1話 痛みは繰り返す

 喉が渇いて、目が覚めた。

 静まりかえった深夜2時。


 冷蔵庫に飲み物がなく、仕方なしに蛇口を捻る。


 生ぬるい。


 一口で気分が悪くなり、目はさらに冴えてしまった。


 窓を開けると、夜道を街灯が白く照らしている。

 都会の夜は、明るく、虫の声も無い。

 ただ、どこかの室外機の音だけが響く。


 明るく静かな夜。

 それは、まるで世界から切り離されたようだった。


 ふと思い立って、あの日以来初めてタバコに火をつけた。

 慣れない仕草で紫煙を燻らせる…。


 …っ?!


 …肺いっぱいに吸い込んだ煙に咽せ返ってしまった。

 雲も見えない夜の空を見上げると、会ったことのない青年のことが心に浮かんだ…。


 はぁ、こんなにも苦しいのなら、もう二度とタバコなんて、吸うものか…。



******************************


「死んだって、どういうこと?!」


 学生達の姿でごった返すお昼時。

 食堂の片隅で一人の女子学生の声が響く。

 そこの周りだけ、空気が切り取られたようにすっと冷えたようだった。


 目を伏せて座る男子学生に、掴みかかる勢いの女子学生。

 彼女は駆けてきたのか、汗だくで息が乱れている。

 それにも関わらず、顔面蒼白で、唇は青く、体はブルブルと小さく震えていた。


「ごめん」


 責められる彼は感情を無くしたかのように、ぎこちなく口を開く。


「……ナオちゃんにも、はよ言わなアカンとは思ってたんやけど…。ごめん」


「…ホンマに自殺なん?」


 頷くように、目を伏せる彼。

 ナオコは歯を食いしばって、息を呑み、言葉を失った。


「でも………死んだって、誰に聞いたん?」


「…ごめん。…あたしが言った」


 ナオコを追って走ってきたのか、息を切らした別の女子学生が言葉を繋ぐ。


「シノちゃん…」


「タイミングを計ってたんやろけど、もう3年経つんやで…

 ずっと黙ってるワケにはいかへんし…それに…」


 彼女が少し言い淀んだとき、ちょうど予鈴の音が鳴った。


「分かった…。話す。今夜、話そう。

 だから、ごめん、ナオちゃん。続きは後で…。

 ユウくんもごめんな…。とりあえず講義行こ…。

 シノちゃんもバイトやろ…」


 彼の言葉に、彼女達も渋々頷き、その場は解散となる。


 呆けていたユウも、立ち上がったアキラを見て慌ててコーラを喉に流し込む。

 炭酸が抜け、ぬるくぬった褐色のソレは、薄い風邪薬のようで…。コーヒーにしなかったことが悔やまれた。


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