九ページ目:タグを決めた日
「それで話の続きなんだけど」
拠点に戻るためにトロッコに乗りながらタグ決めの話に戻る。ブランチマイニング場はメイン通路にレールを敷き、左右にどんどん通路を増やしていくやり方を採用しているため、拠点に戻る度に少しばかり時間ができるのだ。
「とりあえず、決めたいのは配信のタグかな。これも名前の一部とか付けたいよね」
「ライブ配信のタグだよね? 『ほしライブ』とか?」
「『こんほし』と同じ匂いするんだよなぁ」
それに『ほし』はよく名前に付くことがあるので安易に付けたら被ってしまう可能性が高い。あと、ありきたりすぎて目立たないのだ。わかりやすいのも大事だが、なにより個人勢の場合、目を引くタグでないと興味すら持ってもらえないだろう。
「『ホッシー』という名前に関係してて、目立つし、わかりやすいタグ。さぁ、皆さん、考えてください」
「難しくない?」
「なお、ファンアートのタグはすでに考えてます」
――何故、ファンアートのタグは思いついてんだw
――また、勿体ぶるw
「すぐに思いついたんだよ……マジで配信タグが思いつかなくてな」
道具整理を終わらせ、再びブランチマイニング場へ。なお、拠点滞在時間は僅かに5分である。鉱石を置き、不足した道具を補充し、並べ替えただけだ。
――確か、宇宙船に乗ってるって設定だったよね?
しばらくひたすらブランチマイニングする映像が流れた後、リスナーさんの一人がそんな質問を投げかけてきた。そう、『セイハロー』を生み出したリスナーさんである。
「そんな感じ。宇宙船で不時着しちゃって色々あってVTuberをやることになった」
――なら、宇宙船の名前とかは?
「いや、決めてないけど」
なるほど、宇宙船の名前か。特に考えていなかったが、確かに決めておけばこの先、使えそうである。だが、いきなり宇宙船の名前を決めろと言われてもさすがにすぐには思いつかない。
――それで、その宇宙船から交信してるって感じにすればいいんじゃね?
「……〇〇から交信中って感じかな」
突然、Twitterで『〇〇より交信中』とタグが流れてきたら目を引きそうである。宇宙船の名前も『ホッシー』に関係することにすれば――。
「……宇宙船の名前かぁ。うん、ちょっとこれは俺が決めていい?」
「うん、いいよ」
――『ホッシー』に関係する名前にすればわかりやすいのだろう。でも、どうしても付けたい名前があった。
名前には関係ないが、俺らしい名前。
よく聞く名前だが、わかる人にはわかる、俺にとって特別な名前。
(まぁ、多分、わかる人は少ないだろうけど)
心の内で苦笑しながら、それでもはっきりと宇宙船に名前を付ける。
「宇宙船『キキョウ』」
キャプテン『ホッシー』は宇宙船『キキョウ』に乗り、地球の近くを飛んでいた。しかし、その途中、小さな星と激突し、地球へと不時着。その後、宇宙船『キキョウ』に搭載されていたAI、『03』と共にVTuberになることを決意する。どうして、VTuberになる必要があるのか、それはここではあえて語らないが、チャンネル登録数が一定数を超えると成長するVTuberとして活動するのだ。
「じゃあ、配信タグは『キキョウより交信中』で決定だな。それなら締めの挨拶も『通信』じゃなくて『交信』にするか。なんか『通信』と『交信』に違いってあるのかな?」
――あんまりないっぽい
「なら、『交信』の方が宇宙人っぽいからそっちにしよう」
リスナーさんがパパっと調べてくれたおかげでスムーズにタグが決定した。少しずつ形になっていく様子に自然と笑みが零れる。
「それでファンアートのタグなんだけど、英語表記で『
――描くってdrawじゃない?
――英語のタグって使いにくそう
「スタードローって語呂悪いし、執筆系VTuberを目指してるから『書く』って意味の『write』ともかかってるんだよね。タグに関してはコピペして使ってもらうことにしました」
リスナーさんの意見に答えると納得してもらえたのか、特に反対意見もなく、ファンアートのタグは『Starwrite』になった。これで予め考えていたタグは全て決め終わったのでホッと一安心。
しかし、本当の地獄はここからだった。
「他に決めるタグってあったっけ?」
――終わったんじゃね?
――一回帰ってきて。寝たい。ファントムうじゃうじゃいるんだけど
――ファンタグは?
「ファン? あと、ブランチマイニング中だから帰れないわ」
マルチに参加しているリスナーさんのコメントを一蹴しながら確かにファンの呼び方も決めておかなければならないだろう。まぁ、そこまでファンが増えるかどうか不安だが。
「ファンかぁ……全く考えてなかったなぁ」
少し考えてもアイディアが全然出てこない。そもそもファンができるとは思っていなかったので完全に不意打ちだった。
「なんかアイディアある? 正直、思いつく気がしないんだけど」
――メイトとかは?
「クラスメイトのメイト? あとはソウルメイトとか?」
どうやら、メイトとは『友達』という意味があるらしい。確かにそれならファンタグに使えるだろう。
「あとはこれをどう『ホッシー』に融合するかだな」
――それが難しすぎるんですけど
「そうなんだよなぁ」
『ほし』がありきたりすぎて安直に融合すると途端に『こんほし』臭がぷんぷんするのである。『ほしメイト』とかダサすぎて考えた瞬間、宇宙の彼方へ放り投げるレベルだ。
――あと、メイトって男友達って意味っぽい
「男友達か……なら、一応、保留して別なの考えてみるか」
だが、30分以上経ってもそれ以上の案が浮かばず、結局、『メイト』を使ったタグにすることにした。
「もう、宇宙か? 宇宙っぽいのでもいいよ」
――プラネット?
「……プラネットメイトか」
とりあえず、語呂はいい。直訳は『惑星の男友達』だが、それぐらい緩くてもいいかもしれない、と思えなくもなかった。きっと、考えすぎて感覚がマヒしていたのだろう。
「じゃあ、プラネットメイトにしよう。あとはデビュー配信で遊びに来てくれたリスナーさんに意見を聞いて変えよう」
ほぼやけくそ気味に終わったが、これで必要最低限のタグは決めた。
最初の挨拶、『セイハロー』。
締めの挨拶、『以上、交信終了』。
配信タグ、『キキョウより交信中』。
ファンアート、『Starwrite』。
ファンタグ、『プラネットメイト』。
ファンタグが異常に浮いているが、一先ずこのままで行こう。あとはデビュー後の俺に任せればいい。因みに『セイハロー』、『キキョウより交信中』、『プラネットメイト』を決めたのは一人のリスナーさんである。
――全部、俺の意見じゃんw
「マジで助かったわ、ありがと。それじゃ、タグも決め終わったので今回の生放送はここまでにしましょう」
「はーい」
こうして、ブランチマイニング改めタグ決め放送は終了した。いつものようにグタグタだったが充実した生放送だったので満足である。
では、毎度お馴染みのちょっとした次回予告。次話で書くのはまだ書いていない俺の活動――サークルについて。まだ一冊も本を作っていない出来立てのサークルだが、それについて語りたいと思う。
それでは、皆様、また、次のお話でお会いしましょう。
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