第12話 襲撃


 校庭に現れる影、影、影。

 それらは四足獣の形をしていた。

 見かけた誰もが最初は野犬でも紛れ込んだのかと思った。

 しかし、違った。


 それは〈解放獣アウター〉だった。


 形容し難いような何かが割れる音が響き渡る。いや何かではない。確かに割れていたのだ。

 そう空が、あの真っ青な空が割れていた。

 深紅に染まった虚空から、温度を持たない青い炎が溢れ出る。

 巨大な物体がそこから現れ出でようとしていた。十数メートルはあろうかという物体だ。

 有機質なマネキンとでも言おうか、硬いスカートのような扇状の物体を腰に巻き付け一本足で直立浮遊する謎の〈解放獣アウター〉。

 その光景を見て、なんだなんだと校庭に集まって来る生徒達。なんと緊張感のない事だろう。しかし〈解放獣アウター〉の脅威を知らない生徒達にとっては仕方のない事なのかもしれない。

 教師陣が生徒と〈解放獣アウター〉の間に割って入る。

「お前らは教室に避難しろ! いいか、絶対出てくるんじゃないぞ!」

 教師の一人がそう叫んだ。しかし一行に野次馬が減る気配はない。

「クソッ、不良生徒共め……!」

「まあまあ仕方ないですよ。〈解放獣アウター〉の事を極秘にしてきた我々大人にも責任はあります」

白輝しろき先生……」

 白輝先生と呼ばれた人物は教師と生徒がごった返す所から一歩前へ出る。そう巨大な〈解放獣アウター〉の下へ。


「なんのために此処に来た?」

 質問。それに怪物は――

「――無論、侵略。さあ

「再選って訳か。上等」

 白輝先生はパチンと指を鳴らす、すると――。


 虚空に現れたそれは光輝く鉄塊だった。

 あまりに巨大で下からでは何かは分からない。

 上から見た者だけがその正体に気づける。

 そうそれは――


「戦艦――!?」

 校庭の野次馬に混じらず、屋上に向かった生徒が放った言葉だった。

 そうそれは巨大戦艦。かつての対大陸戦争グラウンドウォーで作られたとされる兵器の一種。今は見る事の出来ない幻の一隻であった。

「〈光の帝王ライトニングエンペラー〉。どうだ俺のツレは? 美しいだろう?」

『――忌々しい! ――消え去ってしまえ!」

 人型の巨大〈解放獣アウター〉から光線が放たれる。それは次元を引き裂き青い炎を巻き散らかした通った後には赤い空が現れる。

 しかし、それを。

「〈権能ルール領土繁栄エリアゲッター

 

 ――広がったのは光の海原と大量の軍艦たち――


 光線を弾き返し、〈解放獣アウター〉を自らの〈権能〉に引き込む白輝先生。

「こんなもんか? やっぱり対大陸戦争グラウンドウォーの時より質が落ちているな」

「――キィィィィ!! ――ニクイニクイニクイ!」

「はっ、哀れな亡霊め、俺が消し去ってやる。全砲門前へ――」

 軍艦達の砲塔が一斉に前へ向く。

「――一斉射撃ファイア

 放たれる光の乱舞。横殴りの雨にも似た全面攻撃。小型の四足獣型〈解放獣アウターは一発で消し飛んで行く。

 大型の〈解放獣アウター〉もそれをもろに喰らって、その体勢を崩す。

「――我らが進化が劣るというのか?」

「ああ、そうだ」

「――認めぬ、認めぬぞ! ――対大陸戦争グラウンドウォーに勝ったのは我々だ! ――世界を手にしたのは我々だ!」

「違うな。俺らが世界の方を捨てたのさ」

「大きく違うね。俺達ニンゲンはお前ら人間と違って。考える事を止めちゃいない。いつか魂が神に届くその日まで進化を止めちゃいないんだ。それに比べてお前らはどうだ〈解放獣アウター〉なんて人外になってまで何を手に入れた? 次元を引き裂く力? 世界を染める青い炎? 滅びの赤い空? それに何の意味がある。世界を引き込む引力と世界を押し出す斥力。この〈権能〉を持つ俺ら〈上限者ハイエンド〉の方が上なのが何故分からない。 なあ!」

 言葉の間にも砲撃は続いている。ついぞ大地に落ちる大型〈解放獣アウター〉。

決着ジ・エンドだ」

 親指を下に向ける白輝先生。

 最後の砲撃が〈光の帝王ライトニングエンペラー〉から放たれ大型〈解放獣〉を撃ち貫く。

 消し飛ぶ〈解放獣アウター〉。最後の叫びは何を意味しているのか。

 白輝先生が煙草に火を点けながら呟く。

「大陸王……

 その独り言を聞き逃さなかった人物が一人だけ。

 それは。

「――大陸王。今の奴より強力な〈解放獣アウター〉が六体も……!」

 武者震いをする、その生徒はジンであった。

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