第19話 騎士集結


「ローレンスが倒された」

 そこはユーラシア大陸の奥地にある玉座の間。

 そこに鎮座するは大陸の覇者〈雷帝〉。

 その前にひれ伏す八体の人影。

「次元を超える技を持つ我らが何故、倒される?」

「それはただ単にローレンスが弱かったからゆえ。初戦は第十位……」

「ほう? 私の人選が間違っていたと?」

「っ!? いえ、そのような事は……!」

 〈雷帝〉が手で制す。

「冗談だ。だが貴様ら〈騎士〉に油断があったのもまた事実。よって今回は我から勅命を下す」

「〈雷帝〉御自らが勅命を!?」

「残る〈騎士〉八人。この全てを用いてユーラシア大陸への侵入者及び裏切り者アンナを叩き殺せ!」

 ビリビリと玉座の間が揺れた。ひれ伏す八体の影はすぐさまその場を後にした。

「御意!」

 とだけ言い残して。


                 ● ● ●


「もうすぐ着くのか? 〈雷帝〉のところに?」

「うん、もうすぐ玉座の間だよ~」

 ジンとアンナ、一人と一体は大陸を横断するため〈虚空跳躍ファントムジャンプ〉を繰り返して高速移動していた。

「意外と早かったような。やっぱり一週間は長かったような……」

「あはは、非常食ぜんぶ食べきっちゃったもんね~」

「笑い事じゃねーぜ……帰りは何喰って行けばいいんだ……?」

「そこら辺の〈解放獣アウター〉でも食べたら~?」

 それは一種のカニバリズムに当たるのではないかと想像し吹き出しかけるジン。しかし、それよりも早くの気配に気が付いた。

「誰だっ!?」

「待っていたぞローレンスを殺したニンゲン。それにアンナ!」

「我らが〈騎士〉の誇りに泥を塗った事、後悔させてやる!」

 黒い人影が八体。一人と一体の前に現れた。

「嘘……! 騎士が八人!? 第一位もいる!? まずいよジン! ここは一回逃げ――」

 しかし、ジンはその瞳を獰猛に蒼く光り輝かせていた。

「上等――!」

 〈虚空の刃ファントムナイフ〉を構えるジン。八体の黒い人影はたちまち青い炎に包まれ、真の姿を現した。

 一体目は、蛇のように長い甲冑。

 二体目は、蛸のように何本も足がある甲冑。

 三体目は、蟷螂かまきりのように腕が鎌と化している甲冑。

 三体目は、獅子のように四足歩行で歩く甲冑。

 四体目は、蝙蝠こうもりのように飛行する甲冑。

 五体目は、風船のように頭が肥大化している甲冑。

 六体目は、甲冑というより宇宙飛行士が着る宇宙服のような恰好。

 七体目は、足が無く浮遊している幽霊のような甲冑。

 八体目は、己の身体よりも大きな剣を携えた獣人。

 これが総勢八体のユーラシア大陸の覇者〈雷帝〉を守護する騎士達。

 ジンは武者震いが止まらなかった。

「いいねぇ! 燃えて来た!」

「待って! ジン!」

 制止するアンナの忠告も聞かずに攻め込みに行くジン。そこに八体から一斉に攻撃が放たれる。

「〈次元鞭〉!」

 長い甲冑が四次元から三次元へと向けて振るわれた。

「〈次元脚〉!」

 八本の脚が四次元から三次元にかけて蹴り出された。

「〈次元鎌〉!」

 両腕の鎌が四次元と三次元を切り裂いた。

「〈次元顎〉!」

 開かれた獅子の大顎が四次元と三次元を噛み潰した。

「〈次元翼〉!」

 蝙蝠こうもりの羽ばたきが四次元と三次元を震わせる風を巻き起こす。

「〈次元念〉!」

 巨大な頭から四次元と三次元を巻き込む念波が発せられる。

「〈次元空〉!」

 四次元に穴が開き三次元を吸い込むブラックホールを生み出した。

「〈次元幽〉!」

 もはやこの世のことわり出ないナニカが四次元から三次元へ這い出て来る。

「〈次元裂断〉!」

 その攻撃は未だあるかどうかも分からない五次元からの一刀両断。全て切り裂く最強の矛であった。


 それらの技を全て見てジンは悟る。と。

 ジンは構えを取った。右手を前に、左手を後ろに、右足を後ろに、左足を前に。

「――双刃そうじん花冠葬送かかんそうそう

 まだ未完成の。思い出した祖父の技、双柔指そうじゅうしおくばなをジンなりに解釈し進化させたもの。

 それは相手の技を何倍にもして送り返すカウンター技であった。つまり相手から仕掛けて来なければ成立しない技。それらの技は本来ならば『柔刃』に該当するのだが、今、ジンの手には右手にも左手にも〈虚空の刃ファントムナイフが握られていた〉。これはローレンスの〈魂血ソウルブラッド〉を取り込んだ事による変化だった。二刀流のナイフ使い。両手で逆手に持ち剣戟を交差させる。

 次元を超えた技と技がぶつかり合った。

 そして――

「次刃多次元装填!」

 双刃そうじん花冠葬送かかんそうそうの第二矢が放たれる。

 相手の攻撃を受け切った上で。なお反撃に転ずる事が出来る。それが双刃そうじん花冠葬送かかんそうそうの強みである。

 さらに進化したジンの〈虚空の刃ファントムナイフ〉には次元を超えてその刃を展開する力が備わっていた。

 次元を切り裂く刃。まさしく〈次元斬〉を吸収した結果と言える。

 己の技を返され傷を負う騎士達。そこにナイフの雨が降り注ぐ。

「射出!」

 切り裂かれる次元、そこにはひび割れた赤い空ではなく。本来の青い空が広がっていく。いや違う。これはだ。ジンのイメージするが〈解放獣アウター〉達の住む世界を侵食しているのだ。

 形成されるニンゲンの世界。

 広がるのは――一面の花畑。

 シロツメクサが咲き誇っていた――


 シロツメクサに埋もれ青い血を吐き出す騎士達。

「……嘘でしょ? 騎士を全員……第一位の五次元斬撃ごと送り返した……!?」

「――はぁっ! はぁっ!」

 ひどく息を切らすジン。かなり消耗している様子だ。

 アンナが駆け寄る。

「大丈夫!? ジン!?」

「あ、ああ、大丈夫だ……でも双刃そうじん花冠葬送かかんそうそうはまだ未完成だな……こんなにも身体に負荷がかかるなんて……」

「そりゃそうだよ……五次元より先を掌握しようと手を伸ばすなんて……いくら〈上限者ハイエンド〉って言ったって……」

「分かってる、でも手を伸ばしたいんだ。

「……ジン」

 そんなジンにアンナはそっと寄り添ったのだ。

 ジンはそんなアンナに肩を預け少し休憩をするのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る