Endless Mysteries [バ編]

──さぁ、戦闘開始だ。



(  ˙³˙  )



「じゃあいつになったら帰ってくるの!?」


 スマホ越しに亮のキレキレヴォイスが耳に突き刺さる。帰りがそれなりに遅れそうって連絡したらこうなってしまった。


「分からないけど、なるべく早く帰るって」


「ほんとなの!? この前、帰って来なかったじゃん! そうやって男は他の女の子のとこに行ってるってお母さんが言ってたよ!?」


 意外と根に持ってやがる。それから母さんとは後で話し合う必要がありそうだ。余計なことを教えやがって。


「ホントだってば。仕事が終わったらちゃんと帰るよ」


「……証拠は?」


 !?

 

 凄くめんどくさいこと言い出しよる。


「浮気じゃないって証拠は?」


 圧がしゅごい。普段のアホいお子ちゃま亮と同一人物とは思えない。

 というか、そもそも俺の認識では付き合っているわけではない。もっと精神的に成長してる人間相手じゃないと付き合うって感覚にはならない。


「どうして黙ってるの!? やっぱり今も女の子と居るの!?」


 如月さんは女の子って感じじゃないよなぁ。


 如月さんを見るとニヤニヤしてる。クッソ!


 亮はどんどんヒートアップしてる。なんか変なスイッチ入っちゃったみたいだ。

 これってもはや論理的、客観的な証拠を出しても納得しないやつだろ。

 ……仕方ないなぁ。


「……ひどいよ! お嫁さんにしてくれるって約」


「愛してる」


 感情的証拠(笑)で攻めるしかないじゃん、やだー。


「そ……く……」


「俺が愛してるのは亮だけだよ。怒ってる亮も笑ってる亮も泣いてる亮もどんな亮も全部愛してる」


 全てが嘘というわけではない。


「………………ぅん」


「ごめん、そろそろ次の現場だからまた後で。亮も浮気するなよ。じゃあな」


「ぅん……」


 通話を終える。

 まったく! 手間取らせやがって。そういう態度だと浮気されるんだぞ!


「結城君もなかなかやるな。そんなセリフを言うとはな」


 如月さんがサディスティックな笑みを浮かべる。エリート然とした雰囲気と絶妙にマッチしてて需要ありそう(小並感)。


「見え見えの子ども騙しですよ。いつまで通用するのやら」


「……君なら口先三寸でなんとでもできそうだが?」


 俺のイメージよ!



















 第四の事件は明暗めいあん市の商業地域にある3階建てアパートの一室で起きたらしい。

 到着するとまだ鑑識チームが盛んにお仕事をしていた。もう少し落ち着いてから入ろう。


 人通りの多いごちゃごちゃとした道路でぽけーっと待っていると青い作業服を着た姉ちゃんが近づいてきた。鑑識官だ。


「お疲れ様です。如月巡査部長と結城さんですね。鑑識作業が一段落する前に現場の状況をお伝えしに来ました」


 如月さんが受け答える。


「助かります。現場はどんな具合ですか?」


「ガイシャは本多優奈ほんだゆうなさん、14歳。305号室のリビングで血を流し死亡していました。第一発見者は父方の叔母の田辺たなべ加代子かよこさん。田辺さんが来た時点では玄関は施錠されていたそうです。刃物によるものと見られる傷があり、他殺かと思われますが、現時点では凶器は特定できていません。また、壁には例の文字があります」


 また同じパターンか。

 

 しかし続く鑑識さんの言葉が俺たちを驚愕させた。


「今回はこれらに加え、ダイイング・メッセージがありました」


 マジでびっくりだわ。そんなのガチであるもんなのか。


 如月さんも驚いて少し前のめりだ。


「内容は?」


「フローリングの床に自らの血で『父』と書かれています」


 うっわ。これってどうなんだ? こういう場合の証拠能力はどれくらいだったか。

 えーと、重要度、非代替性ひだいたいせい情況じょうきょうを前提としたダイイング・メッセージの信用度によってはワンチャン証拠になるとかだったか?

 またややこしいのが出てきたな。しかも、ポピュラーな探偵物語に喧嘩けんかを売るかのようにシンプルに犯人を教えている……ように見える。

 他の事件を併せて考えると目眩めくらまし用の偽装工作に思えてならない。

 ……罠か?


 とはいえ無視するわけにもいかない。まずは父親の情報だ。

 その点は俺と同意見なのだろう、如月さんが鑑識さんに父親について質問する。


「父親の事情聴取は開始してますか?」


「第一発見者の田辺さんに連絡してもらったんですが、仕事を抜け出せないらしく、まだ手付かずです」


 んー、どう捉えるべきか。

 本当に仕事が忙しすぎる場合、娘なんてどうでもいい又は関わりたくない場合、事件に関する“何か”が原因で来ない又は来られない場合、事件とは無関係な、仕事以外の事情がある場合、そしてこれらの複合。

 パッと思いつくのはこんなもんか。


 俺も会話にざろっと。


「父親はどんなお仕事をなさっているんですか?」


「妹である田辺さんによると、夜のお店で生計を立てているようです。所謂、黒服ってやつです」


 ふむ。今は19時30分くらいか。土曜日ということを考えると確かに忙しいかもな。


「田辺さんはどこに居ます?」


「3階の廊下でお話を伺ってます」


「ちなみに母親はどこに?」


「母親は優奈さんを出産した際の子宮破裂が原因で亡くなっています」


 なるほど。「娘のせいで妻が死んだ」と曲解した父親による復讐と考えることもできる。

 ここでもそれっぽい動機が簡単に見つかるな。だが怪しい。


 うーん。


 俺が悩んでいると如月さんが「行くぞ」とだけ言い、返事も待たずにアパートへ突撃してしまった。

 鑑識さんと見合わせる。


「俺たちも行きますか」


「ですね」









 

 






 3階に着くと鑑識さんは現場の305号室に行ってしまった。

 廊下では如月さんが田辺さんに話し掛けている。他の刑事たちの事情聴取が終わったと思ったら今度は眼鏡の厳しそうな人である。かわいそう(笑)。

 まぁ、俺も加わるんだけど。ゲヘヘ。


 田辺さんの第一印象は神経質そうな人だ。


「こんばんは。私も交ぜてください」


 仲間に入れてよー!


 田辺さんは怪訝けげんな顔で迎えてくれた。


「あなたも刑事さん? かなりお若いようですけど……」


「私は探偵の結城です。依頼により捜査に参加しています」


 驚きを顔全体で表現してる。大げさやなぁ。

 でも気持ちは分かる。探偵が殺人事件の捜査だもんな。珍しいよな。

 

「どこかで見たことがあると思ったら空器からき村の事件を解決した名探偵!」


 そっちかよ! 顔写真は放送されてなかったはずなんだけどな。なんで知ってんだ。


「どうして私の風貌を知っているのでしょう?」


「『女霊じょれい自身』で特集されていましたよ」


 あ、女性週刊誌か。あることないこと書かれてそうだ。


 ここで如月さんが軌道修正。


「それより事件を」


「すみません。何からお話ししましょう?」


 そうだな。まずは娘さんと父親──本多弘ほんだひろしさんの仲かな。


「では優奈さんと弘さんの家族仲はどうでしたか?」


 同じ質問をされていたのだろう。即答する。


「特別良くも悪くもないですね。優奈ちゃんは思春期にしては手のかからない子でしたから」


 おっと。いきなり動機が揺らぎ始めた。


「弘さんは優奈さんについて普段何かおっしゃっていましたか?」


「……特に何も言ってなかったです」


 ふむ。


 次は如月さんが質問する。


「優奈さんに怨みを持っている人物に心当たりは?」


「居ません! 優奈ちゃんは本当にいい子なんです」


 田辺さんが少し怒声混じりに否定する。


 本当にそうなら怨恨説が崩れかねない。

 じゃあ動機はなんだ? まさか無差別な通り魔的又は愉快犯的犯行ってことはないよな。それはやめてくれよ、ややこしい。

 ストレートに訊いてみよう。


「率直にお伺いします。事件の犯人はどのような人間だと思いますか?」


 これにも田辺さんはすぐに答える。


「分かりません」


 ただし答えられないと答えるだけだが。


「では、優奈さんは今日はずっとご自宅に居たのですか?」


「そうだったはずです。今日は出掛けないと言っていました」


 うーん。田辺さん自身に怪しい所は無いように思える。


 俺たちの対応をしてくれてた鑑識さんが屋内の現場から戻ってきた。


「もう中に入っても大丈夫ですよ。あ、田辺さんはまだです。ごめんなさい」


 じゃあ中を見させてもらおうかな。


「私はもう少し田辺さんにお話を伺う。先に行っててくれ」


「分かりました」


 如月さんと別れ、本多さん家にお邪魔する。


 









 


 



 間取りは1DKってやつだ。キッチンがあるリビングっぽい部屋と寝室の2部屋。

 リビングの壁には大きく例の暗号が書かれており、床には血で記された「父」という文字がある。血文字は手のひらより少し小さいくらいのサイズだ。

 予想の数倍はっきりしている。

 血で文字を書くのは大変そうとか思っていたから普通に予想外だ。

 というか、モヤモヤと違和感を覚える。


「このダイイング・メッセージなら解釈で揉めないですね」


「我々としては助かります」


 だなぁ。


 しかし父である弘さんが犯人なのだろうか? わざわざ死の直前に嘘をつく意味はあるかな? あんまり無いよな。

 じゃあやっぱり本心……? でもこの形式なら優奈さん以外の人物が優奈さんの指を使い、文字を書くこともできるしなぁ。


 あ、違和感の正体はこれか。


 仮に弘さんが刺殺犯だとすると(=優奈さんがダイイング・メッセージを書いたとすると)、殺害対象が「父」の文字をこんだけはっきり書いてるのにスルーしているのはおかしい。これが強い違和感を与えていたんだ。

 刺殺後、生死を確認する間もなく部屋から出たならあり得るけど、壁には例の暗号がある。

 暗号を刺殺前に書いてた? それこそ違和感がある。普通、殺した後に書かないか? 不審に思われたら面倒じゃん。優奈さんは自宅に居たみたいだし。2部屋しかないお家でスプレーを使われたら気づきそうだし。実は自宅に居なかった可能性もあるけど……。

 

 いずれにせよ犯人がダイイング・メッセージに気づく可能性が高い以上、弘さん以外が犯人とした方が自然だ。

 そして弘さん以外が犯人とするならばダイイング・メッセージを書いたのは優奈さんではなかったことになる。死のきわにわざわざ父を犯人とするような嘘のメッセージを書く合理的理由が無いからだ。

 

 しかしそれならその犯人がわざわざ死体の指を使い、偽のダイイング・メッセージを残すメリットはなんだ?

 単純に考えるなら父親に警察の目を向けさせ、真犯人である自分を見つけにくくする為だ。

 でもそれだけだろうか? 何か引っ掛かる。

 

「あ」


 もしかして真犯人が復讐したいのは娘である優奈さんじゃなくて父親の弘さん……? つまり娘を奪いつつ、ぎぬを着せたかった……? それであえてダイイング・メッセージを書いた……。


 あ、まさか他の事件も「復讐対象」=「殺害対象」ではなかったのか?

 少し飛躍しているだろうか。……いや大丈夫だよな。むしろこう考えた方がスッキリする。

 

 やベー。どうして気づかなかったんだ。単純すぎる先入観じゃねぇか。

 普段から霊能力にドロドロに依存してるツケかね。やだやだ。


 とりあえずこの部屋に他人が侵入した痕跡がないか聞いみよう。


「──きさん。聞いてますか? どうしちゃったんですか? 大丈夫ですか?」


 やベー。どうして気づかなかったんだ。

 多分、集中してて話し掛けられてると認識してなかったわ。鑑識さんが心配そうに見ている。


「ごめんなさい。考え込んでました」


「よかった。大丈夫なんですね?」


「大丈夫です。ところで誰かが鍵を使わずに侵入した痕跡はありませんでしたか?」


 気になるわ。はよはよ。


「それが痕跡は無いのです」


 あらら。これは無しか。ってことは……。


「現場に田辺さんが訪れた時には、玄関は施錠されていたんですよね?」


「はい。玄関とベランダの掃き出し窓は鍵が掛かっていたとのことです。その他の窓からの侵入も考えにくいので実質的に密室状態でした」


 窓に近づき確認してみる。開けようとしても少しずらすと止まってしまう。

 安全対策だろう。これでは人は通れない。それに、そもそもここは3階だ。玄関以外からの侵入は難しいはずだ。


「ピッキング痕も無いんですよね?」


「ですね」


 ふむ。


「鍵を盗まれたとかって話は出てますか?」


「ないようです」


 であれば常識的に考えると「鍵の正当な持ち主」もしくは「その共犯者」が犯人又は「優奈さんの自殺」ということになる。状況的に自殺は考えにくいからそれは除外。


「ちなみに防犯カメラは?」


「古いアパートですから無いんですよ」


 だよな。見つけられなかったもん。


 ……鍵を持ってそうなのは田辺さん、弘さん、不動産会社、アパート管理人ってとこか。

 となると犯行が可能なのはこの人たちか、その共犯者たる第三者。

 

 まずは単独犯と仮定して考えてみる。

 先述の通り、弘さんは状況(ダイイング・メッセージ)的に矛盾する。除外。では田辺さんは?


「田辺さんにアリバイはありますか?」


「あります。ご友人と買い物していたそうです」


 じゃあ一旦除外する。

 不動産会社やアパート管理人はあり得るか? この事件には関係ある可能性が僅かにあるかもだけど、他の事件とは無さそうだよなぁ。

 一応確認。


「弘さんは不動産会社やアパート管理人とかと揉めたりしてましたか? 家賃滞納とか」


 仮に揉めてても入居者を殺害するメリットは感情面以外は無いけど。つーか悪評的にデメリットだ。


「そういった話は出てないですね」


 なるほど。これは一旦除外気味に保留。


 で、一番怪しい第三者の共犯パターンだ。共犯……共犯……まず動機だ。父に濡れ衣を着せたいなら父に怨みがある人物が妥当。怨みの内容はなんだ?

 ……現時点では分からんな。

 じゃあ共犯の理由は?

 鍵の正当な持ち主も父に怨みがあったとか? じゃあ田辺さんが協力者? イマイチしっくりこないな。でも単に印象によるもんだしなぁ。

 不動産会社やアパート管理人が借り主に怨み? でも揉めてないみたいだし、アパートでの殺人事件発生はデメリットだし、考えにくい気がする。


 んー、分からん。


 ちょっと別方向から見てみよう。

 第三の事件も実質的な密室だった。で、「殺害対象」=「復讐対象」でないとすると、娘である藍子あいこさんが殺されてダメージを受ける人物が復讐対象と考えられる。

 普通に考えたら両親がそれ。怪しい言動があったのは父親である利樹としきさん。

 じゃあ利樹さんと第三者が結託して、奥さんへの復讐をした? でもそれで自分の娘を殺すか? ガチサイコパスならあり得るか? 

 

 でもそれにしては利樹さんは嘘が下手そうだった。サイコパスって嘘が上手いし、利樹さんはちょっと違う気がする。


 じゃあ奥さんが利樹さんへ復讐した? そんな雰囲気なかったけどなぁ。動機もよく分からん。

 

 ん、待てよ。鍵の正当な持ち主が積極的に協力したのではなく、何らかの弱みを握られて第三者に従わざるを得なかった、とか? 脅迫に使える弱みってなんだ? 従わないと不都合な事実をバラすぞ的な? 不都合な事実ってなんだ? 犯罪とかか?

 

「あ」


 ちょっと思ったんだけど、例えば今回の事件で殺された子どもの親が、過去に犯罪をしたけど捕まっておらず、その被害者又は関係者が犯罪の証拠を手に入れて親を脅迫し鍵を奪い、その親へ復讐したってパターンもあるかも。

 それなら利樹さんの言動もしっくりくる。しかも第四の事件も同じパターンなら矛盾しない。

 則ち、父親への復讐は過去に父親から犯罪被害を受けたから。その事実を使って鍵を借り受け、娘を殺害。


 おっと、待てよ。指輪の主がその被害者か?

 指輪を手放していることや復讐で殺人までしていることを考えると指輪の主は死亡している可能性が高い……と思う。つまり殺されている?

 そして脅迫するなら時効前の犯罪のはず。

 確か指輪に2002年6月10日って刻印があった。ってことはその時には生きていた。なら犯行はそれ以降だ。

 実際、人が死ぬ系統(殺人、強盗殺人、強姦殺人、放火殺人、傷害致死、危険運転致死)の被害にあったのが2002年以降なら傷害致死、危険運転致死でも時効はまだだ。平成22年(2010年)に時効期間の改正があったからな。

 

 そして、指輪の主は普通1人だけであることと復讐対象が複数であることを考えると、共犯形態で殺されたと見ていいだろう。

 racheラッヘ連続殺人の被害者の家族には、何らかの犯罪を共同で犯した過去がある?


 そうか、それなら……!


 この連続殺人の動機は集団で婚約者が殺されたことに対する復讐……? 


 結構いい線いってる気がする。これなら筋書きに整合性が取れるよな。


 そして過去の犯罪加害者(復讐対象)として怪しいのは第四の事件では父親、第三の事件も同じく父親、第一、第二は不明。


 なら、まずは2人の父親の過去を洗う!


「……うきさん! 結城さん!」


 !?


 鑑識さんがまた呼び掛けている。ヤバいヤバい。気づかなかった。


「すみません、また考え込んでました」


「やっと返事してくれた。もう、しっかりしてくださいよ」


「そうだぞ。女性を心配させて楽しむのもほどほどにしろよ」


 いつの間にか如月さんも居る。そして俺にそんなひねくれたかまってちゃんみたいな趣味はない。


「如月さんは心配してくれないんですね……」


 構ってちゃんみたいな趣味はない。


「気持ち悪いな」


 ひでー。傷つくわぁ。悲しいわぁ。


「そんなことより何か分かったか?」


「……推理はあります」


 如月さんが「ほぅ」と声を漏らす。


「だけどまだ捜査が必要です。できれば捜査本部の力を借りたいです」


「……まずは聞かせてくれ」


 おkおk。サクッと説明すっか。


 唇を湿らせ、声帯を震わす。



 




 












 22時を過ぎてやっと帰宅することができた。


「ただいま」


 靴を脱いだタイミングで亮がやって来た。雰囲気がいつもと違う。なんか怖いぞ。


「……おかえり」


 静かにそう言って抱きついてきた。


「さみしかった」


「ごめんごめん」


 亮の力が強まる。密着した身体が温かい。


「……」


 え? いつなったら離れんの? つっ立ってんの疲れるんだけど?


「亮? そろそろ……」


「やだ。ずっとくっつく」


「……」


 えー、えー、つ・か・れ・る。


「亮さん」


「だめ」


「……」


 め、めんどくせぇー。


 仕方ない。強硬手段だ。亮の耳に手を伸ばし──すりすり。


「ひゃっ!?」

 

 亮、耳弱いからなぁ。


 拘束が解除された。この隙にリビングへと駆け込み、ソファへと崩れ落ちる。

 

「はぁ、疲れた……」


 亮も来た。横に座る。

 

「ゆう! 耳はズルい!」


「じゃあもう二度と触らないよ」


「それはダメ!」


 どっちだよ。じゃあもう一回。しかし亮に手を掴まれる。


「今はダメ。他の所からにして!」


「……」


 め、めんどくせぇー。


「他ってどこ?」


 亮が少し考える素振りを見せてから答える。


「……おっぱいとか?」


 掴まれた俺の手が亮の胸に押し付けられる。見た感じにたがわず、またブラジャーしてない。形が崩れても知らんぞ。


 つーか最初にそこなの?


「……それよりお腹が空きました。何か食べたいよ」


「まだおっぱいは出ないのです」


 いや、なんでそうなる!?




 



 


 

 




 





 翌日。

 朝っぱらから警視庁のデカイ会議室に来た。これから捜査会議だ。

 話題性のある連続殺人ということで捜査本部は増員され、今は総勢200人ほどが参加している。その内の約100名が会議の開始を仏頂面で待っている。嫌な光景だな。


 三崎管理官が入ってきた。マイクを受け取り始まりを告げる。


「捜査会議を始める」


 さぁ、戦闘開始だ。


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