美容院カット

「僕に似合う髪型でお願いします」

「そうだねー。髪の毛のセットは自分でできる?」

「……できないです」

「おっけい。よし決めた」

「あ、前髪は目の上でお願いします!」

「はいよ」


 僕は休日の土曜日、髪の毛を切りに、美容院に来ていた。


 髪の毛を切った方がいいと言われてから、カッコよくなりたいなと思ったが、どんな髪型が似合うか分からない。


 美容師の人には、上手く髪型を要求できなかったが、納得できる髪型にしてくれそうだ。


「では、髪を濡らすのでこっちへ」


 僕はそう誘導されそっちに向かう。

 そうして髪の毛を濡らし、カットが始まった。


「よく伸ばしたねぇ」

「なんかいつの間にか伸びていました」


 自分で分かっていることを言われる。

 ほんとに髪を伸ばし始めてからいつの間にかこんなに伸びていた。


「カッコよくできそうだよ」

「……そうですかね……?」


 髪を結構切ってからそんなことを言ってくれるが、僕には結局自信がない。

 そうして会話を弾ませながら、前髪で隠れていた目が見えてきた。


 お風呂でも見えることはあったが、じっくり見ることはない。久しぶりに見たという感覚だ。


「いい感じです……」


 カットがあまりにも上手で、そう声に漏らしてしまった。


「いい顔だね」


 ニヤニヤしていたのか、そう言われてしまう。

 周りは刈り上げで爽やかに、前髪は眉毛くらいまで切った。 


 前髪で目を隠していた頃とは全く違う。髪型が変わると鏡に映っている僕の雰囲気が違う感じだ。


 そうして僕は髪を切り終わった。


「ワックス付ける?」

「あ、お願いします」


 僕は自分でワックスを使いセットはできないが、セットしたらどうなるか、セットはどうやるのかが気になり、頼むことにした。


「任せて」


 そうして若いお兄さんはワックスを手に馴染ませ、僕の髪にも馴染ませていった。


 そして髪全体にワックスを馴染ませると、束間を作っていく。 

 それを見ていて分かるが、僕にはセットは無理なようだ。

 絶対にできそうにない。


「どう?」


 セットし終わると、僕の髪をチョンチョンと触りながらそう言ってきた。


「いいですね……」

「よし、これでできたよ」


 そうしてセットが終わり、いつもとは違った僕が鏡越しに見えた。

 鏡越しに写っているのが自分とは信じられなく、何秒も見つめてしまった。

 親にも誰、と言われるかもしれないほど、変わっていた。


 今の僕は天堂みたいな雰囲気ではないだろうか。

 髪が短めでセットをしている。

 見た目は陽キャラ、中身は陰キャラという状態だ。


 来週の月曜からはできないだろうが、今はセットをしてアップバンクという形

のセットをしている。


 だが、セットはできない。月曜からは前髪を下ろして登校することになる。

セットできるようにしたいな。


 そんなことを思いながら僕は会計を終わらし、家までセットが崩れないよう注意して、帰路についた。


 帰ってきてすぐ鏡に向かった。


***


「うーん……、セット上手くいかない……」


 土曜日にカットしてもらってから、何度も鏡で自分の顔や髪を見ていた。まるで別人のようだった。


 しかし日曜、髪の毛のセットを練習してみようと思い、ワックスやヘアスプレーを買ったが、初めてのセットはやはり上手くいかない。


「まあ、僕にできるわけないか」


 僕はそこで諦め、漫画を読むことにした。

 そして2巻くらい読んで飽きてしまう。なにをしよう。


「暇だ……」


 陰キャラというのはほんとに暇なときが多い。

 遊ぶことがなければ、誰かと連絡をとることもない。

 陽キャラの人たちは今頃なにをしているのだろう。


 部活か? それとも買い物とかカラオケとか、今の時期だと海に言っているのか。それとも彼女と家でセックスでもしているのか。


「僕には雲の上か」


 ベッドの上に寝っ転がりながらそう呟く。

 僕の高校生活はこんな1日が続くのか。

 まあもう慣れてしまったから耐えれる。慣れは怖いなぁ。 


 こんな生活に慣れてしまったら将来どうなるか。

 表に出ない仕事に就くか。そうだとしたらかなり職業が絞られる。


 だったらお金持ちの女性と結婚するか。

 いやいや、それが一番ない。まず彼女作れない僕にそんな考えはあり得ないな。


「彼女ってなんだろう……」


 好きになって告白してカップルになる。


 その後は? いっぱい遊んで思い出を作る? そんなの大人になったら忘れる。


 じゃあカップルになってからするようになるセックスか? 

 半年以内に大体の人はそういう行為に入っている。

 早い人なら1ヶ月以内にはしている。


 告白というのはセックスをするためなのか? いいや、好きな人を独占するためか。分からない。


「いいや、僕には考えることないことだし」


 こんなことは今まで考えたことがなかった。

 らしくないことを考えていたなと思いながら、僕はゲームを始めた。

 時間潰しにちょうどいい。


 そうして外が暗くなるまでゲームをしていると、僕は明日のことを考え始めた。


「学校どうしよう……」


 いや、マジでどうしよう。

 学校に行って、自分の髪を見られるのが恥ずかしい。


 スポーツやっている人がサッパリ髪にするのは分かるが、ロン毛がサッパリ髪になるのはかなり引かれる。


 絶対にキモがられる。

 その視線も想像できてしまう。


 え、誰。もしかしてあの髪長かった子? ……マジ? みたいな。

 なので、明日の学校が嫌で嫌でしょうがない気持ちになった。


 しかし学校を休むわけにはいかないのも事実。黒板係が誰もいなくなるし。天堂がいるが。


 でも、僕が休んだらもう1人の黒板係の天堂にいろいろ言われるかもしれない。


 そっちの方が怖かった。


「行くしかないかー……」


 しょうがないといった感じでそう呟いた。

 今日も鏡で5分自分と見つめあった。

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