第2話 二本目
「うわああああああ‼」
「ト、トノ‼ーーーー」
「英雄クン大丈夫⁉」
「おいおい、店先でうずくまるなよみっともねー」
「クックック、ダセー」
太鼓や笛の音が響き、半裸の男衆が威勢の良い掛け声を出している。日が落ちたにもかかわらず行き交う沢山の人が参道の両脇を埋め尽くす屋台に群がっていた。今日は神社の宵祭りだ。
カンタ「お!キンうめーじゃん」
キン「まーな、でもテツはもっとすげーぜ」
カンタ「ぐおー!マジかテツ!これカンペキじゃんスゲー!」
カテキンのトリオは出店で「型抜き」をやっていた。型抜きとは、薄い板状に固められた砂糖菓子に彫られた絵柄を、爪楊枝や針でチクチクと刺して掘ったり割ったり削ったりして抜き出す遊びだ。絵柄通り上手に抜き出すと景品が貰えるのだが、砂糖菓子は非常に割れやすく神経を使うため、型抜きの店先は無言で台に向かう子供達が群がっていた。
キン「カンタはどうなのよ?」
カンタ「いやー速攻で割れたよ」
カンタは他の2人が見事に型を抜いており、恥ずかしくなって砂糖菓子をポケットに隠した。
キン「おじさん、出来たよ」
おじさん「おっ、やったねー、はい5等賞」
そう言っておじさんは台の下から出した景品をキンペイに渡した。
キン「何これ?」
おじさん「カメラ、覗いてみ?」
キンペイはファインダーを覗くと『ガンダム』っぽいロボットの絵が見えた。シャッターを押す度に次々と絵が切り替わりロボットが宇宙を進んでいる風に見える。キンペイは微妙な気分になった。
テツ「おじさん、僕も出来た」
おじさん「お!上手に出来たなー、よし3等賞だ!」
テツにはスプライトのヨーヨーが手渡された。
テツ「3等賞でこれ?」
おじさん「よかったな、まだやるかい?」
テツ・キン「もういい・・・」
キン「あーあ、1等の『ゾイド』ほしかったなー」
テツ「800円も使っちゃったね」
カンタ「だから言ったじゃん、あのゾイドは見せかけ!ぜってー1等なんて出ないよ、出たヤツ見た事ないもん」
テツ「確かに、あのゾイドの箱黄ばんでたし・・・」
キン「ちくしょー・・・」
型抜きの基準はおじさん次第だ、いくら上手に型を抜いても何だかんだ言って難癖をつけて1等賞は出ないものなのだ。
カンタは残念賞で貰った『うまい棒』を食べながら歩いていると、見覚えのあるシルエットを見かけた。
カンタ「なー、あれトノじゃねー?何か様子変だよな?」
キンペイとテツオはカンタが指す方を見た。
キン「ホントだ!トノだ!うずくまってる!ケガでもしたか⁉」
カンタ「カサイも居る・・・ってマミちゃんも‼」
3人はトノの元に駆け付ける。
キン「どうした!」
テツ「ダイジョブ⁉」
トノ「う゛~、お前ら~」
うずくまっていたトノは涙でぐしょぐしょになった顔を上げた。
カンタ「テメー!何でマミちゃんと一緒にいんだよ‼」
カサイ「ちょっカンタ、今は勘弁してくれ!」
「何だ?お前ら」
「こいつ等の友達か?」
カテキンの後ろから知らない声がして3人が振り返ると、ニヤニヤといやらしく笑う2人組が居た。
カンタ「なんだこいつら!同じ格好して同じ顔してる!」
テツ「双子だよ」
カンタ「双子⁉それって『立花兄弟』の?初めて本物見た!」
※立花兄弟 サッカー漫画キャプテン翼に出てくる双子のキャラクター。スカイラブハリケーン等のトリッキーなシュートが有名。この頃の少年達は誰しもが1回はマネをしている。
キン「そーじゃねーだろ!おいトノ!大丈夫なのか?」
カサイ「悪いキン、一緒に起こしてくれ」
キンはカサイと一緒にトノの両脇に手を入れトノの上半身を起こした。
キン「重いー!普段から贅沢してっからだ、やせろ!」
トノの家は裕福で、御多分に漏れず肥満体系だ。
トノ「う゛~」
トノはまだ泣いている。
カサイ「キンすまん」
キン「トノは如何したんだ?ケガでもしたか?」
「ちげーよ、オレ達と勝負してコテンパンにされたのよ、な?」
「クックック」
双子はニヤニヤといやらしく言う。
キン「勝負?」
キンはカサイの方を見た。
カサイ「うん、オレらが射的をやってたら絡んで来たんだよ、射的で勝負しようって。トノ、マミちゃんが居るから調子乗って勝負受けたけど負けまくってさ、ゲームウォッチとビックリマン全部取られちゃったんだ」
キン「ふ~ん」
マミ「英雄クン可哀想・・・」
マミは相変わらず腰をクネクネしている。
カンタ「ザマー見ろ、抜け駆けするからだ」
テツ「まーまーそう言わないで」
カサイ「トノがこんなだしオレ達もう帰るわ、ありがとな」
カサイはそう言ってヨロヨロのトノを支えた。
マミ「マミもー」
流石にマミも居たたまれずトノとカサイの後をついて行く。
双子1「情けねーなー、ダッセー」
双子2「アイツすげー下手なくせにオレらと射的で勝負して勝てる訳ねーじゃんな」
カンタ「お前ら初めて見るけどこの辺に住んでるのか?」
双子1「ちげーよ、オレらカーちゃんが的屋やってるから夏休みは手伝いでそこら中回ってんだよ」
双子2「祭りはオレらの遊び場だぜ、アイツ、最強のオレらに歯向かって結局ボコボコじゃん、すっげー笑える」
双子1「5回も勝負して1回も勝てず最後に泣き出したからね」
双子2「アイツ鼻水出てたぜ、ギャハハハハ」
双子はことごとくトノを罵りそのたびにクスクスと笑う。キンは段々イライラして来た。
キン「お前らトノから取った物返してやれよ、ちょっと可哀想だろ」
双子1「言うと思ったー」
双子2「だったらお前らも勝負しようぜ、お前らさっきのヤツと友達なんだろ、カタキを取れよ」
双子はふざけた言い方で笑う様な表情をして明らかに挑発している、普段からこうやって行く先々のお祭りで誰かと勝負をして色々と巻き上げているように伺えた。
テツ「キン止めときなよ、ちょっと頭に来るけどこいつら慣れてるっぽいよ」
双子1「おめーは黙ってろよチビ、オレらはキンだっけ?こいつと話してるんだよ」
テツは普段大人しい方だが流石にムッとして双子1を睨んだ。
カンタ(やば、テツがムカついてる)
キン「勝負って?」
双子1「射的でも輪投げでも何でもいいぜ、ハンデだ、お前の好きなヤツで勝負して、俺らに勝ったらさっきのヤツから取った物返してやるよ」
テツ「お前らが勝ったら?」
双子2「お前らの持ってる物で何か寄越せよ、それか金出せ」
キン「じゃーお前らが勝ったらこれやるよ」
キンはそう言って持っていたビニール袋から箱を出した。
テツ「それさっき出店で買った『聖闘士星矢』のクロスじゃん!」
カンタ(やべ、キンまで平常心を無くしてる)
双子「おー!いいじゃん!オッケー勝負しようぜ!」
カンタ「おいテツ、キン、お前ら止めとけって、こいつらそこら中のお祭りで遊んでるんだろ?かなり手強いと思うぜ」
双子2(ちっ、せっかくカモを捕まえたんだ、余計な事言うんじゃねーよ!)
キン「ならカンタは見てろよ、勝負はオレがやるから」
テツ「僕もやる、丁度2対2だからいいでしょ」
双子1「カンタだっけ?お前は黙ってろよ。ヨシ!何の勝負する?」
カンタ(ちっ、しょうがねーなー)
カンタ「待て!解った、勝負はしよう、だが肝心のトノが居ない、アイツのカタキをうつなら本人も呼び戻す」
双子1・2「お前は関係ねーだろ、何仕切ってんだ」
双子はせっかくのカモも逃がしたくないから何かと文句を言う、しかしカンタはそれを無視してテツオとキンペイの首に腕を回し後ろに向いて二人の顔を近づけ小声で話す。
カンタ「お前ら挑発に乗って平常心を無くしてるぞ!もう双子の術中にはめられてんだよ!もう勝負は始まってんだよ!」
テツオとキンペイはハッとした。
カンタ「いいか、オレは作戦を考える、二人は冷静になるんだ」
テツオとキンペイは頷く。
双子「おい!何コソコソしてんだ!早く勝負するぞ!」
カンタ「ちょっと待て、トノを連れて来る、15分後に鳥居の前に来い」
双子1「よっしゃ!勝負けってーい」
双子2「何の勝負かはそっちが決めておけよ」
カンタは自信満々な発言をする双子に違和感を感じた。
カンタ「わかった」
双子1「必ず来いよ!」
双子2「逃げんなよ!」
双子は同時に声を発し、同じタイミングで振り向き去って行った。
15分後、双子が鳥居に行くとキンペイ、テツ、カサイが待っていた。
双子1「よし、始めるか」
キン「待て、今カンタが店に交渉へ行ってる」
キンペイは直ぐ近くにある金魚すくいの出店の方を顎で示した。
双子2「勝負は金魚すくいか?良いぜー」
テツオは双子に全く反応せず、ブツブツと小声で何かを言っている。
双子1「なんだこいつ大丈夫かよ」
双子2「緊張してんの?今更無しは無いからな」
双子は相変わらずニヤニヤしている。
キン「大丈夫だ、お前らこそビビるなよ」
そうこうしているとカンタとトノが戻ってきた。
カンタ「交渉成立だ、勝負は金魚すくいだ!」
全員が店に移動すると屋台のおじさんが口を開いた。
おじさん「お!カイとソラじゃねーか、勝負するから店貸してくれって話しだったがなんだお前らだったか」
双子は的屋の間で相当有名なのだろう。
おじさん「カイとソラが相手とは可哀そうに」
おじさんはニヤニヤしながらカテキン達の方を見た。
おじさん「ん?ンんン⁉って、お前ら鉄筋コンビじゃねーか!」
おじさんは目を見開いてビックリしている。
カイ「おじさんこいつ等しってるの?」
ソラ「何、鉄筋コンビって?」
おじさん「こ、こいつ等はテツとキン、合わせてテッキンコンビって金魚すくい屋では有名な荒らしだ!冗談じゃねー!お前らにすくわせる金魚はねー!帰れ!話しは無しだ!」
カンタ「ちょっと待ってよ!5千円払ったじゃん(トノが)」
おじさん「無し無し、金返すからこの話しは無し!帰れ!」
カイ「おじさん、こいつ等何やったの?」
おじさん「こいつ等はな、2年前、そこら中の金魚すくい屋で金魚を根こそぎ取っちまって組合が出禁にしたんだ」
ソラ「マジ⁉」
双子はテツ・キンを見た。
テツオとキンペイは小学生に上がった頃から金魚すくいにハマっていてそこら中の祭りに通っており、去年は祭りの出店で大量に金魚を取ってしまったのだ。金魚は近所の家からゴミ袋を貰ってやっとこさ持ち帰ったが母親にこっぴどく怒られ、結局こっそりと学校の池に大量の金魚を放し、夏休み明けに騒動となり学校の七不思議となって語り継がれる伝説を作ったのだ。
双子(マズイな・・・コイツらがあの鉄筋コンビか)双子は後ろの人混みに視線を送った。
テツ・キン「根こそぎなんて嘘!噂に尾ひれが付いて大袈裟になってんだよ!」
おじさん「ダメダメ!出禁なんだからやる事自体ダメだ!」
カンタ「だから今回は取った金魚は返すよ、こっちは勝敗が決まればいいんだからさ」
ソラ「おじさんやらせてよ、金魚は返すんだから損はしないじゃん」
おじさん「お前ら良いのか?」
カイ「オレらだって金魚すくいは得意中の得意よ!」
おじさん「まーお前らが良いならこっちも損はないし・・・」
カンタ「よし決まり!おじさんの気が変わらない内に始めるぜ!いいか、勝負はテツ・キンペアと双子、2対2で行う。時間は5分、10匹お椀に入れたらお代わりして最後に金魚を多く取った方の勝だ。水槽の真ん中から左右に分かれてお互いに相手の陣地には入らない事!」
カンタは水槽の半分辺りの土を足で削って線を引いた。
カンタ「今回は時間制限だからポイ(金魚をすくう和紙が貼られた虫眼鏡状の道具)が破れても続行してOK。このルールで良いか?」
双子「良いぜ、泣かしてやる」
カンタ「テツ・キンもいいな?」
キン「始めよう」
テツオは返事をせずまだブツブツと言っている。おじさんがポイを4人に配る。
カンタ「ヨシ!始め!」
トノが腕時計のストップウォッチを押すと同時に双子とキンペイは一斉にポイ全体を水に漬け、テツオは半分だけ水に入れた。
カイ(ポイは水に漬けると一旦紙の強度が下がるが、均一に濡らす事で金魚や水の抵抗が分散され長期使える様になる事をキンは知ってる、だがテツってヤツはそれを判ってない、一発で紙を破くタイプだ。)
ソラ(へっ、何が鉄筋コンビだ、噂だけだな)
双子はさっとポイを動かすと同時に金魚をお椀に入れた。テツオはポイを動かさずジッと水面を眺めている。
鉄筋(0):双子(2)
カサイ「おいテツ!何やってんだ、双子は金魚を取り始めたぞ!」
カイとソラのお椀にはもう既にぞれぞれ次のの金魚が入った。
キン「テツは今見極めをしているんだ、カサイ黙っててくれ」
そう言ってキンペイもお椀に2匹目の金魚をすくった。
鉄筋(2):双子(5)
カサイ「おいカンタ、見極めってなんだよ、テツ大丈夫なんか」
カンタ「さっきからテツがブツブツ言ってるだろ?あれはテツが集中している証拠なんだ、いいから見てろって、それにああなってるとオレ達の声もほとんど聞いていないしな」
そうこうしているとテツが半分水に漬けた状態のポイをゆっくり動かし始めた。
トノ「テツが動いた!」
テツのポイは1匹の金魚にそっと近づくと、金魚はフワッと浮き上がりお椀に入った。
おじさん「何だ今の!」
双子もテツの方を見る。
カンタ「出た!テツの誘導弾だ!」
双子「何!どう言う事だ!」
キン「テツは金魚の動きを見極めその動きに無理がない様にポイを動かしてお椀近くまで誘導してるんだ、だからポイに負担が掛からず金魚を取る事が出来るのだ!」
カイ「何だと!そんな事出来んのかよ⁉」
ソラ「カイ!あっちはほっとけ!ポイが破れなくても動きは遅いんだ!その分こっちは多く取ればいい!」
確かにテツオの動きは遅かった、だが確実に狙った金魚を取っており、キンペイと合わせてジワジワと双子を引き離している。
鉄筋(7):双子(6)
カサイ「スゲー!キンも負けてねーぜ」
トノ「早くもお椀のお代わりだ!」
ドン!!
いきなり水槽に鈍い衝撃が走った。双子の陣地と反対側、テツの横に6年生ぐらいの少年が飛び出して水槽を蹴ったのだ。
少年「わり!見てたら後ろから押された!」
キンペイが後ろを見ると大勢の人々が周りに居た、4人の勝負を見るために野次馬が屋台を取り巻いていたのだ。
カサイ「あ!テツのポイ破れてる!」
テツが追っていた金魚が先ほどの衝撃で驚き急に方向転換し、直ぐ後ろに迫っていたテツのポイを破ったのだ。
トノ「マズイ!おじさん!今のは事故!ポイを交換して!」
ソラ「おいおい条件は一緒だぜ?」
カイ「そんな事言うならオレのポイも今の衝撃を受けて少し弱まったからポイ交換してほしいな」
おじさん「そう言う事、一つ認めると全部認めなきゃならんから勝負が成立しなくなる。今のは不運な事故だがポイの交換は無しだ」
鉄筋(12):双子(12)
トノ「そんな・・・」
双子「クックック」
キン「トノ!大丈夫、テツを見てみろ」
テツのポイは水に入れていた半分は破れており、水面から出ていた半分が綺麗に残っていた。
キン「これからがテツの本領発揮だぜ、『半月』が久しぶりに見れるぜ!」
トノ「半月⁉」
カンタ「ポイの半分が破れてるだろ?水中での抵抗が減ってスピードが出せるんだ」
双子「何!」
テツは、今度はポイ全体を水に沈めている。誘導弾は変わらないが追うスピードが上がったため次々と金魚がお椀に入って行く。もうお椀のお代わり間近だ
鉄筋(17):双子(14)。
双子(ヤバい!)
ぱぁん‼
大きな音がテツの横から聞こえ皆がそちらを見る。そこにはさっき水槽を蹴った少年が割れた風船を持ってニヤニヤしていた。金魚は音に反応して急に方向転換し鉄筋コンビはポイを止める。
カンタ「何だお前さっきから!ワザと邪魔してるな!」
少年「おいおい言い掛かりはよせよ、偶然持ってた風船が割れたんだよ、偶然な」
カンタ「嘘つけ!」
キン「おい!今手を入れたろ!」
キンペイが声を上げ、今度は皆がキンペイを見る。
カンタ「どうしたキン!」
キン「今皆風船が割れた方を見ている隙にこいつ等手で金魚を捕まえてたんだ!」
カンタ「なにー!」
ソラ「おいおい言い掛かりはよせよ」
カイ「負けそうだからってイチャモンつけんなや」
双子はさっきお椀をお代わりしたばかりなのに、既に大量の金魚が入っている。
鉄筋(19):双子(27)
カサイ「おっちゃん見てたろ!こいつ等の不正!」
おじさん「いやー、ゴメンゴメン、オレも風船が割れた方見てて気づかなんだわ」
ソラ「お前らこそさっきからごちゃごちゃ言って邪魔すんなや」
カイ「疑うなら証拠出せや」
おじさん「あと1分だぞ」
トノ「くっそ!」
ソラ(クックック、双子だからコンビだと誰もが思うけどオレ達には兄貴がいたのさ!バカ共め、オレ達は勝負前の15分、リク兄に助っ人を頼んでたのよ!勝負はあの時点で決まってたのさ!)
カイ(金魚屋も知り合いだから全員オレ達の味方!お前らは初めから勝てない勝負をしてるんだよ~)
鉄筋(23):双子(28)
双子は目算で金魚の数が逆転したのを見て笑いが止まらない。二人で顔を見合わせ勝を確信した、その時。
「あんたリクでしょ?双子のお兄ちゃんのリクでしょ?」
さっきから鉄筋コンビの邪魔をしている少年に一人の老婆が声を掛けた。
カンタ「トンボのおばちゃん!」
おじさん「組合長!?」
おばちゃん「なんだか盛り上がってるから見てたけど、リク、あんたさっきからズルしてるね?それに高木さん、あんたも双子が知り合いの子供だからって不正を見て見ぬふりしてないかい?」
おじさん「あ、いやーそのー組合長、これには訳が・・・」
リク「オレは別にズルしてねーよ!偶然だよ偶然!」
おばちゃん「リク!あんた双子のお兄ちゃんでしょ!それが敵側を邪魔して偶然だなんて言い訳は通じないよ!」
野次馬1「おいおいこいつ双子の兄貴かい?それで偶然は通らないでしょ」
野次馬2「さっきからおかしいと思ったのよ、金魚屋さんもグルなの?」
野次馬3「子供が真剣勝負しているのに不正かよ、ここの金魚屋ではもう遊ばない方がいいな」
おじさん「いや!ちょっと待ってお客さん!」
金魚屋の主人はあたふたし、リクはしらーっとその場を離れようとジリジリ後退している。双子は一気に雰囲気が変わって下を向いた。
ソラ「あれ!金魚が居ない!」
カイ「⁉」
双子が水槽を見ると目の前に金魚が1匹も泳いでいない。サッと横を見ると、自陣には1匹も居ない金魚が隣の陣地でわらわらと泳いでいる。
ソラ「何だ!金魚が隣に集まってる!」
カイ「どう言う事!?」
鉄筋コンビはここぞとばかりに恐ろしい速さで次々と金魚をお椀に入れている。
鉄筋(25):双子(28)
ソラ「ちょっと待て!なんだそれ!」
もうラストスパートだ、紙が破けても良いからキンペイは必殺の2匹同時を繰り出しペースを上げる。
カイ「ヤバい!すげー追い上げだ!」
双子も急いで金魚をすくいたいが自陣に1匹も居ないため何も出来ず鉄筋コンビを見守るしかない、頼りのリクも姿を消していた。テツオは大きな出目金もポイの渕を使ってすくい上げ、水槽の金魚がみるみると減って行った。
ピ!ピ!ピ!ピ!ピ!ピ!トノの腕時計が勝負終了を告げた。結果は一目瞭然、鉄筋コンビのお椀は双子よりも多く水に浮かんでいた。
双子「ま・け・た・・・」
双子は力なく二人同時に地面にへたり込んだ。
野次馬1「いやーこの子らすごいな!」
野次馬2「最後の追い上げ見た!?あたし感動しちゃったよ」
野次馬3「2匹同時にすくったり、半分破けたポイであれだけ取っちまうんだもん、初めて見たよ、坊主達凄いな!」
野次馬達は良い物が見れたと喜んで拍手が沸き起こった。テツオは集中モードが切れ「ふい~」と息を漏らし、キンペイは照れて赤くなっている。金魚屋のおじさんは何事も無かった風に拍手の輪に加わっていた。
カイ「何故だ・・・、最後のあれはなんだったんだ・・・」
ソラ「お前ら何やった、なんで金魚がそっちに群がったんだ」
カンタ「ふん、お前らが卑怯な手を使うからこっちも用意していたこれを使ったのさ」
カンタはそう言ってポケットから何かを出した。
双子「そ、それは型抜きのお菓子!」
カンタ「そう、おばちゃんがお前らの兄貴に注意してる間にこれを握りつぶして撒いたのさ、金魚はエサと思ってこっちに集まったわけ」
ソラ「そんな卑怯だぞ!」
おばちゃん「あれあれ、あんた達だって卑怯な手をつかっただろ」
ソラ「ぐっ」
おばちゃん「それに負けた後に文句言ってもねえ高木さん」
おじさん「組合長の言う通りだな、カイ、ソラ、諦めろ、お前らの負けだ」
双子「そんな・・・、てゆーか何で組合長が・・・」
カンタ「オレが呼んだのさ」
双子「何!?」
カンタ「お前らが勝負を持ちかけた時、余りにも自信満々だからちょっと怪しいと思ったのよ、鉄筋コンビは勝つと思ったけど何かイカサマされるかもって。そんで切り札としてお菓子を撒く事を思い付いたんだけど、念のため保険として公平にジャッチしてくれる大人が必要と思って祭りの本部に居たおばちゃんに声を掛けておいたのさ」
カイ「まさかあの15分の間で・・・」
カンタ「そ!トノを連れ戻すからと言ったけどホントはおばちゃんにお願いしに行ってたのよ、あの15分で勝負は決まってたのさ!」
双子は自分達の上を行く作戦に度肝を抜かれ、金魚の様に口をパクパクさせ言葉が出なかった。カテキントリオは無言で向かい合い両手を出してお互いにハイタッチした。
カイ「悪かったな・・・」
ソラ「これ返すわ・・・」
双子は催促されていないのに自らトノから取った物を差し出した。はっきりと負けを認めたのだ。
トノ「よかった~」
カサイ「トノ、次からは気を付けて下さいよ」
カイ「お前らさ、家のカーちゃん焼きそばの屋台やってんだ、食べに来いよ」
テツオ「そう言えば腹へったな~」
ソラ「オレらが作りたて出してやるよ」
キン「お前らいつも焼いてるんだよな、きっとうまいぜ」
トノ「よし!オレがおごるぜ!」
カンタ「よっしゃ!みんなでいこうぜ!」
先程まで敵だったはずの子供達が一斉に駆けて行く。バブル経済が加速する昭和末期日本、少年達は教えられずとも友達の作り方を知っていた。
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