第4話

 朝の教室には妙に気怠さが漂う。席に座った江古があくびをしながらスマホをいじっていると、

「リンちゃん!」

 妙に切羽詰まった様子の小目がバシンと机を叩いてきた。

「ちょっとこっち来て! 緊急事態!」

 朝から騒々しいなと思いつつ、彼女に連れ出されて向かった先は人気のない階段下だった。

「なんだよこんな場所で」

「なんか、ラブレターが入ってた!」

 ボールペンで『小目標 様』とだけ書かれた簡素な封筒を渡される。

「今時ラブレターって」

 半笑いで受け取り、中の手紙を読む。

 先日、おばあちゃんを助けている小目さんを偶然見かけました。そんな優しいあなたが好きです。お返事待っています。

 そういう内容が、丁寧な文字と飾り気のない文章で綴ってあった。

 その武骨さが逆に、送り主の純朴さを感じさせた。

 表情筋が力を失う。

 胸にじりっとした熱がともる。「なんで告る奴ってみんな敬語になるんだろうな」とっさに、便箋をひらひらとさせて茶化すように言った。

「ねえ、これどうしたら良いの?」

 普段の能天気な顔ではない。上目づかいで、教えを乞うように尋ねてくる。

 自慢するためでも、雑談の種としてでもない。本当に困っていて、江古を頼ってきたのだとわかった。

 槍でも降ってきたほうがマシだったなと思った。

「知るか。好きにしろよ」

 送り主の名前を見る。クラスメイトではあるものの、喋ったことがあっただろうかと首を捻るくらいには印象が薄い。多分、過去自分に告ってきた人ではなかったはずだが、その男子生徒が良い人か悪い人かなど、一匹狼を貫く江古にわかるわけもなかった。

「こういうのって受けたほうが良いのかな。なんか断るのも悪い気がするし」

「だから知らねーって」

 うんざりしたように言う。 

 棘のある声に、小目が首を傾げた。

「リンちゃん、なんか怒ってる?」

「寝不足なんだよ」

 ストレートな問いかけに、金髪が乱れるのに構わずガシガシと頭を掻く。

 胸やけのような感覚が余計に苛立たせる。夜更かしなんてするもんじゃねえなと昨晩の自分を呪う。

「アタシが親切じゃねぇって事は知ってんだろ。相談事なら他の奴にしろよ」

 他人の色恋沙汰に興味などない。

 自分が永遠に手に入れられないとわかっていながら、他人のソレを楽しむことなどできるはずがないのだ。

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