短編集〜愛読書に捧ぐ〜
サンライズ
第1作品ー鍵と猫と…
貴方は猫を知っているだろうか?
そう、気ままで暖かい所で丸まって眠るのが好きなあの猫である
今宵ここに記すのは正しくこの猫についてだ
男は昨晩家中の鍵を閉めた事を確認し床についた
そして男が目を覚ますと目の前には1匹の猫が居た
暗く今にも闇に飲まれてしまいそうな真っ黒でそこにルビーを置いたかのように目立つ深紅の瞳を持った猫だった
男はその猫に話し掛けた
何処から来たのか
何をしに来たのか
何のため来たのか
そうして猫が返事をする訳もないかと己の行動を顧みて苦笑しドアの鍵を開け放った
さぁ、猫さん住処へおかえり
しかし猫は一向にそこから動く気配を見せない
よく見ると微かに体が震えている
慌ててタオルで体を拭いてやりホットミルクをついでやった
それを猫が三口四口と舐める事に黄金色の風が1つ又1つと吹いた
男がそれに驚き惚けていると猫が話しかけたのである
礼を言う其方は何か欲しいものがないか褒美をやりたい
そう言われても男は特段欲しいものは無かった
今のそこそこ働き
そこそこ遊び
そこそこ酒が飲める
そんな悠々自適な生活で満足していたのである
素直にそう話すと猫はふむ…と1つ悩ましげに息を吐くとでは我が住処に招待しようと呟きさっきとは比べ物にもならない黄金色の風を巻き起こしたのである
男が何事かと言うよりも先に男は風と共に消えてしまった
部屋には男も、猫も初めから有りはしなかったかのようにロウソクの火を零しながら再び闇へと沈むのであった
男が目を覚ますとそこは背の高い森であったその中でも一際大きな木に先程の猫が丸まっている
今にも闇の中に落ちてしまいそうだ
猫は起き上がり1つ欠伸をしてから言った
おの子よ礼として我が眷属の一柱へと迎え入れよう
さしあたっては何か用がある迄皆と同じく眠ってるが良い
男が勝手に何を言っていると前に1歩踏み出そうとしたが体が動かなかった
足を見るとそれは太い1本の幹へとなり大地へ根を張っていたのである
余りの恐ろしさに叫び声とも聞こえる声で猫に問いかけた
何故、何故こんな事をした!
私が何をした!
そんな声はこだましやがては途絶えたのであった
そんな森にポツリと猫は呟き又つまらなそうにまるまり夢の世界へと足を踏み入れるのであった
“吾輩は自由の象徴の猫”
“自由を束縛する鍵で自らを閉じ込めたお主を憂い名誉ある我が眷属にしてやったまで”
“なに、鍵に束縛されるか我に束縛されるか等些細な違いであろう”
ここに記したのは数多ある“闇”の中へと沈んだ不伝の昔話の1つに過ぎない
貴方は知らない誰も知らないしかし確かにそこに存在したそうゆう類の昔話である
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