第15話 漂着


 ジンは辿り着いた。

 何処に?

「はぁ……はぁ……此処がかぁ!」

 そう小さい島国を飛び出し、海の向こう、大陸まで辿り着いたのだ。

虚空跳躍ファントムジャンプって結構疲れるなぁ……」

 見渡す限りの荒野、青い炎が燃え盛る大地。砂浜から見えるのは赤い空。海の方を見ても、そこに広がるのは赤い景色だった。

「……こっちが本当の世界なんだとしたら、俺が住んでた世界はなんなんだ? 魂だけの世界とか?」

 自問自答しても答えは出ない。それに此処は、この砂浜はゴールではない。スタート地点だ。ユーラシアにいるはずの大陸王を探すべくジンはやってきたのだから。

っても、どこに居るんだろう。大陸王」

 見回しても〈解放獣アウター〉の一匹も見当たらない。

「どういう事だ……? ここ〈解放区アウターゾーン〉だよな?」

 独り言ちるが答える者など――

「――そうだよ? ――此処は〈解放区アウターゾーン〉だよ?」

 少女の声だった。

 咄嗟に振り向き構えを取るジン。

 そこに居たのは。

「――やっほー。 ――

 解放獣だった。半人半獣の〈解放獣アウター〉。

 猫耳姿、両手両足を毛皮で包まれ尻尾の生えた少女であった。

「まさか……大陸王?」

「――いやいや ――そんなまさか ――〈雷帝〉様がそんな簡単に人前に姿を現すわけないじゃん?」

「〈雷帝〉……それがユーラシアの大陸王……」

「――そうそう、飲み込みが早いね君」

「……それで、〈解放獣アウター〉がなんの用だ」

「――私の名前はアンナ! ――

「――は?」

 ジンは一瞬、自分に〈解放獣アウター〉が喋る時の変な呼吸の間が移ってしまったのかと思った。

 それほどに何を言われたか分からなかった。

「いや待て、俺達は敵だよな?」

「――そう? ――私はそうは思わないよ? ――ただ種族が違うだけでしょう?」

「……そう、なのか?」

 言われてみればそうなのかもしれない、しれないが。

「俺の両親は化け物に殺されたらしい。多分、それは〈解放獣アウター〉の事だと思う。だから俺にとってお前らはかたきって事になる」

「――でもそれは私じゃないよ? ――私、今初めて人間と出会ったんだもん」

「……だもんってお前なぁ」

 なんだか調子を崩される。どうにかしてこの場をやり過ごせないだろうかとジンは思案する。

 そうして頭を悩ましていると、アンナの方から声をかけて来た。

「――じゃあこういうのはどう? ――私が〈雷帝〉様の所にあなたを案内する。 ――それまでは仲良くするってのはどう? ――せいぜい一週間くらいかかるかな?」

「……一週間か、ユーラシア大陸の大きさを考えると短いのか長いのか分からないな」

 分からないも何も、なんの情報も無しにユーラシア大陸全土を探せとなったら、客観的にじゃなくても普通に考えて一週間で見つかるのならば破格の速さと言えよう。

 正直、魅力的な意見だと思ってしまう。しかし敵の言葉を鵜呑みしていいものなのか。

「正直に言う。俺はお前が信用出来ない」

 はっきり告げた。そうする事が礼儀だと思ったからだ。するとアンナは。

「――分かったよ。 ――じゃあこれをあげる」

 そう言って、

「何をして――!?」

 止める暇もなかった。青い血〈魂血ソウルブラッドが溢れ出す。

「――こ、これが、君を〈雷帝〉様の所まで、導いてくれるはず……だから……」

 尾てい骨辺りから血が噴き出す様子というのはただ画面越しにでも見れば笑えてしまう光景かもしれない。しかし、現実となって血を垂れ流す少女というのは痛々しいものであった。

「分かった! 分かったから! 止血しろ! ほら、これやるから!」

 ジンは持ってきた救急箱から包帯を取り出した。

「――はは、ありがとう。 ――でもいいんだ。たいした怪我じゃないし」

「どう見ても大した怪我だろう!」

「――違うよ? ――私達アウターはどんなに怪我をしても再生する。肉体の進化の頂点たる種族だからね」

 その言葉通りだった。

 しゅるり、と音を立ててアンナの尾てい骨から新たな尻尾が生えて来たではないか。

「――魂を殺されない限り死なないのが私達アウター。 ――肉体の残滓コアを消されたら死ぬのが貴方達ソウルマスター。」

「肉体の、残滓コア?」

「――そう。あなた達が持っている過去の肉体と今の魂を繋ぐへその緒のような物。それが残滓コア。これが貴方達ソウルマスターの弱点、〈雷帝〉様ともし戦いたいっていうんなら覚えておいて」

「……お前、本当に良い奴なんだな」

「――信じてくれた?」

 一瞬の逡巡、しかし腹をくくるジン。

「ああ、俺を導いてくれアンナ、〈雷帝〉の下へ」

「――一緒に行っていいの!?」

「うん、頼んだ」

「――嬉しい! ――任せてよ!」

 こうして一人と一体の旅路が始まった。

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