第9話 権能・領土支配


 黒条先生の授業は続く。

「じゃあ次、碧崎と――」

 実戦訓練の順番はクラウディアまで来ていた。黒条先生がクラウディアの対戦相手の名前を挙げようとした時だった。割って入る声。

「はーいセンセー。私、ジン君と戦いたいでーす。

 クラウディア本人だった。挙手して己を目立たせている。

「何言ってんだお前。そんなの許可出来るわけねーだろ。それにな。空沢うろさわは今、ダメージ受けてんだよ」

「それぐらい平気だよね? ジン君」

 クラウディアがジンを見やりにやりと微笑む。ジンは肩を押さえながらも。

「俺は構いませんよ先生」

 そう答えた。

「……ったくお前らはよー。どうなっても知らねーからな。空沢うろさわ、碧崎前に出ろ」

 第二演習場中央で対峙する二人。ここまでは先ほどのワタル戦と大差は無い。しかし。

「〈夜明けの弾丸ドーンバレット〉私の愛銃の名前、よろしくね☆」

 己の金色の髪と同じ金の拳銃を取り出すクラウディア。そこから異様なプレッシャーが放たれていた。

 同じく〈虚空の刃ファントムナイフ〉を取り出すジン。虚ろなこの刃に今、己を託していいのかジンは不安でいた。

「では両者位置に付いて、勝負開始!」

 黒条先生が距離を取ると同時に戦闘が始まる。その刹那――

「ここまでは前と一緒」

 その声、対峙していたはずの、目の前にいたはずの、クラウディアの声がジンには後ろから聞こえた。

(一瞬で後ろに回り込まれた!?)

 アカネと戦い終わった後の時もそうだった。回り込まれ頭に一発貰ったのだ。

「でもここからは違う。見せてあげるね? 私の〈権能〉」

 クラウディアは呟く。

「〈権能ルール領土支配エリアシール〉」

 辺りが金色こんじきに包まれる。そしれ現れたのは銃口の群れ。

 銃口銃口銃口銃口銃口銃口銃口銃口銃口銃口銃口銃口銃口――

 辺り一面が銃口の花畑と化していた。

「これが〈権能〉。相手を自らの魂の領域に引きずり込む必殺技――どう? 綺麗でしょ」

「魂の領域!?」

 辺りを見回しても金色の銃口意外何も見えない。まるで第二演習場が消え去ってしまったようだ。

「――っ! スペツナズ・ナイフ!」

 切っ先を真っ直ぐ向けてトリガーを押すジン。刃はあらぬ方向に飛んで行く。

「あれ? どうしたのやけくそにでもなっちゃった?」

「なあクラウディア。俺はやっぱりナイフは柄と刃、両方揃ってこそのナイフだと思うんだよ」

「……何を言って――」

「柄がある場所に刃がある。

「まさか!?」

「〈虚空跳躍〉《ファントムジャンプ》」

 一瞬でジンの姿がクラウディアの目の前から消える。ジンは射出された刃の元に居た。

「すごいね。どうやってそんな技、思いついたの? そんな伏線無かったじゃない」

「お前に〈権能〉を見せてもらったおかげさ。俺も魂のレベルが上がったみたいだ。おかげで今なら自分の魂の事が、この〈虚空の刃ファントムナイフ〉の事がよく理解わかる」

「やっぱり期待通りの人だったね、ジン君――!」

「ああ、行くぞクラウディア!」

 二人の激突の直前、ジンの目が、瞳が、眼窩に収まる眼球が怪しく輝いた。

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