2話 春はあけぼの。

 下津しもつゆうが彼らと出会ったのは、友人同士の飲み会がキッカケだった。


 大学生活に少し慣れてきた頃。

 その日も、予備校からの友達、眞野まのはじめに呼び出された。いつもの居酒屋へ向かうと、既にベロベロの彼は、数人の男女に囲まれ、いつも以上に上機嫌だった。


「おー!ユウ!

 やっと来たかぁ。遅えから、後輩呼んでもうたわ!

 店員さーん、生1つと…ユウはコーラでええか?!」

「もう…ハジ兄…。まだ飲むの?」

「やめときや…飲みすぎやで…」


 女の子達が心配するのも、当然。

 ハジメは真っ赤な顔でユラユラしていた。


「いやあ、ユウとも乾杯せなアカンからな!

 ユウ!コイツら、幼馴染やねん!一つ下の後輩!

 ん?

 俺は浪人してたから、同級生になったんやったわ!だはっはっ!」


「ごめんなぁ…」

 申し訳なさそうに、声をかけてきたのは、孟の斜向はすむかいの席の青年。


「ハジ兄がいつもお世話になってます。下津遊くん?だよね?

 僕は大山あきら

 僕も経済学部やねん。よろしく!」


「アタシはナオ!」

 ハイっとばかりに元気よく手を挙げたのは、アキラの向かいのショートカットの女の子。

「山下侃心なおこ!社会学部ですっ!」

 と名乗りを終えると、ギュッと隣の子を引き寄せ…。

「…で、コッチは芽生めいちゃん!この子も社会!」

「よろしく。

 …って、ねぇ、ナオちゃん酔ってる?!飲んでないよねぇ」


 ナオコを気にかけるメイを片目に、

「同じく、社会学部!眞野孟!20歳です!」

 と、ハジメは悪ノリを重ねた。


「はいはい、元々ハジ兄の知り合いでしょ!

お水飲んで!」

 和気あいあいと騒ぐ、幼馴染の仲の良さを羨ましく思うと同時に、ユウは入学早々に知り合いが増えることにホッとしていた。


「そういや、ハルはどうしてんの?」


 ハジメの一言に、女の子達が盛り上がる。


「あー懐かしい!アヒルなぁー」


「そういえば、ナオちゃんいつもアヒルって呼んでたよね?何で?」


「アビラハルカやから、縮めて、アヒル!

 見た目もちょっと鳥っぽいやん!」


「あー分かるかも。どこか飛んでっちゃいそう」


「アヒルは飛べないけどね!」


 クスクスと笑いあう女の子二人とは対照的に、アキラは静かに口を開く…。


「…ハルは、…」


「やっほぉーっ!迎えに来たよぉー!」

 突然、眼鏡をポニーテールの女性が勢いよく現れた。


「「あ、シノちゃーん!」」


「何や、もううへんのかと思ってたわ」


うへんつもりやったけど、女の子も居るのに、夜遅いし、車で送ったげた方がエエかなぁと思ってな!

 ハジメはベロベロやろし!

 あら、そっちの色男はどなたさん?」


「おやおや、シノブさん!

 しばらく、会わないうちに僕の顔を忘れてしまうとは」

「シロのことちゃうわ!」


 彼女の登場で、我に返ったのか、アキラの瞳にも光が戻る。


「...下津遊くん。

 ハジ兄の友達だけど、ハジ兄と違って浪人してないから、同い年!」


「うすっ!!!」

 紹介してくれた芽生に合わせ、会釈する。


「...へぇ。シモツユウ…ツユくんね...!

 あたし山口偲巫しのぶ。よろしくね。

 シノって呼んでも、よろしくてよ!」

 調子よく、愛想よく微笑んだシノブは、ユウを見つめた後に、何故かアキラをチラッと見た。


「...あぁ!名前に梅雨って入ってるよね!」

 ナオコがパッと明かりが灯ったような笑顔で、反応する。


「アキやアヒルと一緒やーん!季節が名前にはいってるの!

 そういえば、ツユくんもちょっと鳥っぽいな!ヒヨコっぽい!

 ニワトリになりかけのヒヨコ!!」


「この鶏冠とさかのことかぁーっ!!

 ...って、金髪でツンツンだから、ニワトリになりかけのヒヨコ?安直過ぎない?」


「ひひひ...ツユくん意外にノリ良いなぁー!

 あ、ツユくんって呼んでていい?

 アタシのことはナオって呼んで!」


「…ハイハイ!

 その辺にして、そろそろ帰ろか?明日も講義やろ?」


「先生ー!まだまだ飲み足りないでぇーす!」


「ハーイ!言う事聞かない子は置いて帰りまぁーす!」


 ガチャガチャと騒がしくお会計を済ませる中、ユウはアキラの姿が見えないことに気づいた。


(トイレかな?)


 一足先にお店から出ていたようで、入口前にアキラはいた。

 夜空を見上げている彼の姿はどこか哀しそうに映った。

 ユウが声をかけようか迷っていると、パッとヘッドライトが二人を白く照らす。


「お二人さーん!

 もうみんな乗ったよー」


 シノブがワゴン車の運転席から、顔を出した。


 アキラは頷いて、

「星が綺麗だね。

 雨があがって、ホントに良かった」

 と呟いた。


 ただ車やネオンの光が明るく、ユウの目には星は見えなかった。

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