遅刻
「んぁ…………。あ……ヤッベ、寝坊した……」
予定より40分遅れて起きてしまった。
今日はいつもより早めに起きようと思い、アラームを早めにしたのだが、明らかにこの時間だと遅刻する。
僕は寝ぼけながらも起き上がり、すぐに学校に行く準備をした。
「遅刻なってもっと行きづらくなるじゃないか」
僕はパンを咥えながらそう言った。
寝癖だけはしっかり直し、髪型はしっかりとセットはできていないがドライヤーで整える。
まだ髪を切ってから見える視界に慣れないが、しっかりと準備をした。
前髪があるのと、ないのじゃ、見える世界が違う。
ほんとに別正解を見ている気分だ。
そんなことを思いながら学校に向かった。
そうして学校に向かっている間、生徒は誰も通らず、僕は1人でチャリを漕いでいた。
まあ遅刻しているのだからそんなもんかと思ったが、遅刻から入る学校は今の僕には悪魔だ。
そうして学校を目の前にして、僕は立ち止まった。この目にしっかりと見える学校。よく見ると意外と錆びている部分が多い。
そう感じたが僕はすぐにチャリを動かす。
そうしてチャリを自転車置き場に置き、昇降口に足を踏み入れた。
「うわぁ……緊張するな……」
足を踏み入れたのは良いものの、やはりか、まだ誰にも見られるわけでもないのに、髪を切った後の学校は緊張する。
教室に入るともっと緊張するだろうな。
と、僕はゾクゾクしていたのか、昇降口に向かってきている足音に気づかなかった。
僕は昇降口に入って来る人から見えない柱の裏で隠れていたので、その足音の人は僕の存在に気づいていない。
そうして、僕は足音に気づくことなくいると──
「わわっ」
僕のすぐ近くでそんな声がした。
「びっくりしたぁ……」
おそらく急に見えた僕にびっくりしたのだろうか。
申し訳ない。ん? この声、姫乃さんじゃね?
僕は恐る恐る声の主の方を振り返った。
「……」
言葉が出ない。やっぱり姫乃さんだ……。
僕は咄嗟に後ろを向き、誰か分からないようにした。
髪を見られるのが恥ずかしいというのもあるが、向いたときの姫乃さんの頬を膨らませていた顔がとても可愛かくてつい逸らしてしまったのもある。
「むぅ……」
そんな声がすぐそこで聞こえるのだが、早く動いてください……姫乃さん。
そこで僕から逃げようと思い、足を動かした。
「ちょっと。なんで逃げるの?」
「え、い……いや……」
まさかの腕を掴まれた。
「言うことないの?」
「ごめんなさい……?」
「なんで疑問系なのよ」
「こっち向いてよ」
この人は初対面の人にこんなことするのか?
僕は顔がバレていないはずだ。
それにこの顔も見ていないはず。つまり姫乃さんからしたら誰かも分からない人にそんなことを言っているということだ。
しかし姫乃さんの握る力が強くなってきている。
まだか弱い女子なため痛くはない。それより少しくすぐったい。
そうして僕は仕方なく振り向くことにした。
どうせ教室にでも行ったら分かることだ。
早めに知ってもらった方が気持ち的にも楽、そう切り替えた。
そして僕が振り返ろうとすると、
「如月くんなんでこっち向いてくれないの?」
「え」
「だから、なんでずっと私のことを目で見てくれないの!」
「……」
「黙らないでー!」
最初に見たときにすぐに如月くんだと分かったと言って、頬を膨らませている。
「なんで分かったの……?」
「口元だけでも分かるよ。何回話してると思ってるの?」
まさか最初から気づかれていたのか。
うわー恥ずかし。
「髪の毛似合ってるよ」
僕は恥ずかしいと思い、髪をイジっていると、姫乃さんからそんな言葉をもらった。
「似合ってるかなぁ……」
自信がなさそうに言った。
「うん、似合ってる。やっぱり切ってよかったね」
自信持ってといった感じで姫乃さんから言われる。
似合っているだろうか、前よりもカッコよく見えるだろうか、そんな心配がその姫乃さんの一言で消え去った。
「それより!」
そこで思い出した感じで姫乃さんが大声をあげる。
「私たち遅刻だよ⁈」
「そうだった」
姫乃さんは猛ダッシュで走っていき、僕はそれに着いていく。
女の子みたいに前髪を押さえながら走っていき、僕たちは教室についた。
どんな反応をされるのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます