『祭りの後』

 二〇時。

 模擬店は全ての食材を吐き出し尽くし、すでに片付けを終えている。

 ステージ部門は予定していた全てのプログラムを終了し、体育館にはもう誰もいない。

 保護者と地域住民はすでに帰宅し、残っているのは魚定生徒と教員だけだ。

 グラウンドにバカみたいにでっかくて重たいブルーシートを広げ、ファイアーストームの周りを囲むようにそれぞれが腰を下ろしている。グラウンドの本格的なナイター照明に照らされた表情は、生徒も教師も区別なく、どの顔もみな疲れ果てている。

 翔太ももちろん死ぬほど疲れ切っていたが、まだ倒れるわけにはいかない。

 後夜祭の始まりだ。

 生徒会長の矢沢琢磨が誇らしげに、壊れたモップの柄と古いカーテンの生地で作ったお手製松明を掲げる。カーテンには灯油がたっぷりしみ込ませてある。翔太が地面に固定したろうそくに火を点すと、中村の合図で鬼谷が体育教官室からグラウンドのナイター照明を消した。

 暗闇に慣れていない目には、真の暗闇が訪れたように感じる。

 ろうそくの火が弱々しく揺らめいているが、その明かりでは周囲三〇センチ程度しか照らされてはいない。すぐそばにいるはずの琢磨の姿さえ、満足に視認することができない。

 と、ろうそくに照らされた明かりの輪の中に、ぬ、と松明の先端が突き込まれた。

 次の瞬間、本当に『ぼわっ』と音を立てて、松明が燃えがった。周囲から歓声が上がる。

 琢磨が火のついた松明を掲げ、

「みんな! 今日はほんとにお疲れ様でした! めちゃくちゃ楽しかった! このキャンプファイアー……じゃねぇや。なんだっけ。そう、ファイアーストームが燃え尽きるまで、ゆっくり余韻を楽しみましょう!」

 大きな拍手。琢磨が松明を構えてファイアーストームの櫓に近づくと、拍手はぱらぱらと鳴り止み、じわりと緊張感が高まった。

 琢磨が松明を先端から櫓の中に突っ込み、そのまま手を離す。

 一瞬、炎が見えなくなる。周囲で、え? ついてる? 消えたんじゃね? というざわめきが起こるが、すぐに櫓の下の方にちろちろと炎が見え出す。櫓にかけてある灯油に引火したらしく、黒い煙を煤けさせながら次第に炎が大きくなっていく。

 櫓の上にまで炎が上がるようになって、息をのむように炎の成長を見守っていた生徒たちがようやく歓声を上げた。拍手が巻き起こる。

 あとは、それぞれが思い思いの場所に陣取り、炎を眺め、空を見上げ、語らう。

 翔太もやっと一段落した。朝から模擬店準備や運営の手伝いで走り回ってもうヘトヘトである。こわばった両足は借り物のように言うことを聞かず、座り込んだらもう二度と立ち上がれないのではないかと思われた。

 それでも、やってよかったな、と心から思う。

 周囲を見渡せば、生徒も保護者も教員も、本当にいい顔で笑っている。どの顔も赤く上気して見えるのは、炎に照らされているからだけではあるまい。

 途中で、赤青コンビが来ているのを見かけた。例年なら、退学者が文化祭に乗り込んできたなどと大騒ぎになるところである。

 楽しんでくれているように見えた。

 青山などはふざけて流しそうめんのレールを壊して生徒会の連中にこっぴどく叱られていたし、赤井はラーメンに俺ならもっとうまくできる、と生意気なことを言っていたが、どちらの顔も最初から最後まで笑顔だった。

 ――もう少し早く、なんとかしてやりたかったなぁ。

 呆けたような顔で燃え上がる炎を見つめながら、翔太は思う。

「しけた顔してんな。文化祭が大成功だったんだ。もちっと満足そうな顔しやがれ」

 心地よい濁声に顔を上げると、そこに松田のひげ面が満面の笑みを浮かべていた。

「あ、先生。来てたんですか」

 松田は翔太の隣に腰を下ろしながら、

「さっき来たんだ。模擬店はほとんど売り切れだったが、おめぇのとこのラーメンだけは、食えたぜ。ありゃあ、お世辞じゃなく店で出しても金とれるレベルだわ」

「……ありがとうございます」

 しばし、沈黙。二人でファイアーストームの炎を眺める。思っていたよりもずっと火勢が大きいが、待機している消防団員が何も言ってこないということは想定の範囲内なんだろう。

「なんか、いい感じだな」

「……そうですね。行事も、生徒指導も、やっとうまくいき出した、って実感があります」

「なるほどねぇ。んじゃ、自分の中の『基準』ってやつが、できたんだな?」

 炎はさらに大きくなり、櫓の上に見てわかるほどの上昇気流が起こる。灰や煙や火の粉が巻き上げられ、ずっと上空まで運ばれていく。

「そう……ですね。なんとなく。基準って言えるほど明確じゃないかも知れないんですけど。今は、何か迷うことがあったら、こう考えるようにしてるんです。『俺が高校生のときには、どんな指導を受ければ響いたかな』って」

「ほう。過去の自分を基準にしたわけだ」

「きっかけは、先生のおっしゃってた『主観的合理性』なんです。生徒に対しても、あの考え方で想像してみたんです。そしたら、『あの頃の自分なら、どう思ってたかな』って考えてることが多くなってきて。そもそも、俺って『教師』が嫌いだったんですよね、高校のとき。だから、自分が嫌いだった『教師』とは違う教師に俺がなって、昔の自分みたいな生徒を導いてやりたいな、って。それが教師になった理由だったんだ、って。ずっと忘れてたんです。いつの間にか、『教師として正しい判断をしないと』ってそればっかり」

 翔太はちょっと笑いながら、

「自分でもおかしいんですけど、そうやって考えてみたら今までの指導って、高校生のときの自分が言われたら一番腹立つやつだったんですよね。教師って立場から、頭ごなしに、自分本位の正義を押しつける。もう最悪。なんで今まで気づかなかったんだろう、って」

「でも、今はもう気づけてるわけだ。最高じゃねぇか」

「……ありがとうございます」

「せっかくだからよ。このあといつもの東岸壁の野営場で、焚き火囲んで朝まで飲むか?」

 翔太は苦笑い。

「さすがに朝までは……最近、徹夜が続いてて、ほんとにしんどいんですよ。でも、ちょっとだけなら。なんせ、お酒が飲みたい気分です、今」

「ちょっとぉ、内田くーん、何話してんのよぉー。お疲れー」

 座っている翔太に背後から突然しなだれかかってきたのは、中村である。声までぐでんぐでんで、酔っているのが一目で丸わかり。翔太は慌てて中村の体を支えながら、

「ええっ! 中村さん、飲んでんですか!? 駄目じゃないですか鬼谷先生、なんで止めないんですか!」

 中村のすぐ隣にいる鬼谷が頭をかきかき、

「いやぁ、ちょっとぐらいいいかな、って。したら中村、めちゃくちゃ下戸でよぉ、グラスいっぱいでこれなんだよ。参った参った」

 中村がむくりと頭をもたげて鬼谷をびしっと指さし、

「せんせーも、きょーはんですからねー」

 どうやら鬼谷も飲んでいるらしい。こちらは全然普段と様子が変わらない。

 翔太の背中にもたれかかったまま、中村がなぜか浅井教頭のものまねを始める。

「鬼谷せんっ、せんっ、あかんで! まだ勤務時間中やで! あははははははっ」

 一人で爆笑している。

「ちょっと、静かにしてください。さすがにまずいですよ……!」

 浅井教頭や生徒、生徒の保護者たちにみつかる前に、どこかに隠すのが吉だろう。

「鬼谷先生も、手を貸してください」

 翔太は鬼谷とともに中村に肩を貸して無理矢理引き起こす。駄目だ。ほとんど力が入っていない。ぐでぐでのゴム人形を抱えているような手応え。定時棟を目指してほとんど引きずるようにグラウンドを半周したところで、翔太は体操座りをしながら一人ファイアーストームを見つめる生徒を見つけた。

 神林リン。

「ちょっとタイム、一回休憩してもいいですか」

 中村を手近なブルーシートに下ろす。中村はすでに寝息を立てている。酒に弱いのももちろんだが、おそらくここ最近の疲れが一気に出たのだろう。

「ちょっと、中村さんお願いしますね」

「ん? ああ」

 鬼谷と中村をあとにして、翔太はリンの方へ歩み寄る。

「お疲れ様。ほんっとに、楽しかったな……文化祭」

 しばらく間があり、リンがかすかに頷く。

 翔太は腰を下ろしながら隣を見て、ぎょっとする。

 リンが涙を流している。

 表情はほとんどいつもと変わらない。無表情のまま、ただ涙だけが頬を伝い、形のいい顎から滴り落ちている。

 翔太は慌てて声をかけようとしたが、思いとどまる。

 リンの口元が、かすかに微笑んでいるように見えたからだ。

「……ありがとうな」

 リンがすん、と鼻をすする。

「……何が……ですか……」

「……ラーメン班に入ってくれて。おかげであいつらのモチベーション爆上がりだったよ」

 リンが小さく首を振る気配。

「いや、マジだって。やっぱり、なんかやるときに男ばっかりか、一人でも女子がいるか、ってのはでかいんだよ。わかんないかも知れないけどさ。そういうもんなの」

「………………」

「それに、アイデアもたくさん出してくれたしな。ラーメンを半玉で売るのもそうだし、トッピングにバターを追加したのもそう。チャーハンも、神林のアイデアだっけ?」

 リンが首を振る。

「……違う。それは織田くん……」

「そっか……」

 洋介、か。あいつも変わったな、と翔太は思う。違うか。変わったのは俺の感じ方の方なのかも。勝手にガキ大将だ、わがままだ、って決めつけて。来者かも知れない、なんて疑って。あいつが何を感じて、何を考えてるかなんて、今まで気にしたこともなかったもんな。そりゃ、わかり合えるはずもないよな。

 グラウンドを見回すと、ちょうどファイアーストームを挟んだ反対側で、金髪トリオがアカペラでオクラホマミキサーを歌いながらフォークダンスを踊っているところだった。あいつらこそ酒を飲んでるんじゃあるまいな、と翔太は苦笑する。

「それからさ。このファイアーストームのアイデアも、ありがとうな。この後夜祭がなかったら、ここまで感動できなかったよ。神林のおかげだわ」

 翔太はリンを真っ直ぐ見つめた。ひぐ、とリンの泣き顔が濃くなる。この二年間、ここまでリンが感情を表に出すことは、少なくとも翔太の知る限りでは一度もなかった。

「ほら見てみろよ。周りのヤツらの満足そうな顔」

 リンは言われるまま、顔中で泣きながら、周囲を見渡す。

 奇抜なアイデアで真冬にかき氷屋を成功させたゲームオタクたちは、そろってブルーシートの上に転がっている。本当に寝ているのかと思いきや、時折空を指さして何事か話している。

 野田芽衣と関亜香梨のコンビはどこに隠していたのか、四年有志が販売していた焼き鳥のパックを持ち出してジュースで乾杯している。

 藤堂仁でさえ、大きな体を小さく丸めて座り、炎を熱っぽい表情で見つめている。

 他の学年の連中も、そして保護者も、もちろん教員も、その場にいる全員が、ファイアーストームを通じて一体となっているのを感じていた。

 リンの感情が決壊した。

 普段押し殺している分、リンは泣くのが下手くそだった。必死に押し殺していた声が漏れて嗚咽となり、三歳かそこらの幼児みたいに不器用に、リンは体中で泣いた。

 感動と、喜びと、嬉しさと寂しさと、色々な感情がぐちゃぐちゃにミックスされた結果で、きっと本人だってなぜ泣いているかなんてわかっていないに違いない。

 翔太はポケットからハンカチを取り出し、リンに差


 突然、リンが爆発した。


 ほんの一メートル先に暴力的な熱と圧力が生じ、翔太はなすすべなく吹き飛ばされた。


   ◎


 気がつくとそこは砂まみれのばかでかいブルーシートの上に転がっていた。翔太の他にも二、三人が転がり、うめいている。耳鳴りと頭痛がひどい。

 一瞬、見当識がバカになる。自分がどこにいて、何をしていたところだったかが思い出せない。砂嵐のようなひどい砂埃で視界が効かない。髪の毛も口の中も砂でジャリジャリする。

 耳鳴りがようやく治まり、周囲の音が戻ってきた。悲鳴。怒声。誰かが叫んでいる。

「け、警察っ! 『暴走事故(TRA)』だ! 自衛隊呼べ!」

 この一言で、全てが思い出された。

 ――神林っ!

 獣の咆哮のような恐ろしい大音声が聞こえる。

 翔太は痛む体を無理矢理動かす。立ち上がり、声の方へできるだけ急ぐ。

 巻き上げられた砂埃からよろめき出ると、一気に視界が開けた。


 そこに、来者がいた。


 燃えさかる櫓の横、こちらに背を向けて立っている。

 大きい。体長は三メートル近い。

 着ていた服は爆散しており、ぼろくずとなって肩と腰の辺りにまとわりついている。肌がマグマのように赤黒く発光しているように見える。その皮膚の下には信じられない量の筋肉が蠢いていて、エネルギーの発散を今か今かと待ち受けているような気配を感じさる。

 再び、長く太い咆哮がびりびりと空気を震わせる。翔太は思わず両耳を塞ぐ。

 背中まである長い髪だけが、それがリンだった、という唯一の名残だった。それ以外の全てが変わってしまっていた。

 パニックが起きていた。我先にと避難しようとしている者、ブルーシートの下に潜り込もうとする者、とにかく警察だ警察だと叫び回る者。

 このままではリンが人を傷つけてしまう。下手をすれば、誰かを殺してしまうかも知れない。

 だが、本物の『暴走事故(TRA)』を前にして翔太は動くことができなかった。見ればわかる。あの腕に殴られたら、全身の骨がぐちゃぐちゃになるに決まっている。できることなど何もない。

 だが。

 翔太は、自分の意志に反して震える脚を、無理矢理に一歩進める。

 それでも。

 翔太の中にある生物としての本能が、全力で歩行を妨害してくる。それを意志の力でねじ伏せてもう一歩。全力疾走をした直後のように心臓が早鐘を打っている。こめかみの血管が脈打つのが感じられる。いやだ、行きたくない。行けば一〇〇パーセント死ぬ、それがわかっていてなぜ行くんだ、バカなのか、

 一歩。

 そのとき、来者が――リンが、翔太の方を振り向いた。目が合う。だが、その目からはなんの感情も読み取ることはできない。見ればわかる。意思の疎通など図れるわけがない。

 一歩。

 そして翔太は、ありったけの勇気を総動員して、叫んだ。

「わかるぜ、神林!」

 腰を抜かしているのか、最初の爆風で動けないほどの怪我でもしたのか、周囲には逃げずにいる人間が結構いるらしい。何やってるんだあいつ、死にたいのか、何がわかるってんだ、あんな化け物、それより警察呼んだのか警察、ささやく声がが聞こえてくる。

 一歩。

「お前はただ、文化祭が、楽しかったんだ! 模擬店が成功して、嬉しかったんだ! ファイアーストームで、感動したんだ! 文化祭が終わるのが、寂しかったんだ! わかるぜ!」

 もちろん、リンに変化はない。昆虫の複眼のような表情のない瞳で、翔太をただ見ている。

 一歩。

「お前の好きなようにしたらいい! 気の済むまで、いくらでも暴れろ! いくらでも壊せ!」

 一歩。

 もう、ほんの数メートル先にリンがいる。ありえないほどの威圧感。死が物理的な実体となってそこにあるかのようだ。恐怖の余り涙が出てくる。だが、翔太は止まらない。本能も、理性も、何もかもがもうやめろと言っているのに、翔太は歩みを進め、言葉を紡ぐ。

 一歩。

「だから」

 一歩。

「お願いだから、誰も傷つけないでくれ。でないと、もうここにはいられなくなってしまう」

 一歩。

 翔太が手を伸ばし、リンに触れようとした。

 瞬間、信じられない速度でリンの右腕が跳ね上げられた。パンチを放つために振りかぶったのだと理解した翔太が死を覚悟するよりもずっと早く、拳は振り下ろされていた。


 ――ドォン!!


 至近距離で打ち上げ花火が爆発したかのような腹に響く衝撃。

 だが、翔太は生きている。

 思わずつぶっていた目をゆっくりと開くと、目の前にマンホールの蓋ほどもある巨大な拳。そして、それを両手で受け止める、

「松田先生!?」

 盛り上がった筋肉と衝撃が松田の両腕、肘から先の袖を弾き飛ばしている。

 まさか。受け止めたのか? 来者の拳を? 今初めて本物の来者を見たばかりの翔太でも、これだけはわかる。

 そんなことは、人間には絶対に無理だ。

 松田が顔だけで振り向き、

「わりぃな、内田よ。まだおめぇに言ってなかったことがあるんさ」

 翔太に向かってにやりと笑って見せた。

「実はわしは、来者なのよ」

 リンに向き直り、

「こいつには悪いが、わしの正体を明かすわけにはいかねぇんで、見て見ぬふりをしようと決め込んでたんさ。だが、内田、おめぇの『主観的合理性』に、つい、動かされちまった。わしもこいつに、誰も殺させたくねぇ、って思っちまったんだ。だから、わしが止めてやる」

「ちょ、ちょっと待ってください! でも、先生まで暴走したら……!」

 来者が同時に二体……とんでもない『暴走事故(TRA)』になってしまう。

 リンが左腕を振り上げ、松田に向かって横薙ぎに振るう。


 ――バシィ!


 が、松田は右腕で頭部を守り、腰を入れてしっかりガードする。

「バカ野郎。人間様がなんでも知ってると思うなよ。成熟した来者は、暴走なんてしねぇんだ。ちゃんと変身をコントロールできんだよ。いいか、内田。よーく見てな。わしが、ちゃーんとこのお嬢ちゃんの感情を、思うまま発散させて、やっからよ!」

 叫びとともに松田の肩の筋肉が爆発的に盛り上がる。腕が、胸が、太ももが、大きく隆起していく。気がつけば、松田はいつの間にかその変身を終えていた。リンが変身したときのような爆発は一切、起きなかった。これが、コントロールされた変身、ということなのだろうか。

 リンよりもさらに二回りはでかい。

 リンと松田は互いに咆哮を上げながら、その肉体をぶつけ合う。リンの拳が、肘が、蹴りが、膝が、踵が、すさまじい速度で次々と松田を襲う。が、松田はその全てを受け、いなし、躱していく。なるほど、松田には明確な意志があるらしく、リンが人のいる方へいきそうになると絶妙なボディコントロールで誰もいないスペースへと誘う。

 翔太は呆然と立ち尽くしながら、思う。

 ――ああ、これはフォークダンスだ。

 ファイアーストームの周りを移動しながら攻撃を繰り出すリンと、それをくるりくるりと舞うように受ける松田。

 誰も通報する者がなかったのか、結局最後までパトカーも自衛隊のヘリも戦闘機も戦車も、やってはこなかった。

 魚島高校のグラウンドの真ん中で、リンと松田が踊っている。

 いつまでも、踊り続けている。

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