6話 井戸端会議は踊る

「『俺なんかおらん方がええんや』って。」


 そう言ってた...と呟くアキラは、何だかいつもより小さく見えて、少し震えていた。


 アキラは、入学してすぐの頃にハルカに再会していたのだそうだ。

 伏し目がちに、ポツリポツリと話し始めた。


「隣駅の大学あるやろ?ハルカはあそこに入学しててん」

 優秀やろ?と言って、彼は歪んだ微笑みを浮かべる。


「サークルの交流会でうてん。

 そのときは、『周りが優秀な人ばっかりやから、自分も頑張らなアカン』って、やる気満々やった。

 …でもな、しばらくしたら、サークルにも講義にも出えへんくなったらしいねん。人伝に聞いて、心配になって、家まで押し掛けたんよ」


 動揺しているのか、声が震え、口調も普段よりずっと訛っている。


「そしたら、『俺みたいな役立たずはおらん方がええ』って…。

 …なんか、バイトでも大学でも失敗を繰り返してたらしくて…。

 普通に励ましてたんやけど、『周りから必要とされてへん俺のことなんか、お前には分からん!』って、言って怒ってしもて…。


 それで…それで、しばらく構わへん方が良いかと思って、連絡とってへんかったら…」


 そのあとはもう会うてへん...。

 ポツリと呟くと、そのまま黙ってしまった。


 3人の間を車のタイヤの音が通り抜けていく。

 曇だからか、遠くの音がよく聞こえた。


「でも、さっきナオちゃんも言ってたけどさ、」


 煙と溜め息をごちゃまぜにして、吐いてから、言葉を捻り出すように呟く。

「だからって、何で…」


 3人の側で、街灯がじー…と音を立てる。


「イジメとか、そういうのと違うんやろ?

 何で死んじゃうんさ…」


 その中でも、捻り出した言葉は、ハッキリ残っていて、3人ともが言葉を探す。


「ごめん…僕があのときにもっと何か出来れば…」

 掠れた声で呟くアキラに、シノブは首を振る。


「いや…シロは励ましたんやろ。

 その上でも、『自分は必要じゃない』ってハルカは思ったやもん…。

 どうしようもないやん…」


 公園の横を走り抜ける軽自動車のライトが、3人の影を映して、過ぎ去っていく。

 雨足が少し強くなっていた。


「イジメって言えばさ…

 僕がイジメられてるときに、気づいてくれたのがハルだったんだよね…」

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