掃除

「掃除手伝ってやんよ」

「……おお。……ありがとう」


 放課後、天堂が教室に残ってそう言ってきた。


 いや、これは天堂も同じ班なので当たり前のことだが。

そうして天堂が初めて掃除を手伝うと言い始めたことに驚きながらも、僕は掃除を始めた。


 無言で掃除をしていればいいのだが、今は姫乃さんの姿がない。それだけで落ち着かない。


 確か今日の放課後は学級委員の集まりがある。

 だからいないのだろう。

 そしてその代わりに、1軍の女子と男子がいる。


 どんだけ落ち着くことができなそうな教室なんだ。

 天堂たちは掃除をしながら他愛のない話をしている。


 僕は後は天堂たちに任せて帰ってもいいんじゃね、と思ったが、帰るわけにはいかずに静かに掃除を続けていた。


 その間、天堂たちの会話に耳を集中させた。


「今日なんかする?」


 爽やかイケメンの新城(しんじょう)がそう言った。


「カラオケ行くのは?」


 金髪ツインテールの女子がそう発言した。


 派手な容姿の人だ。 

そうして天堂たちはカラオケに行くことに決まったようだ。


 そんな1軍の話に興味はないが、陰キャラな僕でも気になる話が耳に入った。


「それより結愛の元カレってどんなやつか知ってるか?」


 天堂からそんな話が切り出された。

 姫乃さんの元カレ……?


 僕はその言葉に耳をピクッと反応してしまった。

 天堂は気になってしょうがない顔をしている。


「いたことしか知らないなー」

「あたしも元カレに関してはいたってことしか知らない」


 天堂は「まあお前らが知るわけないか」と言って話を終わらせた。


 まさか姫乃さんに元カレがいたとは。そしてそれはいつの頃の話をしているのだろうか。


 小学生か? 中学生か? 小学生の頃の元カレを言っているんだったら、大した奴だと思う。保護者か。


 まあ姫乃さんに彼氏がいたなんて当たり前だ。

 逆にいない方が疑問なくらいだ。


 でも……、なんだろう……。

姫乃さんの元カレの人が気になる。


 しかしこれ以上気にしても天堂でも知らないんだから、僕には分からないことだろう。

 

 それよりも天堂は姫乃さんのことが気になってしょうがないようだ。


 陽キャラの中でも秘密にし合ってることがあるんだなと思いながら、居心地の悪い時間は終わりを告げた。


 今日1日落ち着かない日でとても疲れた。


***


 学校が嫌だ。

 そう感じてきたのはいつだろう。

 誰とも話さず、ただ授業を受ける。


 まるで刑務所のような感覚だ。

 罰として宿題を出され、クラスという牢屋に入れられる。刑務所じゃないか。

 しかし、そんな学校でも決して学校を休むことはしなかった。


 1年の頃から一度も休んではいない。 

 遅刻も髪を切った翌日が初めてだった。


「よし学校行こう」


 今は火曜の朝。

 あれからまだ1日しか経っていない。

 面倒臭い学校も変わってきた。


 それに今は刑務所にいる気分ではない。姫乃さんという話し相手がいる。

 それだけで楽しく思えた。

 そしてそれは2年になってから変わってきたことだ。 


 学級委員の姫乃さんの存在が、僕にとって大きいということも感じてきている。


 自分の中で変化が起きているのが理由だ。


 でも、僕はそんな優しい姫乃さんに、もういろいろ手伝ってもらうようなことはもう無くしたい。


「行ってきます」


 僕以外誰も住んでいない家に、僕はそう言ってドアノブに手をかけ、開けた。

 ドアを開けたその先に見える風景を見て、また思う。


 いつもは外に出るのか、と思っていた風景が、今ではよしこれからと前向きになっている。


 夏の暖かい気温。僕を照らす太陽。


「いい天気だな」


 そうして僕は汗をかきながらチャリで学校に向かった。

 そうして変わった髪型と共に、新たな学校生活が始まった。

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