第17話 反逆騎士


 赤い空に青い炎。〈解放区アウターゾーン〉ユーラシア大陸を行く一人と一体。その前に一つの影が立ちはだかった。

「――お前は、。人間を連れているな。〈雷帝〉様への貢物か? ――やっと〈騎士〉としての役目を果たす気に――」

「え? 違うよ? 彼はジン。〈雷帝〉様を倒しに来たんだって」

「……何?」

 怒気で空気がひりひりと張りつめていった。

「反逆騎士ってなんだアンナ?」

「私達、〈解放獣アウター〉には位があるの、その中でも大陸王を護衛する任務にあたるのが〈騎士〉の役目って訳。強い個体しか選ばれないんだよ?」

「〈上級者ハイクラス〉みたいなもんかな」

「――愚か者! ――ニンゲン側の常識に我らを当てはめるな! 我ら正統なる人類の末裔たる我々の高潔な位を馬鹿にする事は許さん!」

 黒い影が叫んだ。

「――忌々しいニンゲン種め! 我が名を殺し名としてその魂とやらに刻んで消えて逝け! 〈雷帝〉の臣下、第十位たるローレンス! ――いざ尋常に勝負!」

「ちなみに私は第二位」

「――黙れ反逆騎士!」

「真っ黒な影に凄まれてもなぁ」

 ジンはわざと挑発するような口ぶりをした。

「――我が真の姿が見たいと申すか……。 ――いいだろう! ――燃え上がれ!」

 青い炎に包まれる黒い影、そこから現れたのは蒼白の甲冑だった。

(あの色は――)

 ジンが祖父により双柔指そうじゅうしおくばなで封印された記憶が蘇りそうになる。〈蒼白の棍棒ブルーメイス〉恐怖と高揚の象徴。

 ――ゾクリ、とジンの背筋が震えた。

 ――ドクン、とジンの心臓が脈打った。

 ――ゴクリ、とジンは固唾を飲み込んだ。

「いいね……かかってこいよ〈騎士〉! 俺が狩ってやる!」

「――つけあがるな!」

 どこか骸骨を思わせる騎士甲冑は長剣を構えて駆け出す。

 〈虚空の刃ファントムナイフ〉を構えて迎え撃つジン。

「――でやあ!!」

 上段からの切り裂き、それを柔刃じゅうじん旋風つむじかぜで迎え撃とうとするジン。しかし。

 剣が

「!?」

「――我が〈次元斬〉は防御不可能! 死ねい!」

(マズい――!?)

 そこに――

「危ない!」

 割って入って来たアンナ。剣撃をモロに喰らってしまう。青い血が噴き出る。しかし、そこに生まれたローレンスの隙を冷徹に見逃さなかったジン。

「悪いアンナ! 剛刃ごうじんとどろき!」

 〈虚空の刃ファントムナイフ〉が骸骨じみた甲冑を穿ちにかかる。だが。

 ――ガキィン!

 弾かれたのだ。

「な、にっ!?」

「――我が甲冑は、絶対防御! ――最強の盾と矛を持つ私に敗北は無い!」

「だったら!」

 〈虚空の刃ファントムナイフ〉を構えるジン。

「何度でも同じ事よ! 〈次元斬〉!」

 ブレる太刀筋。しかし。

「見えた――その概念、断ち切らせてもらう。双柔刃そうじゅうじん彼岸華ひがんばな

 〈権能〉を発揮するジン。しかし、それは〈権能スキル〉ではなかった相手を受け入れる〈権能ルール〉の引力。

 ――〈権能ルール領土切断エリアスラッシュ

 相手を引き込む受けの技とジンの〈上限者ハイエンド〉としての力が合致した時、新たに発言した〈権能〉。

 それは敵の概念の隙を突く、しかし、強引な斥力で断ち切る〈権能スキルと違って〈権能ルール〉は相手の概念を一度、。それはブラックホールのような吸引力であり。躱す事は不可能に近い。

 〈上限者ハイエンド〉に目覚めたジンには〈次元斬〉のが理解出来た。それは文字通り、次元を超えた剣技だったのだ。

 四次元から三次元への一刀両断。それが〈次元斬〉。

 。簡単に言っていると思われるかもしれないが〈上限者ハイエンド〉ならそれが可能だ。魂を神に近い次元に昇華させた存在。それが〈上限者ハイエンド〉なのだから。

 ピシッという何かが割れる音が断続的に響いた。それはローレンスの蒼白の骸骨甲冑がひび割れていく音だった。割れ目から青い血が溢れ出す。

「――うおお!? ――馬鹿な馬鹿な馬鹿な!?」

 鎧にしても同じ事、次元を常に移動しているからこその絶対防御。ならば追いかけて斬ってしまえばいいだけの話。それが出来るならただそれをやればいい。

 それを可能にしたのが双柔刃そうじゅうじん彼岸華ひがんばな。その文字通りの青い血が噴き出し、青い彼岸花が咲き誇っていた。

「お前の魂、喰らわせてもらう――次刃多重装填、射出!」

 〈虚空の刃ファントムナイフ〉を展開するジン。そしてそれはローレンスへと突き刺さっていき、その〈魂血ソウルブラッド〉を吸い出していく。

「――おのれおのれおのれ……!」

「ぐっ! そういやだったなコレ……!」

「ジン、大丈夫?」

 いつの間にか回復しているアンナが心配そうに駆け寄って来る。

「……お前の方こそ……大丈夫そうだな……」

「えへへ。私、第二位って言ったでしょ? 第十位ごときにやられないよ!」

「そっか――」

 ローレンスの〈魂血ソウルブラッドを吸いつくした時。ジンの意識は途切れてしまったのだった。

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