体育

 髪を切ってから、一週間が経とうとしていた。

 短い期間でも分かるが、周りから視線を感じる。

 髪を切って視野が広がったとはいえ、明らかに前よりも視線が痛い。


 そんな視線を感じていたが、姫乃さんは僕にまだ気を遣っているのか、黒板係を1人でやっているときに手伝ってくれている。

 

 天堂は結局、黒板係は面倒臭いのかやってくれない。

 

 だがこの一週間、姫乃さん意外に話しかけることはなく、友達は以前できないままだ。


 そこは変わっていない。でも変わったこともある。


 まあ視線はともかく、もう1つ。

強いて言えば──姫乃さんが堂々と話してくるようになったことだ。


「如月くん体育の選択何にしたの?」

「僕はバスケ」 


 体育の会話をし始めた。

 そして、バスケは中学生の頃少しかじっていた。


 まだ少しはハキハキとしていた中学生時代。友達と遊んでよくバスケをしていた。


「ほんと⁉︎ まさかの一緒!」


 てことは──


「お前もバスケ選んだのか」


 ──天堂たちも一緒だ。


「うん」


 僕は嫌な顔をせずに、そう言った。

 天堂たちはいつもグループで固まっている。

 すると、天堂は少し悩んでから僕に思ってもいなかったことを言った。


「そうだ。一緒のチームにならないか?」


 その問いに僕は少し眉をひそめた。


「僕と……?」

「チームが1人足りないんだ」


 そう僕を誘った理由を言った。

 どうやら天堂たちはチームの人数が足りていないらしい。


 僕は最後の最後に足りなかったチームに入ればいいやとでも思っていたが、イチヨウ都合のいい話ではある。


「神崎(かんざき)たちも入っているんだが、それじゃ足りないんだ。あと1人ってとこでな。そこでお前に入ってもらえると助かる」


 と、いうことらしい。

 神崎は2軍のメンバーの人だ。


 神崎と天堂が話しているのはよく見る。

 それでも人数は足りなかったらしい。


「分かった」」


 そして僕は天堂の誘いに承諾することにした。


「最高だ。如月」


 その言葉と共に、会話が途切れた。 

 少し体育が楽しみになった。

 いつもの僕なら、端っこでただ走っているだけだった体育。


 チーム決めでは最後まで残り、足りないところに付け足されるだけだった僕が1軍と2軍の混ざるグループに入ることになった。

 

 向こうからしたら、ただの人数の穴埋め感覚。 

でも、他の誰かに誘われるのは初めてだったし、そこが嬉しかった。


 それにカッコよく見られたい、そういう感情もあったので、バスケでいいところを見せられたらなとも思った。


 帰ったらどこかに隠れているバスケットボールを触ろう。

 そう思った。

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