第16話 大陸旅行


 地平線の向こうまで広がる赤い空。今まで注目した事が無かったが。そこには青い炎の塊、青い太陽があった。

「――あなたの眼みたいだね。あの太陽。 ――逆かな、君の眼があの太陽みたいなのかも」

 独特の呼吸音を挟みながらアンナがそう語った。ジンは頭を傾げながら。

「そもそも、この青い炎はなんなんだ?」

「――屍だよ?」

 いとも簡単に言った。

「しかばね?」

 一瞬、何かの聞き間違いかと思った。だけど違った。

「――そう死体。 ――命を失った者のなれの果て」

「……このひび割れた世界は?」

「――地球は私達〈解放獣アウター〉と貴方達〈魂操士ソウルマスター〉の容量に耐えきれなかった。 ――キャパシティーがオーバーしちゃったの。 ――そして世界を二つに分けた」

「もしかして魂の世界と?」

「――正解! ――魂の世界と肉体の世界の二つに地球は分かれた。 ――そして肉体を選んだ私達と魂を選んだ貴方達とで戦争が起きた」

「それが対大陸戦争グラウンドウォー……」

「――そう、そして勝者は島国ニホンだけだった……六大陸は敗北した」

「……そうしてニンゲンと人間が別れた」

「――それが世界の真実、魂世界の人は次の世代にはその事を隠したがってるみたいだけど」

「随分と詳しいな?」

「――私、私立第二武器学園ってとこに居た事があるの。 ――生きる的としてね」

 またも衝撃的な事実を簡単に言うアンナ。生きる的、そんなの――

「――そんな、むごい」

「――あはっ、やっぱりあなたは優しいね? そういえば私、あなたの名前聞いてなかった!」

 話を逸らすように話題を変えるアンナ。これ以上踏み込まれたくなかったのだろうと、その意を酌んでそれにジンは乗った。

空沢うろさわジン。改めてよろしくなアンナ」

「――うん! ――よろしくジン!」

「いきなり呼び捨てかよ」

「――ダメだった?」

「構わないよ」

 ユーラシア大陸二人旅。しばらくは歩いていたが、このままでは埒が明かない。

「アンナ、〈雷帝〉はどの方向にいる?」

「――え? ――北の方だけど……」

「アンナ、俺に掴まれ」

 アンナを抱き寄せるジン。

「――ちょっとちょっと!?」

「〈虚空跳躍ファントムジャンプ〉」

 〈虚空の刃ファントムナイフ〉を射出し北へ真っ直ぐ飛んで行く。ワープじみた跳躍、勢いがなくなってくれば。

「次刃装填、射出!」

 そうして〈虚空跳躍ファントムジャンプ〉を繰り返す。

「――すごい! ――すごい! 〈魂操士ソウルマスター〉はこんな事も出来ちゃうんだね!」

「ああ、どうだ? 〈雷帝〉にも勝てそうか?」

「――うーん、それはどうだろう?」

 にやにや笑うアンナ。ジンはそれを見て苦笑する。

「そういえば前から聞きたかったんだが」

「――何?」

「その呼吸音。――って奴。なんなんだ? 〈解放獣アウター〉特有の呼吸法か?」

「――? ――ああ、それは魂と肉体の時差だね。 ――魂と肉体との会話にはタイムラグが生じるの。 ――あなたが言っているのは多分それ」

「魂と肉体のタイムラグ……そんなものがあるのか」

「――私にはジンの言葉はすごく早口に聞こえるよ?」

「そうなのか? 普通に喋ってるつもりなんだが……そうか、ゆっくり話した方がいいか?」

「――大丈夫。 ――それより私こそ早く喋ったほうがいいかな?」

 しばし逡巡するジン。正直、アンナの独特のは会話の度に気がかりなるものではあった。気を使ってそのままでいいというのが紳士的なのだろうが、ジンは正直に告げる事にした。

「……うん、そうしてもらった方がありがたいかな」

「――分かった。 ――あー ―あー あー、……これでどう?」

「もう少し喋ってみてくれ」

「〈雷帝〉様がいる方向から少しズレて来てる。もう少し東に修正して……これでどう?」

「良い感じだ。というか今の話の内容ホントか?」

「ウソなんかつかないよー」

 笑いながら言うアンナ。

「了解、修正する」

 一旦止まって、切っ先を東方向へと向けるジン。

「これでいいか?」

「うん、大丈夫」

「じゃ行くか。さ、掴まって」

「うん!」

 こうして大陸移動の時間は続いたのだった。

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