第7話 対不死鳥戦
〈
ジンは1-Dの教室に行くとクラスの注目の的になる。
「なんだその髪!?」
「まさか、お前……」
「ウソでしょ!? 〈
「昨日まで、〈
ジンは思わず頬を人差し指で掻く。
「あはは、ちょっとね」
そこに黒条先生が現れる。
「おーう、俺との修行の成果だ。少しは見直したかお前らー」
さらに教室がざわめいた。
「マジかよ」
「先生スゲー!」
「さすが〈
拍手喝采であった。
「おう、いいぞいいぞ。もっと褒めろ」
生徒がぞくぞくと黒条先生へと集まり黒山の人だかりになる。その横を通って騒ぎの中心から抜け出すジン。そこに通せんぼするかのように現れる人影。クラウディアであった。
「すごいね。こんな短期間で〈
「これでも大変だったんだぜ?」
少し調子に乗ってみるジン。クラウディアはそれを見てくすっと笑ってみせた。
「なんか新しいおもちゃを買ってもらったばっかりの子供みたい」
「なんだよ、それ」
少しむっとなるジン、クラウディアは慌てて両手を振ると。
「ごめんごめん、違うの。バカにしたわけじゃないの」
「ホントかよ……」
「ホントホント。それよりさ、ジン君。なんで〈
『どうやって』ではなく『なんで』それまでに至る道筋ではなくその先に続く未来の事を聞かれているのだとジンは思った。だから真剣な眼差しで答えた。
「宝玉アカネに勝つためだ」
一拍の沈黙。クラウディアはまたもくすりと笑う。
「本当に。面白いね君」
「俺は本気だ」
「分かってるってば。バカにもしてない。うん。私も賭けてみようかな。君の勝利に」
「お前、アカネ先輩に倒されたがってたじゃないか。いいのか俺が先に倒しちゃって」
「勿論、いつかアカネ先輩には私を倒してもらいたいよ? でもね、ジン君がアカネ先輩を超える存在になるって言うんなら――」
そこで無意味に身体をその場でくるりと一回転させるクラウディア、
「私は、代わりにあなたに倒されたい」
ドクンと心臓の高鳴る鼓動が聞こえた。それはこちらを向いた時のクラウディアの艶やかな視線のせいだろうか。それともその言葉に乗った色香からだろうか。
「……ああ、アカネ先輩を倒したら次はお前だ。クラウディア」
「ふふっ、楽しみにしてるよ? ジン君☆」
去って行くクラウディア、予冷が鳴る。授業の時間だ。
授業が終わり放課後になる。
「黒条先生!」
ジンは黒条先生へと駆けよった。
「んだよ。また修行行きたいとか言う気か? 言っとくがアレはホントに秘中の秘なんだ。まだ一年生のお前をそうなんども連れてはいけねーんだよ」
「違います。宝玉アカネ先輩の居場所を知りませんか?」
「あん? 宝玉の居場所? お前まさか昨日の今日でリベンジマッチ仕掛けるつもりか!?」
「はい」
「おいおい、まだスペツナズ・ナイフにも慣れてないだろうに。勝算あんのか?」
「……俺、負けっぱなしは嫌なんです」
「……ったくせっかちなヤローだな。まあいい。宝玉の教室なら2-Aだよ。ほらさっさと行かねぇと帰っちまうぞ」
「ありがとうございます!」
駆け出すジン教室出ていく。
「廊下は走んなよー……って聞こえちゃいねぇか」
辿り着いた2-Aの教室。上級生の教室、下級生にとって異質な緊張館がある場所、意を決して扉から教室内に顔を入れる。辺りを見回す。見つけた赤い髪の色。
「あの! 宝玉先輩!」
赤い髪がこちらを振り向く。
「ん? お前はたしか一年の、その頭――」
〈
「空沢ジンです。リベンジに来ました」
それを聞いて椅子から立ち上がるアカネ。
「ほう。私の能力を知ってなお、勝とうというのか?」
「はい」
「……いいだろう。場所は前回と同じでいいな?」
「……じゃあ!?」
「ああ受けてやる。お前のリベンジとやら。無論、返り討ちにしてやるがな」
「俺はもう負けません。絶対に」
二人は教室から場所を移した。
第二演習場。
広々とした室内の
中心から少し離れたところで互いに向き合う二人。赤と白。めでたくもあり、対立しているという暗示でもあったのかもしれない。偶然だが。
「先に意識を失った方の負けだ。しかし私は何度でも蘇る。だから負ける事はあり得ない」
「その不敗伝説も、今日までです」
〈
「その自信はどこから来る? 〈
「……俺は不死鳥を狩ります」
「――っ!?」
アカネの纏う空気が変わった。
「なるほど。誰に聞いたか知らんが。そう言う事か。ならばこちらも本気で行かなければいけないな」
〈
「この不死鳥、簡単に狩れると思うなよ!」
勝負開始の合図だった。
(スペツナズ・ナイフ!)
真っ直ぐに切っ先を向けていた〈
しかし、一瞬、糸の切れた操り人形のようにぐらりと体勢を崩すもそれは本当にわずかな時間。すぐに己に〈
「不可視の刃を射出したか! 面白い!」
刃を振るうアカネ、辺りに炎に包まれる。
「〈
「一の段……?」
炎の熱さで頭が茹るジン。しかしなんとか意識を保つ。
「次刃装填――!」
〈
切っ先をアカネに向ける。トリガーを押す。射出される刃、高速で突き進みアカネの胸元へ――
ガキィン!
何かが弾かれるような音。アカネが〈
「どうやら弾道は直線的らしいな!」
(もう軌道を読まれた!?)
驚いている場合ではない。〈
「〈炎気〉、二の段〈
炎が大顎を開いてジンを飲み込もうと襲い掛かる。それをもろに喰らうジン。炎の中、その熱気に全身を焼かれ意識を手放しそうになる。そこで〈
「ほう、二の段を耐えたか。だが次はどうだ?」
またしても〈
「〈
空中に燃える
だがしかし。
「実体がある……?」
「ほう、よく見抜いたな。そうだ。この不死鳥達には実体があり私の矛にも盾にもなる最強の技だ」
「…………よな」
「……? なんだ命乞いか?」
「いいよな祖父ちゃん、燃える化け物相手なら使っても!」
「お前、何を……?」
ジンは〈
そして構えを取る。右手を前に、左手を後ろに、右足を後ろに、左足を前に。
「お前、まさか武器をしまったのか!?」
うろたえるアカネ、しかしジンは構わず突貫する。飛び上がり不死鳥の一体を捉える。
「
その蹴りの一撃で不死鳥は地面に叩きつけられる。
「…………は?」
そして反撃の猛攻はまだ続く。地面に落ちた不死鳥に近づくジン。不死鳥は自律的に動きジンに襲い掛かる。しかし。
「絡み取れ、
その燃える嘴を掴み取り他の不死鳥へと叩きつける。焦げ付く自分の手など気にしない様子で。
「これで二体、あと一体」
「――っ!! 舐めるな!!」
残された不死鳥の一体が巨大化する。それを突撃させるアカネ。
「上等、そっちから来るなら望むところだ」
両腕を前に出すジン。包み込むような動作。
「
炎の塊を掴み捻る。首を捻られた不死鳥は地面へと倒れ伏す。両腕が焦げているというのにジンはさして気にしている様子もない。
「……化け物が」
「これは化け物退治の技だ。化け物以外には使わない。なのに心外だな。そんな事言われるなんて」
「紳士気取りか、人外め。お前まさか〈
「あんな化け物と一緒にするな」
「――あんな? お前、〈
「……秘中の秘じゃなかったのかよ」
「ああ、そうだ。〈
「じゃあなんでアンタは知ってるんだ」
「それは私がお前と同じだからだ」
「――! まさかアンタも!」
「ああ、〈
「同族ってわけだ」
「ああ、そして同胞には、それなりの歓迎をしようじゃないか。〈
炎が渦巻いてアカネへと集中する。その炎は集まり。極大の光源へと変化する。
「〈
「フェニックスどこ行った!?」
「ふん、こんなもの気分で付けたにすぎん。名前に意味などない」
極大の炎、しかしこのピンチこそジンにとってのチャンスであった。
(今、相手は力を溜めているから隙だらけ、狙うなら今……!)
〈
「馬鹿の一つ覚えか、それは通じないと分からないのか?」
「最初に俺の一撃が入った時、確かに見えたんだ」
「……何が」
「アンタの後ろに揺らめく陽炎が」
「――っ!」
「俺は不死鳥を狩る!」
トリガーを押す。射出される〈
「穿て、
刀とアカネの間、虚空に揺らめく陽炎。そこに不死鳥の脚が現れる。その鉤爪で起用に〈
「これが無限再生の絡繰りか!」
不死鳥が吠える。辺りが軋むような錯覚に襲われる。恐らく〈
「こいつを倒せば俺の勝ちだ……!」
逆手に〈
「祖父ちゃん……今なら禁じ手使ってもいいよなぁ!」
ジンが祖父から教わった、禁じ手。それは幼いジンにはまだ刃物は早いという事で使わせてもらえなかった刃を使った技の事だ。
「
不死鳥に〈
「
不死鳥の首を螺旋に斬り付けるジン。そして頭部へと到達する。
「
不死鳥の頭頂部に〈
深く突き刺さる〈
パチパチパチと手を叩く音が聞こえる。ジンとアカネ以外この場所にはいないはずなのに。思わず後ろを振り返る。そこに居たのは。
「クラウディア?」
金髪碧眼の少女だった。彼女は一頻り拍手した後。
「おめでとうジン君。これで次の私のターゲットは君だよ」
「……それ、讃えてるつもりなのか?」
「うん! とっても! 今私すごくいい気分なんだもん! 爽快って感じ!」
「そりゃ良かったな、それよりちょっと手伝ってくれないか? アカネ先輩を保健室まで運ばないと、でも俺、両腕焦げてるし――」
そうジンが言い終わる前であった。
「心配いらないよ? 二人とも私が運ぶから」
金の銃を取り出すクラウディア。それを見て思わず〈
「――遅いよ、それじゃあ」
いつの間にか後ろにいる。魂から生成される武器による身体強化、それはリーチによって変化する。そのリーチというのは単純な長さだけではなく、射程距離なども含まれる。つまり銃という超長距離を狙える武器から得られる身体強化はわずかなものだ。そのはずだ。
「……これが〈
「また明日ね、ジン君」
乾いた発砲音が第二演習場に響き渡ったのだった。
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