第一章 学校生活
学級委員の女子
高校1年生が過ぎ、高校2年生の春──
「如月さーん、黒板よろしくねー」
そうどこの誰の声かも分からない声が、僕の名前を読んでそう言ってくる。
黒板係の名簿のところには僕の名前、如月瑠翔(きさらぎるいと)の名前が書かれている。
が、もう1人の名前が僕の隣に書いてある。
しかしそのもう1人の人は決して黒板係の仕事をしようとはしない。
陰キャラの僕にそれを任せるだけだ。
「はーい」
僕はそれに小さな声で答え、黒板に書かれているものを消す。
こんな毎日が1年から続いている。
今では高校2年生になってしまい、つまらない1年を過ごしてきた。
何もいいところのない陰キャラな僕は、前髪で顔を隠し、誰とも喋らないで過ごしてきた。
そんな1年がもう終わり、高校2年生の夏にまでなってしまっている。
どれだけ時間を無駄にしただろう。
しかしクラス替えから約2ヶ月ちょい。変わったことがある。
1年の頃と変わったとすれば──
「如月くん、私も手伝うよ」
そう、この声の存在だ。
彼女の名は──姫乃結愛(ひめのゆあ)。
このクラスの学級委員の立ち位置にいる女子だ。
色白で目がクリンと丸く、美しい顔。そして笑顔が可愛く、このクラスでも中心にいる女子である。
こんな僕が話せるような人ではない、雲の上のような存在だ。そう1年の頃から思っていた。
「いつもありがとう……」
僕がそう言うとニコッと可愛らしく微笑む。
姫乃さんは毎回ではないが、なぜか僕の黒板消しの仕事を手伝ってくれる。
正直嬉しいのだが、このクラスで何の目立ちもない僕に話しかければ、姫乃さんの評判が悪くなってしまう。毎回そう思っている。
しかし、僕は話しかけない方がいいとは言えず、いつもいろいろ手伝ってもらったりしている。
手伝ってくれているのにやらなくていいよなんて言えなかった。
僕は彼女の優しさに甘えていたのかもしれない。
そうして無言で黒板を消してくれ、友達のところに戻っていく姫乃さん。
優しい人だ、と思う。
姫乃さんはクラスの中で中心的なグループと今は話している。
そんなことがあり、学校は終わった。
そして放課後の掃除がやってきた。僕は今週、掃除当番になっている。
そして放課後になった教室にはまた僕1人取り残されていた。
しかし──
「もぉ〜。また1人でやってる。皆にしっかり言わないとダメだよ」
廊下から姫乃さんが顔を見せた。
足音がしてる、と思ったが、どうやらその足音は姫乃さんのようだ。
「皆帰っちゃった」
僕はそんな姫乃さんの言葉にそう答えた。
「そんな暗い声で言わないの。私も手伝うからね」
「いや……」
僕は優しい姫乃さんの行動を断ろうとしたけど、姫乃さんの言葉と僕に触れたことで遮られる。
「友達は先帰ったからさ。ほらやろ」
ほらほらといった感じで僕の手を引っ張った。
触れるたびにドキりとするが、隠れている僕の顔から表情を窺うことは難しいだろう。
「……ありがとう」
結局、姫乃さんに甘えて手伝ってもらうことになり、1人ではなく、2人で掃除をした。
そうして掃除が終わった僕たちは別れの挨拶だけして別れる。
僕はこの後何もすることはないので、大人しく帰った。
2学年になってから生活がかなり変わった。
1年の頃は今のように話しかけてくる人もいなければ、2人で掃除をすることなんてなかった。
それに最初は顔を隠すような髪はしていなかった。
友達作りに失敗した僕は、髪を切るのも面倒くさくなり、女子からの目線なんて気にしなくなり、それから髪を伸ばしてこうなったのである。
だが1年の頃と比較すると明らかに違うことがある。
姫乃さんの存在。学級委員の立場で、学校でもカースト上位の存在。
こんな周りに興味を無くした僕でさえ姫乃さんの存在は知っている。
それほど学校では目立ち、美しい人なのだ。
そして僕は自分の中でも何かが変わっていっている気がしている。
1年の頃誰とも喋っていなかった僕が姫乃さんに話しかけてくるようになってから──何かが心の中で変わっていっている気がするのだ。
なんだろう──カッコよくなりたい、そんな感情か……。
そう思い始めている気がする。
それは姫乃さんが話しかけてくれるようになったからだと思っている。
そんななにかが変わり始めたのは2学年に上がったときだ──
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