに携帯をポケットに仕舞った。
ニヤリ。
また笑ってしまった。
***
その夜。
僕の連絡先は拡散されたのか、いろんな女子から連絡がきた。
僕は1人ずつ全員に返信をし、眠りについたが、朝起きると僕の対応がおかしかったのか、それとも適当すぎたのか、何人かは既読だけがついていて、連絡が途切れていた。
そして現在学校。変化が訪れた。
1軍の女子から挨拶をされたのだ。それもめちゃくちゃ馴れ馴れしく、名前で。
「
さすが陽キャラの女子だと思う。
よく初対面の相手に名前で呼べるな。
すると僕に声をかけてきた人の後ろからズラズラと1軍の女子たちが入ってきた。
集団で登校しているのか、それとも昇降口とかで待ち合わせでもしているのか、そこには姫乃さんの姿もあった。
「如月くんおはよう」
姫乃さんからも挨拶をされる。
「おはよう」
僕は基本、暇なときはゲームをしているので、手を止めずにそう答えた。
少し今手を離せるときじゃない。
「瑠翔ってバスケ上手いじゃん!」
携帯の電源を切る。
「そうかな……? ……天堂の方が上手いよ」
「え、当たり前じゃない。慎弥(しんや)運動神経いいもん」
なんでキレ気味なんだ。
「でもでも如月くんも結構上手だったよ。 あのレイアップいいよねー。私も打てるようになりたい」
褒め上手だ。照れる。
「まあ少しだけやってたから……」
僕はいつの間にか女子に囲われていることに気づき、困惑しながら答えた。
「あ、そうそう。慎弥が言ってた。如月のやつバスケやってたらしいって。でも、まあオレの方が上手いけどな! とか言ってたわ」
言っていることはあっているので、反論は全くない。
「天堂さんはプライド高いの」
そこで透き通った声の女子がそう言った。
清楚のイメージが強そうな見た目だ。
確かに運動をやっている人はライバル視するとことがあるというか、なにもかも勝負事に持っていく癖がある。
ただシュートを打っているだけなのに、「俺今一発一中」とか自慢するなど。
それで僕より上手いと皆に言っておきたかったんだろうか。天堂らしいと言えば天堂らしい。
そんな会話をしていると、1軍の男子が登校してきた。天堂と新城が並んでいる。この2人を並ばせたらいけないだろ、そう思った
「慎弥そういえば……」
そう言って、僕の周りにいた女子たちは天堂の元へ寄っていく。
天堂は僕を横目で一瞬見てから、目を逸らした。
僕もその視線から逃げるように途中で諦めたゲームを始めた。
女子と話せただけで楽しいと感じた僕は、改めて陰キャだなと感じたが、朝のチャイムが鳴り、そんな考えは消し飛んだ。
今日の学校ではなにもなかった。
***
次の日。
急だが、下駄箱の中に、ラブレターが1つ入っていた。
僕は戸惑いこそしたが、その手紙を誰にも見られないように取った。
今頃ラブレターなんてあるのか? そんなことを思ったが、柄など、如月へハート、と書かれていることからそうだとラブレターだと判断できる。
そうして真っ先に教室には行かずに、トイレに向かった。
「んー……」
僕は誰宛か書かれていない手紙に悩んだ。
『放課後A棟の使われていない教室に来てくれませんか。伝えたいことがあります』そう可愛らしい文字で書かれている、
恋愛未経験の僕だが、これだけでもなにがあるかは分かる。告白だろう。
その後、僕は周りの目を気にしながらクラスに向かい、朝のチャイムが待っ
た。
すると、僕は険しい顔をしたのか、姫乃さんが心配そうな顔を向けてきた。
「如月くん?」
「何か悩んでるの?」
正解。
が、ここは嘘を吐こう。
「なんでもないよ」
「そう? ならいいけどぉ」
「うん」
最初は納得のいっていない疑う顔を向けてきたが、姫乃さんはなにかに気づいたのか、僕の目から視線を外した。
「ん? この手紙──」
そう言いながら姫乃さんは僕のリュックに手を入れる。その手紙はラブレターだ。
「ちょ……」
僕は手紙を取ろうとする姫乃さんの手を、慌てて掴んだ。
「え」
姫乃さんは驚いたように声をあげた。
少し荒っぽい行動をしてしまった。
「ご、ごめん……」
僕はすぐに謝り、姫乃さんの手を離した。
すると姫乃さんは何か悪いことをしたのかも、と思っているのか、申し訳なさそうな顔をした。
「私もごめん……」
姫乃さんに謝らせてしまった。
「いや……」
別に怒ってるわけじゃない、そう言いたかったが、他の女子から「結愛ー」と呼ばれてどっかいってしまった。
引きづらないといいが……。せっかく連絡先交換したんだし後で誤解解こうかな。
そんなことを思っていると、隣の天堂から少し呆れ気味で声をかけられた。
「お前それはないだろ」
「そういうつもりじゃ……」
もっと優しくすればよかった。
手を出すのではなく、口で言えば平和だったかもしれない。
それに急に腕を握られたりしたら不快に思うに違いない。
やってしまった……。
「嫌われたな、ドンマイ」
ニヤリと気味の悪い笑みを浮かべながら言った。
「ハハッ。笑える」
僕が黙っていると、更に追い討ちをかけてきた。
今反省しているっていうのにからかわないでほしい。
「なんでお前なんかに話しかけるんだろうな。しょぼそうなちっぽけで可愛い顔がよぉ」
褒めているのか、罵っているのか分からない。
まあ天堂はどうせ僕のことをバカにしているのだろう。
そのニヤニヤ顔が物語っている。
「てか、俺も気になったんだが、あの手紙みたいなのなんだ?」
そんな質問をしてきた。
姫乃さんとの一部始終を見ていたから手紙が少し見えたっていう感じか。
ここはなんとか誤魔化せる。
「親が先生に渡してって言ってたやつだよ」
「じゃあなんで隠す必要あんだよ。気になるから見せろよ」
「無理」
なんだその邪悪な笑みは。不気味だ。
「あ? 別にいいだろうが」
「無理……」
「つまんねぇ野郎だな、ほんと。なんで結愛はこんなヤツに話しかけんだか」
すると、「ん?」と言って姫乃さんが僕たちのところに現れた。
「なんか言った?」
「いいや、別になにも言ってねぇよ」
言っただろ。
「そう? ならいいけどねー」
そう言ってリズムよく跳ねながら、またどっか行く。
自分の名前が聞こえたからこちらに顔を出したのだろう。
天堂はそこで僕の手紙に興味を無くしたのか、廊下に出て行った。
手紙のことで授業の内容が全く頭に入ってこなかったが、どうにも天堂の表情が引っ掛かった。
なんか今日は終始ニヤニヤしていた気がした。
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