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 終業式は、全員が座れるくらいの広さの講堂で行われる。昭和の初め頃にある有名な外国人建築家によって建てられた建物で、文化財としても指定されている、と入学時に習った記憶がある。

 故に、空調設備がちゃんと付いておらず、この時期はちょっと寒い。


「桜は春に咲いて散る、その刹那性が美しいと言われる植物です」

 

 前では生徒会長が演説をしている。三編みとメガネというものはこの人のために生まれたんじゃないだろうかと思うくらいよく似合っている人で、確か、高千穂先輩、白井先輩共通のお友達だった記憶がある――名前が思い出せないのだけども。


 会長さんの演説は、校名と交えて桜をテーマに話をしているようだ。


「私の好きな句に、伊勢物語の『世の中にたえて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし』というものがあります。現代語訳しますと、『この世の中に桜の花がなければ、この春というものはどれほどのどかだっただろうか』といったところでしょうか。

 いろいろな解釈があると思いますが、この桜がない世界を想像することで桜のありがたさを感じる、背理法的な着想に深い感銘を受けられる句です。

 ここで、同じ『桜』が付くだけ、で話をつなげるのはいささか強引かもしれませんが、我々も同じように『洛桜が居なければ、なんとつまらない社会になっていただろう』など思っていただけるような学校づくりをしていきたいものです」


 全校の拍手で会長さんの演説が終わると、会長さんは壇上から降りて、列中頃の長椅子へと戻った。


 あれ?


 僕は席に戻る会長さんに違和感を得た。


 この学校では、講壇側から三年生、二年生……と、前から座ることになっている。


 そして、今日は三学期の終業式、三年生はもう卒業しちゃっているから、二年生が一番先頭にかける。

 ところが、生徒会長が戻ったところはどう考えても本来『一年生』の席、なんならよくよく考えると居ないはずの『三年生』が先頭に掛けている。

 どうした、全員単位不足で留年したんだろうか。いや、そんなはずはない。もっというと、講堂が少し広い気がする。なんの気なしに千代田の横に座り、『三年が卒業したから場所が変わったのか』なんて思っていたけれども、一瞬後ろを振り返ると数列空席があって、あきらかに『無かった』列が増えている。


 なんでだ、と混乱していると、いつの間にかに終業式は終わってしまっていた。


 ○


「やあやあ旭君」

 ちょうど、講堂を出たところで、高千穂先輩が僕を待っていた。

「えっと、前部室に来たときにはまだ決まっていなかった、春休みの予定なんだけど――」


 そう言って、来週のミーティングの予定、週末から行く北海道旅行のお金や準備物の話を色々としてくださった。北海道旅行は寝台超特急「はやぶさ」で行くらしく、夕方五時前に京都駅に集合らしい。


 先輩は早口で一通り話し終えると、ふう、と息をついた。


「こう、スマホというものがないだけで、ちょっとした連絡でも割と一苦労だね」

「本当ですよ。今朝もスマホが壊れていることを知らなかった千代田に『また事故にあったんじゃないか』なんて心配されましたよ」

「おう、それは千代田君も無駄な心配だったね。さっさとスマホは買い直さないの――って加入証明が高知なんだっけ」


 出た、謎の加入証明。僕は声を小さくして、先輩の耳元で話す。


「その、加入証明ってやつがよくわからないんですけど、なんなんですか? 今朝伯母さんにスマホ代とそれをもらったんですけど、何に使うのかわからないんです」


 先輩ははあ、と首を斜めにする。


「別に電話局に買ったスマホと加入証明を提出すれば開通手続きをしてくれるだけの話だと思うけど…… なんなら、中学生の子でも一人で行けるんじゃないのかな」

「今、なんで電話局なんて昭和の代物が出てきたのかすら理解の外ですよ。電電公社が民営化されて何十年経つと思うんですか」


 今度は先輩は僕の言っていることがいまいちよく分かっていないようで、「えっ」「電電公社って民営化できるの……?」などとつぶやいている。


 なるほど。国鉄が残っているから、電電公社も残っているのか。


「あー…… えっと――そうだね、今日の放課後、私も暇だし、二人でスマホ、買いに行こうか」


 ということで、先輩と二人っきりでお出かけをすることになった。

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