第22話 極天
光線が入り混じるサイケデリックな空へ向けて、私立第一武器学園の生徒達を乗せた光の軍艦達が飛んで行く。大量に浮かぶその軍勢はまさしく光の洪水であった。
「それで! 〈極天〉はどこに!?」
大声で隣りの船の黒条先生に問いかける。すると黒条先生は先ほど同じ様に人差し指で天を指した。
「あれが〈極天〉だ」
そこにあるのは太陽だった。眩く煌めく頂点に輝く太陽。しかしよく目を凝らして見るとそれが――
「巨大な……目玉!?」
――それが巨大な眼球である事が確認出来た。
「あの目ん玉は見たモノ全てをコピーする! よって今俺らは白輝ケイの〈
「コピーするってそんな相手にどう勝てと!?」
「そこで貴様の出番だ。後輩」
アカネが声をかけて来た。この砲撃戦の中でもよく通る声をしている。
「そうか、不可視の刃……」
「そうだ
そうこうしてるうちに軍艦一隻が敵からの光線の被害に遭う。
「大丈夫なんですかアレ!?」
「心配するな! 旗艦である白輝先生の〈
「じゃあ後は、俺があの目玉を狙い撃てば……」
当たる、だろうか? ジンは疑問に思う。この光線の雨の中。刃一つをアレに当てる事が出来るだろうかと。
「……でも、俺の必殺技はカウンター技で」
「四の五の言うな! お前がやるしかないんだ!」
黒条先生の叱咤が飛ぶ。
思わず肩をすくめながらも、刃を〈極天〉へと向ける。
「いいか? 見られたらコピーされる。一撃で仕留めろ」
「そんな……」
不可視の刃も青い血に濡れれば、その姿を現してしまう。
実質、チャンスは一回のみだった。
圧し掛かる重圧。そんなジンの視界の端に燃え盛る炎が入って来た。
「宝玉先輩!?」
「後輩の道は、先輩が作るとしようではないか」
アカネは自らを不死鳥に変え飛び上がった。燃え盛る不死鳥は光線を跳ね除け真っ直ぐに〈極天〉へと向かって行く。
光線の雨が晴れ、道が出来ていく。
「援護射撃は任せて! 〈
「スキル!?」
クラウディアが〈権能〉を放った。それは神にも近い引力ではなく。神をも押しのける斥力であった。
金色の銃が軍艦の先端へと装着されていく。それだけだと相対的に貧弱に見えてしまうが、違う。
軍艦の速度が上がる。これは味方を強化する力だ。ジンにも力がみなぎって来た。
「まだまだこれからーっ! 〈
銃撃を軍艦やジン達に向けて発射するクラウディア。
銃撃を受けた生徒達はたちまちにその力を増していく。
「うおおおお!」
「やってやるぜぇ!」
「任せてクラウディア!」
「ありがとう碧崎さん!」
「これで俺達も大陸王と戦える!」
総力戦だった。〈極天〉の放つ光線を全校生徒で抑え込んでいく。
光線の雨と生徒達の攻撃が拮抗した。
黒条先生が叫ぶ。
「今だ! 行け! ジン!!」
「はいっ!」
――次刃多重装填
――目標、〈極天〉
――総刃、射出!
何枚にも重ねられた刃がずらりと並び、それが〈極天〉へと飛んで行く。
一枚、一枚、また一枚。光線によって刃が砕かれていく。だがまだ残る。
光り輝く〈極天〉の眼球が大きく開かれる。辺りをぎょろぎょろと見回す。
探しているのだ、自分に向かって来る刃を。
光線の雨の強さが増す。拮抗が崩れる。
色とりどりの光の束が押し寄せて来るようだった。
そこに――
「
「黒条先生!?」
黒条先生の〈
再び戦線が拮抗する。刃はまだ無事である。
だが、心配はまだ止まない。
「次刃装填――力を貸してくれアンナ――!」
――疑似次元爪展開
宙に作り出した刃で人の手を再現するジン。正確には、その爪を。
先に送り出した刃が光線に押されているところに届きその刃を刃で掴み取る。
直線的な軌道を捻じ曲げる。光線を避けて進ませる。
「クソッ! 精密操作がこんな難しいモノだったなんて!?」
あの土壇場でそれを成し遂げたアンナの事を思い出す。涙が瞳を濡らす。
「お前の刃の軌道を曲げればいいんだな!?」
そこに話しかけてきたのはワタルだった。
「でも見えないし――」
「任せろ!〈
その現れた魂の武器、スナイパーライフルに備え付けられたスコープを覗き込むワタル。
「バッチリ見えたぜ! お前の刃!」
「嘘だろ!?」
此処に来て、まさかジョーカーである。不可視の刃を見破る事の出来る〈
「オラオラオラァ!」
次々と銃撃を放つワタル。その銃撃によって不規則に曲がるジンの〈
それはようやく光線の雨を抜け、〈極天〉の前まで出る。
「最後の援護射撃は俺が承ろう!」
白輝先生だった。刃に向かって援護射撃を繰り出す。その光線は刃を暖かく包み込み速度だけを光速へと上げて行った。
「行っけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
ジンは目一杯に叫んだ。
そして――
『―――――――――――――――――!?』
音にならない絶叫が辺りに響いた。天空にある巨大な眼球がその
届いたのだ刃が。
歓声が上がる。私立第一武器学園の勝利だった。
だが――
「まだ終わりじゃない〈
黒条先生が叫んだ。
「今……やってます……!!」
〈極天〉の〈
そこで。
「全校生徒に告ぐ! 今から我らが〈
『応ッ!』
全校生徒と教員が声を揃えて叫んだ。全員で〈極天〉の〈
〈
「魂の武器を突き刺せーー!!」
白輝先生の指令で、全員が一斉に武器を振り下ろした。
〈極天〉の至る所から〈
青く染まった〈極天〉はその高度を落としていく。それに合わせ〈
氷の大地が眼前に迫る。
ズドォン……という重低音と共に着地する〈極天〉。
〈
白輝先生が宣言する。
「我々、ジン類の勝利だ!」
『おおーっ!!』
歓声が沸き起こる。〈
「勝ったんだ……本当に……」
「さあてヒーローインタビュー!」
クラウディアがジンに寄りかかる。
「今のお気持ちは?」
「……ははっ。思いつかないや」
「なにそれー。つまんないの」
クラウディアはどこかへ行ってしまう。
しかし青空を取り戻した南極大陸。寒い。ジンは震えた。
さてこれからどうするかと考えていたところ、肩を叩かれた。
「――
「え――?」
そこにあったのは――
「
「駄目だよ~。僕を殺すための立派な武器を凡人なんかに奪われちゃ困る」
「僕を……殺す……? そういえばお前誰だ? 生徒でも教師でもない!」
「おいジン。誰と話してる?」
黒条先生が駆け寄って来る。
「ふふ、今、用があるのは君じゃないよ」
指先で虚空をなぞっただけだった。それだけで黒条先生が地面に倒れ伏した。
「――がっ!?」
「白輝ケイ。
「何を――」
聞く暇も無かった。その黒いスーツの男(少なくともジンにはそう見えた)は白輝先生の下へ飛んで行った。浮遊して進んでいた。ジンの手には〈神殺刃〉が握られていた。
「いつの間に!?」
白輝先生の前に降り立つ男。
「ん? 誰だお前は――」
「権能・領土封印」
白輝先生は男が生み出した光の渦に飲み込まれ、消えた。
そしてその小さな手のひらサイズの光の渦を男は飲み込んだ。
ゴクリ。と喉が鳴った。
目の前で見ていた生徒達が徐々に悲鳴を上げる、それは伝播していく。
「誰!? アレ!?」
「白輝先生は!? どうなったの!?」
「今……飲み込んで……」
「嘘だろ! まだ敵がいたってのか!?」
生徒に恐怖と混乱が広がる。
その様子をジンだけが冷静に見ていた。
「まさか――あいつは――」
「よく聞け、私立第一武器学園の諸君! 君達ジン類は旧人類に勝利した! これから君達が新人類として戦っていくのだ! 何と? だって? それは勿論、僕とさ」
生徒にどよめきが広がる。
「みんな僕が誰か知りたいみたいだ。教えてあげよう。僕は神だ」
自称神が指を鳴らした。すると景色は氷の大地から一変し私立第一武器学園の校庭に移動していたではないか。
「この程度なら、白輝ケイにも出来ただろう。ではこれでどうかな」
さらに指を鳴らす。
すると――
――空が割れた。
現れる赤い空、青く燃える太陽。そこは〈
「嘘だろ!? 大陸王は全部倒したじゃんか!?」
「なんでまたこの世界があるの!?」
生徒達の驚愕と疑問の声。
神は嗤う。
「まだ、この島国を支配する〈
神がそんな事を言う。
黒条先生が何かに気づく。
「お前……〈月読〉か!?」
「ご明察! 如何にも我が名は〈月読〉最後の〈
「……俺に?」
ジンは神殺刃を握り込んだ。
「君の一族に伝わる体術は僕を殺すために生み出されたモノだ。そして君のご両親を返り討ちにして殺したのも私だ」
「!?」
衝撃の言葉だった。そして、祖父が言っていた化け物とはこいつの事だったのかと思い至るジン。
「お前が……父さんを、母さんを……!」
「ああ、そして俺の腹の中には英雄、白輝ケイがいる。助けるには、僕の腹を掻っ捌かなきゃねぇ?」
「――やってやるさ」
怒涛の展開に頭が付いていけていなかったジンだが、覚悟を決めた。
「君ならやってくれると信じてるよ? ああそうそう、お仲間の力を借りてもいいからね?」
「さあ来い、化け物。存分に殺し合おう」
「ああ、来たまえ人間。神の前にひれ伏すがいい」
こうして真なる最終決戦が始まろうとしていた。
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