陽キャラたち

「おお、お前髪切ったのか」


 僕が無言で席に座ると、お前如月だったのかと言いたげな表情でそう言ってきた。


 僕が座るまで気づかなかっただろう。


「お前の顔初めて見たぜ」


 いや、一回くらいは見てるだろ。口元だけど。

 でも目元は髪で見えなかった。


「……髪で見えなかったからね」

「可愛い目してるじゃねぇか」


 どうやら僕の顔は可愛いらしい。

 顔が可愛いの意味が分からないが。

 すると、そんな感想を漏らしている天堂のところに姫乃さんがやってきた。


「綺麗な目じゃんー」


 僕の方を向きそう言ってくれる。


「どこがだよ」


 酷い。天堂。なにか天堂は嫉妬してるみたいだ。


「うわぁ天堂くんひどーい。こういう人と絡んじゃダメだよ」


 姫乃さんはそんなことを言う天堂のことをバカにするように言った。


「うん」

「うん、じゃねぇよ」


 怖。


「似合ってんのがうぜぇんだよなー」

「褒めてるじゃん」


 姫乃さんがド正論を言う。


「いやぁ、これは褒め言葉じゃないぞ」

「じゃあなに?」

「んー分からん」


 天堂は少し悩んだが、そぐにそう結論づけた。

 そんな短い会話だったが、そこで話が区切れた。

 1軍の女子たちが天堂のところにやってきたからだ。


 姫乃さんもそっちの話に混ざっていき、僕はまた1人になった。 

 ふむ、やっぱり1人が一番落ち着く。


 姫乃さんと話しているときは心臓がバクバクだし、天堂と話しているときは親族がゾクゾクする。


 そんなことを感じながら僕は、姫乃さんたちはいつもどんな会話をしているのだろう、と初めて興味を持ち、耳を澄ませた。


「この後購買行くわよ」

「ジャン負け奢りな」

「嫌よ。いつもあたし負けるもん」

「やるしかないね」

「ほら、結愛もそう言ってるだろ」

「もう……どうせ負けんだし」

「アタシはいつも勝つ」


 そんなくだらない会話だ。

 結局そのいつも負けると言っていた人が負けていた。

 でも、そんなくだらない会話でも僕は分かる。


 どうせ僕はあの会話でもついていけない。

 あれはノリというものだろう。

 やるしかない雰囲気を出している。


 姫乃さんが「やるしかないね」と言ったことでやることが決まったようなものだ。


 すると、僕は初めて周りに興味を持ったのか、他の人たちの会話も聞こえてきた。


「え、あいつって如月だよな? 髪長いやつ」

「マジかよ。変わりすぎだろ」

「寝てるときに親にでも切られたんだろ」


 その考えはやばいぞ。

 すると高い声も聞こえてきた。


「うそっ。あれが如月? 雰囲気バリ陽キャじゃん」

「転入生? カッコいい」


 名前も知らないのかよ。


「如月かー。惚れそうだったけど如月って聞いて萎えちゃったよ」


 ひどっ。


「肌綺麗で羨ましいなー。ずるいずるいずるいずるい」


 そんな愚痴やら暴言が飛び交っていた。

 なので、僕は耳を塞いだ。

 これ以上聴いたら前の僕に戻ってしまいそうだ。


 髪伸ばそうかなぁ……。なんて。

 そうして学校が終わり、放課後の掃除の時間がやってきた。


 週ごとに掃除当番は変わるはずだが、先生が掃除できてないと謎の理由を言われ、また僕たちの番がやってきたのだ。


 そういえば、姫乃さんと話しただけで帰ったときがあったな。今思えばそのせいか。


 今日も1人なのかな……。



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