第3話 上限者


 第二演習場。ジンがアカネに敗北を喫した場所。こんなにも早く戻って来る事になるとは。

「さてルールは簡単、相手をKOノックアウトしたほうが勝ちだ。ただし今回は〈上限者〉としての『権能』の使用は今回は禁止とする。この演習場は権能に耐えられるほどの強度はないからな。その時が来たらグラウンドの方を使う事になるだろう」

「りょーかいです☆」

 クラウディアが敬礼する。

「ったく……まあいい構えろ」

 〈漆黒の鞭ブラックウィップ〉、その名の通りの黒い鞭、長さは二メートルほどだろうか。対するクラウディアは。

「模擬戦とはいえ戦うのは久々だなあ!」

 現れたのは黄金の拳銃。武器のリーチとは単純に武器の大きさを指すモノではない。銃のたぐいは身体能力の向上はいくらサイズが小さくてもあまりその恩恵を受けることが出来ない。純粋な能力勝負となる。

「さてじゃあ試合開始で……いいな!」

 いきなり黒条先生が仕掛ける。漆黒の鞭があらぬ方向へと飛んで行く狙いを誤ったのかと思ったが違う。鞭が伸びた演習場を駆け巡り漆黒の檻を形成していく。

「へえ、自由にリーチを変えられるんだ。流石〈上限者〉だね、じゃあこっちも!」

 今度はクラウディアがあらぬ方向に黄金の拳銃を向ける。撃った。壁に跳弾した弾があちこちへと飛び回りこちらも黄金の結界を形成する。

 互いのバトルフィールドを展開した両者。そこからは膠着状態。どちらのエリアが相手のエリアを侵食するのが先かの勝負になる。

 そうジンは考えていた。しかし違った。汗を滲ませる黒条先生、笑うクラウディア。

 光の結界は漆黒の檻を押していた。

「まさかここまでとはな……確かにお前は〈上限者〉だよ」

「お褒めにあずかり光栄です先生☆」

「だがなこれで終わりじゃねえ」

 漆黒の檻から一撃が飛び出す、クラウディアの背中、死角からの攻撃、普通ならば避けられない。しかし。

「甘いですよ、セ・ン・セ・イ」

後ろを振り返る事無く銃だけを攻撃へと向けるクラウディア。一撃で漆黒を撃ち落とす。

「チッ、小手先じゃ駄目か」

「次はこっちの番です」

 銃口を黒条先生へ向けるクラウディア。ナオトは漆黒の檻から鞭を集め防御を固める。

「それじゃ足りないです先生」

「なに?」

「〈総撃フルバースト〉!」

 黄金の結界から銃口が飛び出す三百六十度からの一斉射撃。ナオトも漆黒の鞭の変えリーチも最短に縮めた。身体能力を向上させ銃撃を躱す気なのだ。

「だーかーら、甘いですよ先生」

 最初は銃撃を躱していた黒条先生。しかし様子がおかしい。。連射してきているわけでもない。違う。

「追尾式かよ!」

「まだ弾はありますよ先生?」

「だったら!」

 駆ける黒条先生、クラウディアに迫る、懐に追いかけてくる銃弾ごと飛び込む作戦だ。

「近づかせるとでも!?」

「行ってやるさ!」

 バックステップでナオトと距離を取るクラウディア、しかしそこで異変に気づく。

「足になにか……!?」

「捉えた!」

 漆黒の檻をクラウディアの影に潜ませていた鞭で彼女の足を絡め捕ったのだ。

「卑怯者!」

「なんとでも言え!」

 クラウディアの眼前に迫るナオト。銃と鞭が交差する。

 バァン! バシン!

 同時に一撃を見舞う音が演習場に鳴り響く。

 脳天に鞭を叩きつけられたクラウディア。

 胸に銃撃を喰らわされた黒条先生。

 勝負は引き分けだった。


 二人は意識を失い保健室へと運ばれていった。

「あれが〈上限者〉……ただ武器を振り回すだけの私達とは全然違う……」

 クラスの誰かが一人ごちる。

「だけど、あれが俺達の目指す場所だ」

 答えなど求めてなかったであろう独り言に答えを返すジン。

 ジンは先ほどの戦いを見て己が進化の道を見出そうとしていた。

(リーチの変更、そして〈上限者〉の権能……は見られなかったがいつかものにしてみせる)

 不可視の刃、不完全な武器を持つ少年は己が進むべき道を見出すのだった。

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