第3話 トリオ、冒険に出かける

 手を付けていない宿題もまだまだ心配が要らない夏休みの中盤、カテキントリオは早くも学校のプール通いに飽きていた。

カンタ「かと言ってする事もなく、結局プールかよ・・・」

相変わらずダラダラと道を歩くカンタ。

キン「夏休みなのに学校に行くって何だかなー」

キンペイはイライラして天然パーマの髪をモシャモシャと掻いた。

テツ「あじ(熱い)~」

細目のテツオは暑さで更に目が開かず、前が見えないまま何とか二人について行く。

カンタ「あ、カツシだ・・・」

前から隣のクラスのカツシが自転車に乗って三人に近づいてきた。

カツシ「ようカテキン、お前らプール行くのか?」

キン「お、スーパーカーチャリじゃん!」

カンタ「買って貰ったのか?いーなー」

カツシ「兄貴のお下がりだよ」

カツシが乗っているフラッシャー自転車は、通称スーパーカーチャリと呼ばれこの時代の男子が皆憧れている。黒い車体にセミドロップハンドル、角ばった二体のライト、本体中央にあるギア切り替えレバーが『ナイトライダー』のマシーンを連想させる。

テツ「あれ、すげー!赤魚こんなに捕ったの?」

この自転車には後輪右側面に折り畳み式のカゴがあるのだが、そこには5~6匹の川魚が入っていた。

カツシ「おう、兄貴が捕ったんだ。今トビ川行ったら工事やってるとこに赤魚(あかうお)がのぼってきてて皆集まってるぞ」

トビ川はこの町を流れる1級河川で、源流に近くとても綺麗な川だ。夏は沢山の子供達が川遊びをするのだが、水は非常に冷たく数分泳いだら震えながら川辺の石に抱き着いて暖を取らなければならないほどだ。赤魚はこの地方の呼び名でウグイの事だ、水温が低いトビ川ではこの時期産卵のため遡上してくるのだ。

カテキン「マジで!」

カンタ「オレ達も行こうぜ!」

テツ「オレ家行ってアミ取ってくる!」

キン「よっしゃ、じゃあ川集合な!」

一気に盛り上がるトリオ、踵を返して全速力で動き出す。

カツシ「旭橋のとこなー!すげー人が集まってるからもう遅いかもよー!」

カツシは走り去るトリオに声は掛けたが誰も振り返らなかった。


川に来たトリオは、護岸工事で川の流れを一時的に変えて水流が弱まっている個所に子供達が群がっている光景が見えた。トリオが堤防から川に降りるとカツシの兄タツシがいた。タツシは魚捕りの名人で、手づかみで捕った赤魚を葦の葉に通して川岸に3本並べていた。

カンタ「タっちゃんすげー!」

テツ「こんなに捕ったの⁉」

タツシ「おうお前らも来たのか、ちょっと遅かったな、もうほとんど捕られてるぞ」

タツシはそう言いながら魚の腹をシゴいてお尻から白い液体を出してた。

キン「タっちゃん何してんの?」

タツシ「オスの腹を押すと白いの出るだろ?これを卵に掛けると魚が生まれるんだよ、捕るだけじゃなくて増やさないとな」

カンタ「ふ~ん(何言ってんだ?)」

タツシは10匹以上捕れた魚に満足し「頑張れよ」と言いながら新しいロード用の自転車で去って行った。

キン「かっけーなータっちゃん」

テツ「6年生にもなると違うよね」

カンタ「オレらも捕ろうぜ!」

テツオは川にアミを入れ足で水底を漕ぐ動作を繰り返す。いつもならカジカ程度ならすぐに捕れるはずだがアミに入るのは枯葉や枝ばかりで何も捕れない。

テツ「やっぱ遅かったんかね、なんも捕れないよ」

カンタ「オレにやらせてみ」

カンタは少しづつ場所を変えながらアミを入れるが、やはり入るのは枝葉のみ。

キン「大勢人が来たから荒らされまくってんな、もう無理っぽいぜ」

トリオは先ほどまでのワクワクが急降下し必要以上に落胆した。

テツ「どうする?止めるかね」

キン「もうダメっぽいな、水冷たいし上がるか?」

カンタ「上流に行ってみるか?」

キン「そうだな、ここに居てもしょうがないし」

トリオは川辺を歩きながら時々アミを入れて川を遡上してみる。しかし期待の赤魚は捕れなかった。15分ほど遡上すると川は谷底になり周囲に民家がなくなる。川の両岸は崖になり砂防ダムが見えてくる。これ以上先は魚が昇れず、棲んでいる魚はヤマメやイワナに変わるのだが、奴らはアミで捕るのが難しく捕獲は主に釣りになる。そのため子供達は砂防ダムより上流はあまり立ち入らない。

テツ「ふー、引き返す?」

キン「結局ダメだったなー」

カンタ「なあ、暇だしこの上行ってみるか?」

テツ「危なくね?」

キン「大人が釣りで行くらしいけど如何なんかね」

カンタ「危なかったら引き返せばいいし、行ってみよーぜ!」

砂防ダムは高さ8メートルほど、左右の崖は厚さ50センチ程のコンクリートで補強され、端に向って斜めに低くなっている。トリオは岸から補強の端へ登り砂防ダムの上を目指した。コンクリートは凹凸がなく上を伝って登る事は出来るが、当然人が登る為に造られたわけでは無いので手すりや柵は無い、落ちたら大怪我以上の危険がある。トリオは手を着きながらゆっくりと補強を登った。次第に高さが増し川は遥かに下だ、ジワリジワリと恐怖心が増しながら、三人の頭の中では先週金曜ロードショーで見た『インディージョーンズ』の音楽が流れていた。

無事砂防ダムの上に登ると川下や町が見渡せる高さで、三人は初めて見る風景と恐怖を克服した達成感に興奮した。上流は下流には無い背丈以上の大きな石がゴロゴロしており水の流れが複雑で風景が一変する。その先は大きく右にカーブして見えず好奇心が刺激され三人は足早に上流に向かってみた。大きな石は障害物の様に三人を阻み、さながら天然のアスレチックだ、三人は飛び越えたり体をよじって石をかわす、今度は『忍者タートル』になった気分だ。カーブの先は川幅が広がり四方10メートル程の川原がある広い空間だった。トリオ側の川下から見て左から、崖、川原、川、崖となっている。崖は木が茂り向こう側に民家等人工物は見えない。

カンタ「何ここ!チョーいいじゃん!」

キン「ここだけ広くなってる!シート広げてキャンプしてー!」

テツ「周りに家とか無さそう!何やってもバレないぜ!」

トリオは一気にテンションが上がると同時にあの計画を思い出した。

カテキン「秘密基地つくろーぜ!」

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