十二ページ目:デビューした日
2021年1月10日、『俺のVTuber活動日誌』を投稿して約1か月。とうとう、この日を迎えた。
「03、そろそろ始まるけど大丈夫」
「大丈夫でーす」
時刻は20時50分を過ぎ、すでに待機画面ではそれなりに苦労して作ったミニアニメ的な動画が流れている。『Now Loading』という文字が時間差で回転し、アバターの設定が宇宙人なのでロケットや惑星、流れ星が一定の速度で動くアニメーションだ。
「じゃあ、始めます」
他に準備のし忘れがないか確認していると21時になったのでミュートを外してすぐに画面を待機動画から配信画面へと切り替える。OBSの画面が変わったのを確認して話すために空気を吸った。
「はい、皆さん、セイハロー! 初めまして、ホッシーと申します」
2021年1月10日の21時、俺はVTuberデビューを果たした。
――ヤッホッシーセイハロー
――セイハロー
――ヤッホッシー
「あ、よかった。一番不安だったチャットも画面に出てますね」
アバターや画面上に表示されている文字は放送前から確認できるが、チャット欄だけは実際にチャットを打ってもらわないとちゃんと設定できたかわからなかったのできちんと表示されてホッと一安心だった。
「でもね、ヤッホッシーを流行らせようとしないでください。セイハローですよ?」
ニコ生のリスナーさんたちがいつものようにいじってくるので笑いながらツッコむ。やはり、VTuberになっても常連さんとの関係は変わらないようだ。
「それでは、改めましてホッシーと申します。今日から執筆系VTuberとして活動することになりました」
それから数人の人が挨拶してくれたので名前を呼んで挨拶する。とりあえず、デビュー配信来場者0人は免れた。さすがに0人だったら心が折れてしまいそうである。
「実はですね、自己紹介動画を見てくれた方はわかると思うんですけど私、宇宙船『キキョウ』に乗ってる者なんですが色々ありまして……気づけばこんな体になってしまったんです」
そう言いながら表情を動かすとアバターも同じようにそれを変える。トラッキングも上手くいっているようだ。
「その時に動画に出てきた03に『お前、VTuberになれよ』って言われて……実は自分もあまり事情を知らないんですよね」
それから03が登場するタイミングを図るためにアバターを動かしながら前振りを行う。あらかじめ03には特定の言葉を言ったら入ってきてもらうようにお願いしているが、上手くいくだろうか。
「デビュー配信中に説明するって言ってたんですけど……来ねぇな。エネルギーが足りないから寝るわ』って言っててここ1か月くらい話してないんですよね。あれ、全然来ないな」
「……ふわぁ。よく寝たぁ」
「あ、03、おはようございます」
「おはようございます」
欠伸をしながら登場した
「では、ここで音量調節しますね。私と03とBGMの音量は大丈夫ですか?」
――きこえてまっせ
――きこえるやで
――聞こえてますー
――問題なく聞こえるね
「まだ眠いわぁ」
「まだ眠い? もうちょっと頑張って。あと1時間やるつもりだから」
「ねぇ、寝ていい?」
「寝ちゃだめですよ! 事情を説明してください!」
03の設定は宇宙船『キキョウ』に搭載されているAI、としか決めておらず、彼女の言動は彼女自身に決めてもらったのだが、ダルダル系で行くらしい。
それからアバターの話や宇宙船が墜落した原因、チャンネル登録数が増えると元の体に戻ることができるという設定を03と話しながら説明していく。話す内容だけ軽く話しただけで台本など全く用意していなかったが、さすが7年も付き合いのある相棒だ。詰まることなくするすると話が進んでいく。
「あれ、でもさ、チャンネル登録数が増えればエネルギーも増えるってのはわかったんだけど、どれくらい増えたらどんなことが起きる、とかわかってないの?」
「だいたいですね1000人くらい集まればこの03が具現化します」
「具現化!? え、なに? 俺の体を取り戻す前に君の体を作らなきゃならないの!?」
「だって、あなた、なんの可愛さもない星ですよ? ただの星に人が集まると思います?」
「……スゥ」
まぁ、確かにこんな星に人が集まってくるとは思えない。自分で指定したアバターだが、それは自分自身でも自覚していることだった。
――何の可愛さもないwww
――何の可愛さもない……で顔がスン……ってなったのくさ
「だから、私が一肌脱ごうということですよ」
「わかった、まずは君の体を手に入れることを目標に頑張ろう。えっと何? 1000人? ふざけてんのか、大変だろ。あぁ、俺の体はいつ取り戻せんだよ!」
「まぁ、がんばってもろて」
「いや、頑張るけどさ……頑張ります」
なんとか設定のくだりを終え、次に挨拶やタグについて説明していく。内容に関しては小説の方で書いているので割愛するが、タグが変わったものがあった。
「次はファンアートですねー。これは私が考えました……それがこちら、『Starwrite』!」
――#Starwrite☆彡
タグの説明をしている途中でチャットが流れた。俺が考えたタグに☆彡が付いていた。
「あー、その流れ星は弾かれちゃいそうですけど……いいですね。欲しいな」
「文字だけより、記号ついていた方がいいんちゃいます?」
「じゃあ、貰いましょう」
ファンアートのタグをその場で変更し、『#Starwrite☆彡』になった。
なお、デビュー配信の次の日、Twitterで『☆彡』をタグとして使用できないことがわかり、どうするか頭を抱える羽目になるのだが、この時の俺たちはそんなことを知る由もなく、意気揚々とタグの説明に戻った。
「じゃあ、これが最後ですかね。ファンタグです。『プラネットメイト』です。このメイトはクラスメイトとか、ソウルメイトのメイトで――」
――交信者でええんちゃう
「……はっ! それは、いいな」
配信タグの『キキョウより交信中』にもかかっているし、なによりわかりやすい。『プラネットメイト』も苦し紛れに決めたものだったのであまり納得していなかったのだ。
「03、どう思う?」
「ええんちゃいます?」
「適当だな……じゃあ、ファンタグは『交信者』に決定です」
その後は突発的にファンマークについて話し合い、アンテナの絵文字の横に☆を置くように決まった。星からの電波を受信しているアンテナというイメージだ。
「では、続きまして……色々説明することがありまして――」
それから自分の活動内容を説明していく。特に『俺のVTuber活動日誌』に関してはライブ配信の様子や実際に打たれたチャットが小説に登場することを話した。
そして、あっという間に1時間が経ち、配信終了の時が近づいてきた。
「では、小説の評価もよろしくお願いします! この後、22時30分からの『M〇NECRAFT配信』にも遊びに来てくださいね!」
そう言いながら配信を終える準備を進める。配信の切り忘れだけは絶対にしてはならないので慎重に動作を確認した。
「じゃあ、一発目のあの挨拶をしましょうか……それでは、みなさん、以上、交信終了! お疲れさまでしたー!」
「じゃねー」
こうして、VTuberデビュー配信はなんとか無事に終えることができた。
次回はこの後すぐに行われた『M〇NECRAFT配信』について語ろうと思う。なお、遊びに来てくれた交信者たちを阿鼻叫喚させた回だった、ことだけは言っておこう
それでは、皆様、また、次のお話でお会いしましょう。
アーカイブ:https://www.youtube.com/watch?v=foTn_bS3mz8
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