第11話 授業


「せっかくだ〈上限者〉の〈権能〉について戦いながら教えてやる。仮にもこれは授業なんだからな」

 黒条先生が〈漆黒の鞭ブラックウィップ〉を取り出して宣言する。

「授業なんていい! 今はただ戦いたい!」

 暴走気味のジン。いや気味ではなく熱に浮かされ暴走している。それを無視して黒条先生は告げる。

「いいか〈権能〉には二種類ある〈権能ルール〉と〈権能スキル〉だ」

「次刃多重装填!」

 虚空に浮かぶ大量の刃。だが不可視。見えざる刃に囲まれてなお、黒条先生は飄々としている。

「〈権能ルール〉っていうのは相手を自分の魂に引きずり込む引力の事だ。じゃあ〈権能スキル〉っていうのは自分の魂の斥力を相手にぶつける事なんだよ。こんな風にな」

 〈漆黒の鞭ブラックウィップ〉を振るう黒条先生。

「〈権能スキル領土拡大エリアオーバー〉」

 〈漆黒の鞭ブラックウィップ〉が蜘蛛の巣のように網目状に広がっていく。それにより大量の刃は食い止められる。それを見てニヤリと笑ったのはジンだった。

「〈権能スキル領土切断エリアスラッシュ〉」


            ●

 一瞬、世界が白と黒に反転し――

            ・ガキィン!


 そこでジンの〈権能〉は弾かれた。

「――っ!?」

「驚いたか? 言ったろ、〈権能ルール〉は引力で〈権能スキル〉は斥力なんだって。斥力と斥力がぶつかり合えば当然、弾き合う」

「じゃあ、さっき俺がクラウディアに勝てたのは――?」

「引力と斥力、その相性の問題だ。どっちが強いってわけじゃねぇ。時と場合、技の質なんかによって立場を入れ替える陰と陽。それが〈権能〉だ」

 ジンはそこで諦めない。〈漆黒の鞭ブラックウィップ〉と〈漆黒の鞭ブラックウィップ〉の隙間を狙う。

「次刃多重装填――射出!」

「狙いはいいが、こっちだって止まったままじゃあないんだぜ?」

 網目模様が蠢いて変わっていく。弾かれる方向へと変化していく。しかし一本でも刃が通ればいい。そうすれば――

 キィンと甲高い音が第二演習場に響き渡る。

「おっと、一本足元に通しちまったか……ってまさか!?」

「〈虚空跳躍ファントムジャンプ〉」

 刃の元へと柄ごと瞬間移動するこの技は〈上限者ハイエンド〉になって事でより便利に強化された。そして――

「〈上限者ハイエンド〉は神にも届く人外――なら!」

「はっ! まさかお前!」

「使ってもいいよな祖父ちゃん!」

 構えを取る、右手を前に、左手を後ろに、右足を後ろに、左足を前に。力を込めて拳を握る。そして床を踏みしめる。

「穿て――剛指ごうし!」

 正拳突き、であった。しかし今回は〈虚空の刃ファントムナイフ〉を握り込んでいる。それが意味する所は。

「〈上限者ハイエンド〉の身体強化が乗った状態での対怪物用体術!?」

 なんとか〈漆黒の鞭ブラックウィップ〉で受け止める黒条先生。しかし。

「絡め捕れ! 柔指じゅうし!」

 鞭を掴み取り、捻る。それに釣られ態勢を崩しかける黒条先生、そこをなんとか〈漆黒の鞭ブラックウィップ〉のリーチを伸ばす事でカバーする。

 柔指を逸らされたジンは、両拳りょうこぶしを構える。

双剛指そうごうし裂鉄れつてつ!」

 前回は〈解放獣アウター〉の牙を握り込んでの一撃だったが。今回は〈虚空の刃ファントムナイフ〉を握り込んでの一撃。

「――ぐっ!?」

 〈漆黒の鞭ブラックウィップ〉に亀裂が入った。さらに連撃は続く。

剛刃ごうじんとどろき! 切り裂けぇぇぇ!」

 ブチィンッ! という弾けるような音がした。〈漆黒の鞭ブラックウィップ〉が千切れ飛んだ音だ。

 そしてそのままジンは黒条先生の首元に〈虚空の刃ファントムナイフ〉を突きつける。

王手チェックメイトだ。先生」

「…………あーはいはいまいりましたまいりましたよっと」

 両手を上げ降参のポーズを取る黒条先生。

 こうして二度に渡る対〈上限者ハイエンド〉戦を制したジン。第二演習場に驚きの歓声が鳴り響く。しかしその時、誰も気づいてはいなかった。私立第一武器学園に迫る脅威に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る