第8話 狙撃手
保健室で目が覚めるジン。もう外はすっかり暗くなっていた。
「あら、起きた? でももうだいぶ遅い時間なのよ。今日は泊って行きなさい。ご家族は……いないんだってね」
藤里先生が丸椅子に座っていた。ジンはベッドの上で俯きながら。
「はい、幼い頃に亡くなりました。祖父ちゃんに引き取られて、その祖父ちゃんも此処に入学する前くらいに」
「そう、まあでも良かったんじゃない? ここは学費もないし、逆にお金がもらえて昼食も出るし」
「そうですね。それは幸運でした」
「魂を武器化出来るニンゲンは一部しかいないんだから。その才能、無駄遣いしないようにね。まあもう〈
「……そういえば宝玉先輩は!?」
思わず隣のベッドを見やるジン。しかしそこには誰もいない。
「あの子なら先に帰ったわ。あの子、能力からして回復力が高いから。復帰も早かったわ。それよりもあなた腕よ。両腕丸焦げだし左腕には刺し傷まで……私の〈
「ウソッ!? そんなに重傷なんですか俺!?」
「当たり前でしょう。アカネちゃんから聞いたわよ。燃え盛る不死鳥を直接掴んだんだってね……そんな馬鹿な事する普通?」
「いや……祖父ちゃんから教わったもんで」
「……おじいさんは炎を触っちゃいけないっていう常識は教えてくれなかったらしいわね」
「……あはは」
話していると眠気が襲って来たジン。
「どうやらまだ疲れてるみたいです……」
「でしょうね、回復には相当、体力を使うわ。今は眠りなさい」
「……」
「って、もう寝たのね」
藤里先生は机に肘を突いて頬に手のひらを当てながら。
「まったく世話の焼ける生徒がきたもんだわ。注意したのに、この子は何度か此処に来る事になりそうね」
そう独り言ちた。
● ● ●
今日は実戦の授業だった。
アカネとの対戦以来の実践であった。しばらくはリハビリに専念していたジンはなんとか後遺症も残らずに済んだのだった。
「いいかお前ら。俺ら魂を武器化出来るニンゲンにとって実戦より効率的な成長の方法は無いと言っていい。〈
黒条先生の授業、場所は第二演習場であった。
「よし、てなわけで早速、実戦に移る。五十音順でいいな?
広い第二演習場の端から中央へと出る二人。
ジンの相手は柿崎ワタル。耳にピアスを開けているのが特徴で少しガラが悪い印象の生徒だ。
「よう〈
「……あんま煽るなって。喧嘩じゃないんだから」
「いーや俺は
「そーかよ、俺は乗らないけどな」
「例の第一位を倒した威勢はどこ行ったんだ? まさかそれで満足しましたーはいオワリってわけじゃないよなぁ?」
「……それは」
アカネを倒したという話を広めたのはクラウディアだ。それ以来〈
「それは、なんだよ言ってみろよ」
「分かった、やってやる。本気の喧嘩だ」
「いいねぇ、こっちもノッて来た!」
黒条先生が二人の間に立つ。
「そこまで、いいか。ルールは五分以内の実戦形式。相手の意識を先に奪った方の勝ち。ちゃんと魂を武器化して使う事。それが一番重要だ」
サングラス越しにジンの方を睨む黒条先生。例の体術は使うなと言外に語っている。
「了解でーす。さあ早く始めようぜセンセイ!」
ワタルが黒条先生を急かす。
「分かった分かった。では両者位置について……よし、勝負開始!」
対峙する二人、黒条先生が距離を取った瞬間、それが合図だった。
武器を構える二人。一人は不可視の刃〈
(緑色の……狙撃銃!?)
魂の武器化による身体強化は武器の
(短期決戦、相手に撃たせる前に斬る!)
〈
「もらった!」
「――いいや俺の方が速い」
遅れて届く銃声、音より早く銃弾が飛んだ結果だった。穿たれたのはジンの肩だった。弾が食い込みジンの動きを止める。
「――何時の間に」
引き金を引いたのか聞く声も出なかった。
「最初さ、俺ってば早撃ちなんだぜ?」
だがまだ一発貰っただけ。まだ挽回のチャンスはあるとジンは思考を巡らす。しかし。
「もう何をしようよ遅いぜ? 俺の〈
「……まさか毒!?」
「ピンポーン。英語の授業はちゃんと受けてたみたいだな? アハハッ!」
ジンの視界がブレていく、思わず膝を附く。
「はぁ……はぁ……」
〈
「お? なんだなんだ? ナイフが伸びでもするのか?」
ブッブー、不正解だ。ジンはそう心の中で呟いた。トリガーを押す。一直線に射出される刃。それはワタルの胴体を貫いた。
「――――は?」
思わず自分の傷跡を見やるワタル。魂への衝撃、物理的な痕はないが、魂を武器化出来る人間、黒条先生曰く〈
「何をしやがった」
両膝をつくワタル、〈
倒れ込むワタル。傷口に喰い込んだ銃弾を〈
「――そこまで! 勝負あり!
辛勝、であった。
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